10、爆発
なんだか久しぶりに、この話の続きを書いてみたくなったので書きます(笑)
――また、誤魔化すしかないか。
Rarud持ちでないと判定を受けるには、クリスタルの中に魔力を留まっていないように見せればいいのである。
そのくらいのことは、アメリアにとって朝飯前の所業。だが少し気が重かった。
――もしも……
胸元に隠したネックレスにそっと手を当てながら、考えてしまう。
誤魔化さず、自分がRarud持ち、しかも未知数の「幻夢」の魔力持ちだということを隠さず公表したら。エルユードはディアナが幻夢の魔力持ちと知っているはずだから、アメリアの正体に気づいてくれるのだろうか。
――そうしたら、この終わりのない寂しさと苦しさも……
終わりを、迎えるのだろうか。
そんなことを取り留めもなく考えながら、隣室に向かっていると目の前の扉から派手な爆発音がした。
「うわ、なんだ!?」
「爆発?! え、今誰が部屋に入ってるんだっけ?」
突然の出来事に教室が一気に騒がしくなる。だがその騒めきは教室にとどまらず、地上に繋がる階段の方からも聞こえた。
「誰か禁止魔法使った馬鹿がいるな?!」
「水魔法使える奴を集めろ!」
階段を教師陣が駆け下りながら叫ぶ声がよく響いて耳に届いた。禁止魔法の言葉に、教室がまたうるさくなる。学園の卒業生ならまだともかく、入学したばかりの生徒にそんな魔法が使えるわけがないのだ。大きな魔力が伴い、危険が多い魔法なんてものは。
思わぬ騒動に立ち尽くしていると、目の前の扉が開いた。
濡れ羽色の髪に茶色の瞳。スッと通った鼻筋。刃を思い起こさせる鋭い眼差し。口元の黒子。ありふれた色味だが、その男子生徒の造形はやけに整っていた。
「――アーサー・メイ・マンフォード」
誰かが呟いた。
マンフォード家は西を帝国と面し、東を海賊行為の多発するヌブ海峡と面したアティ―ワ領を代々治めている。それ故国屈指の武力を誇る一家であるのと同時に、ここ10年ほどは医学の面でも目覚ましい発展を遂げていることでも有名だ。
そんなマンフォード家は1人の血のつながった娘と、1人の血のつながらない息子がいる。娘の方は社交界の華的存在だが、息子は一切表舞台に出てきたことがなかった。
「どけ」
薄い唇を開いて、邪険な空気をまとったアーサー。退く必要などどこにもなかったが、剣呑な雰囲気にのまれ、アメリアは一歩後ろに後退した。
アーサーはそのまま何も言わずに、サッサと1人教室を去っていった。
「なんだ、あいつ……」
「ほんと、それ」
「つーか、あいつが今の爆発の犯人なわけ?」
誰かが不満そうにもらすと、追従するような意見が教室に満ちていった。そんな中アメリアはただ一人、静かにアーサーの背中を見つめていた。
――あの人、何かが変……
アメリアが疑問に思っていると、背後の扉がバンと開いた。
「あー、みんな、各自寮に戻るように」
騒然とする教室に、隣室にいたアンザックが戻ってきて指示を飛ばした。どうやら爆発の渦中にいたらしい。所々に細かな切り傷が見受けられる他、声も少しいがらっぽい。
「せんせーい、判定はどうするんですか?」
教室後方に座った生徒が挙手をした。アンザックはそれを一瞥すると、「中止だ、中止」と肩を竦めた。
「えー、せっかくRardの判定が出来るって聞いたのに」
「結構楽しみにしてたのに残念ですね」
「やっぱり、爆発のせい? 犯人はあいつ?」
ブーイングを飛ばさんばかりの不満げな声に、アーサーに対する文句も連なっていく。まるで蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
「もう兎に角、黙って帰れ。そのうちまた別の機会があるだろう。とりあえずこれ以上しゃべった奴は初日から減点な」
アンザックは面倒臭そうに髪をわしゃわしゃと掻き上げながら、声を張り上げた。生徒は皆横暴過ぎると思ったが、減点のリスクを冒してまで発言する者はいなかった。
シッシと虫を追い払うように追い出され、一同は他のクラスより早めに寮への帰路につくことになった。




