9、秘密
「次、アメリア・フィン・ブレデル」
補助官の先生が隣室までやって来て、アメリアを呼んだ。
その瞬間、その部屋中がざわめいた。
「なあ、あの主席、何の魔法持ちだと思う?」
「『ブレデル』って、セフィルラ侯爵家だろう?絶対、適正の数凄いだろう?」
「いいなあ、持ってる奴は違うよなあ」
小声で交わされる、アメリアへの予想と羨望。
だがそれらは、大きく検討違いだった。
アメリアは公には2つ或いは3つの魔法しか使えない。
水と光。氷は適正はほんの少しあるが、まだ未習得。
これがアメリアの適正の評価だ。
氷が僅かながら使える可能性があることは有望だが、セラフィラ侯爵家は国防を要とする戦闘に特化した家系。Vasiquiが2つのみしか使えない点で、アメリアは侯爵家では落ちこぼれと見なされていた。
『せっかく、あのラーシャの生き残りだっていうから期待したのに』
『は?役立たず。魔物に食われちまえ!』
そんな容赦のない言葉を掛けられたのも、一度や二度では済まなかった。
だがそれはあくまでも「アメリア・フィン・ブレデル」の場合である。昔、ラーシャにいたディアナ・フォーレという少女は全く違った。
水・光の魔法に、ほんの少しの氷、そしてRarudの魔法が使えた。しかも彼女は膨大な魔力持ちだが、その中で最も適正をもつのが、水や光、氷でもなくRarudなのだ。
そして最も重要なのがその魔法は、未だ嘗て彼女以外にその適正を持つ者は現れていないということだ。
その魔法の名は、「幻夢」。
アメリアがセラフィラ侯爵家に養子として引き取られ、ディアナの名を捨ててから、アメリアは幻夢の魔法を封印した。その魔法はラーシャという閉ざされた場でこそ使えたが、侯爵令嬢となっては使うにはあまりにリスクが大きかった。幻夢の魔法はときに美しく、ときに便利で、未発見のRarudの中でもかなりの可能性を秘めた魔法である。他の諸々の事情から見ても、人前で使えば最悪死ぬまで、魔法の研究対象になってもおかしくなかった。
セラフィラ侯爵家に引き取られた際も、アメリアは魔力検査を受けた。しかも国防を担う一族ということで王宮の隅の魔法研究所で受けてきた。
では今まで、どうやってその評価を誤魔化してきたのか。
じつは答えはとっても簡単。
「幻夢」の魔法だ。
研究所も学園と同等、いやそれ以上の検査施設が備わっている。だから他の人が3歳時に受けるような検査とは違って、しっかりRarudの有無さえわかってしまう精密なものだった。
だからアメリアは魔力を注いだクリスタルに、Rarudを持っていないように見せる魔法をかけた。立派な詐称行為だが、そもそもこの世界にそんな魔法があるとは認知されていないがゆえに、違法行為ではなかった。つまりアメリアは、小さな法の抜け穴をくぐり抜けたとも言える。