主役の重さ
スタジオ。
広い。
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同じ場所のはずなのに、
違う。
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「主役、白瀬です」
紹介される。
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拍手。
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軽い。
でも、
逃げ場はない。
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視線。
全部、来る。
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期待。
不安。
興味。
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混ざっている。
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「よろしくお願いします」
頭を下げる。
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それだけ。
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でも、
重い。
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席に座る。
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台本を開く。
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文字が並んでいる。
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いつもと同じ。
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なのに——
違う。
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“全部、自分に来る”。
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逃げられない。
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「……」
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息を吸う。
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少しだけ、
浅い。
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「いきます」
ディレクター。
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収録開始。
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白瀬。
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声を出す。
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「……」
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止まる。
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ほんの一瞬。
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でも、
わかる。
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ズレない。
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ズラせない。
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“正しくやろう”とする。
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それが、
邪魔をする。
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「……カット」
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静か。
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誰も、何も言わない。
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でも、
わかる。
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“違う”。
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「……もう一回いこう」
ディレクター。
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優しい。
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でも、
逃げじゃない。
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やり直す。
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同じ。
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正しい。
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でも、
残らない。
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「……」
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空気が、
重くなる。
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白瀬は、目を閉じる。
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思い出す。
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ズラしていたとき。
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考えていなかった。
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でも——
今は、
考えている。
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“主役だから”。
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それが、
邪魔。
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「……休憩入れようか」
ディレクター。
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助ける。
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でも、
答えは出さない。
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外。
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廊下。
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白瀬は、壁にもたれる。
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息を吐く。
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長く。
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「……めんどくさいな」
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小さく呟く。
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初めて。
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ズラせない。
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「らしくないじゃん」
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声。
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黒崎。
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いつの間にか、いる。
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「……どうも」
白瀬。
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黒崎は、少しだけ笑う。
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「主役、意識してんだろ」
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図星。
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何も言わない。
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「やめろよ」
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軽く言う。
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でも——
本気。
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「お前、それじゃ普通になるぞ」
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一番、刺さる言葉。
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「……」
――――
白瀬は、目を閉じる。
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普通。
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それは、
一番避けてきたもの。
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「……でも」
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少しだけ、声が出る。
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「壊したら、終わります」
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正しい。
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黒崎は、肩をすくめる。
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「壊せよ」
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即答。
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「壊さないと、始まんねえだろ」
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沈黙。
――――
白瀬は、ゆっくり息を吸う。
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吐く。
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「……わかりました」
――――
短い。
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戻る。
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スタジオ。
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「すみません」
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一言。
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マイクの前。
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目を閉じる。
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考えない。
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“主役”を、消す。
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ただ、
声を置く。
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「……来たのか」
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ズレる。
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ほんの少し。
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空気が、
動く。
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「カット」
――――
沈黙。
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でも——
さっきと違う。
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「……それだ」
ディレクター。
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はっきり。
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「それでいこう」
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空気が、戻る。
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いや、
変わる。
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主役。
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でも、
変わらない。
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ズラしたまま。
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成立する。
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収録が進む。
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今度は、
止まらない。
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外。
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白瀬は歩く。
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少しだけ、疲れている。
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でも——
止まらない。
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「……重いな」
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小さく呟く。
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主役。
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簡単じゃない。
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でも——
「……まあ」
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少しだけ、笑う。
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「悪くない」




