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11、寮へ

 ウェグナドーレ学園の寮は全部で4つ。スロワ寮、ファビ寮、ニミ寮、懲罰寮。スロワは女神の長で、ファビは男神の長。ニミは男神でも女神でもない神様。生徒はそれぞれ、神話になぞらえた寮に入っていく。ここでも身分や種族は関係ない。

 アメリアの部屋は、スロワ寮の2階東の角部屋だ。白い扉には飛び立つ鳥の彫刻がなされていた。


「あれ、アメリア様? 随分早いお帰りですが、何処かお体に障りでもございましたか?」

 扉を開けると、荷解きしていたシェリーが目を真ん丸にして出迎えた。

「いいえ。検査が中止になっちゃって」

 返事をしながら扉を閉めると、「聞き耳たてる人なんていないのだから、擬態をとっていいのよ」と言った。

「え? ブレデル家ではないと言え、どこに誰がいるのかわかりませんよ?」

「大丈夫よ。諜報系の魔法は全て禁止されてるから。使ったら良くて追放退学、最悪懲罰寮らしいわよ」

 ふふっと肩を竦めるアメリアに、「逆なのでは?」とシェリーが問う。


「いいえ、懲罰寮より退学のほうがいいらしいわよ。……野放ししたら危険人物として、懲罰寮で監視の上、灸を据えるということかしらね?」

「なるほど……、でも懲罰寮なんてどこにあるんでしょうか? 学園の地図に載ってませんが」

「わからないから、人は想像する。それから怖い噂が広まっていく。そして自身を規律していく。……上手い具合に抑止力が働いているわね」

 良くて懲罰寮の下りはアイザックの言葉であり、入学時に渡された書類にもその寮の存在をほのめかす記述はあった。だが詳しい説明は今のところ一切されていないし、今のところ信憑性の高い実体験の話も聞いていなかった。


「……まあ、そこまでなら大丈夫ですかね。元の姿に戻りますね」

砕けた口調で言うなり、シェリーは指を鳴らした。パンッと膜が弾けるような音と共に、頭の上に可愛らしい耳が生えた。

「別に普段からそのままでいいと思うのに」

「嫌ですよ」

 主人の言葉を一瞬の躊躇いもなく否定する。突如現れた猫耳としっぽの毛は逆立っている。

「普通に可愛らしい猫の獣人でしょう?」

「猫じゃありません、何度言わせるつもりですか」

「100回くらい? ……ふふっ、懐かしいわね、この会話」

 アメリアの頬は微かに緩み、口元が僅かに綻んだ。たいていの人は気付かないであろう、小さな表情の動き。でも確かに、アメリアは笑ったのだ。

 勿論、シェリーはそれに気づいた。必要最低限につくる社交的な笑みとは違い、心からの自然な笑みだということもしっかり把握していた。

「ええ、懐かしいですね。ラーシャにいたときは毎日のようにからかわれたものですから」

「ちょっと、毎日は言い過ぎじゃないかしら?」

 少しだけむくれて見せると、シェリーは「結構頻度高かったですけどね」と苦笑しながら零した。

 アメリアとシェリーは、今はなき村「ラーシャ」で育った仲だ。だけれどもその頃から主従関係であったわけではなかった。


「だってどう見ても、可愛らしい猫耳と尻尾じゃない」

「まあ、猫耳と尻尾があるのは当たり前ですよ。ケット・シーと人のハーフなので」

 ケット・シーは猫の妖精。そう簡単に相まみえるものではなく、半ば御伽噺の住人に近い。それ故シェリーの見た目は猫の獣人に近いが、魔力と魔法は他の種族とは少し異なる。その違いは見る人が見ればわかるらしい。熱心な研究者にでも見つかったら悲惨だろう。

「うーん、いつ見ても猫にしか見えないのよね」

「大体の人がそうですよ。ラーシャだって、魔力の異常な人だらけでしたけどしっかりわかってたのは片手くらいでしたよ」

 例えばエノードとエルユード兄弟でしょう、と指を折って数え始めるシェリー。久々に他者の口から聞くその名前に、心臓がドクンッと大きく跳ねた。

 

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