13、はじめての授業
翌日朝一番のホームルームで、「魔法学はひとまず自習になる」とアイザックが告げた。
「それから生活魔法以外の魔法の使用も、原則禁止だからな」
付け加えた一言に反発の声が上がった。
「えー! 何の為にウェグナドーレに入ったんだよ……」
「最悪、もう今日は帰ろうかしら?」
教室が不満の声で一気に騒がしくなった。
だがそれも致し方がないことである。まず世界中の学校と比べても、これほど魔法に関する貴重な設備や蔵書を潤沢に有する場所は無い。また薬学や政治学など他の学問の研究も有名な教授も揃っているとは言え、魔法学はその比ではない。そのおかげで魔法に関する重職についている人の出身校もウェグナドーレ学園が大半を占めている。だからこの学園の入学者の多くは魔法学を修めることを一つの目標としている。
次第に大きくなっていく教室の騒めきに、アイザックは大きくため息をついた。大きな音を立てて教卓に手をつくと、生徒たちをジロッとねめつけた。
「だいたいひと月後にはRardを含めた判定が出来るようになる。流石にそれくらい静かに待てるよな? だがもし待てない奴がいるならば今すぐ帰れ。そんな短気な奴は大抵碌な準備もせずに、大事故起こす輩だからな」
教室はシンと静まり返った。そんなことを言われてまで文句を言い続ける強者はいるはずもなかった。
それに言い方は教師らしからぬかもしれないが、アイザックの言い分が間違っていないのも確かだった。現に入学試験の際にいたのだ。魔法陣を書いて作動させる試験で、変な自信から一部の文様を省略して展開させようとした受験者が。しかもその省略が変な作用を生み出したらしく、辺り100メートルを明るくする魔法のはずが、得体も知れない黒くてヌメヌメした生命体が出てきてしまったのだ。生憎近くにいた試験官がすぐに気づいて対処した為事なきを得たが、周りにいた他の受験生は突然の出来事に冷や汗をかくことになった。
「勿論、今わかっている属性だけでも学びを進めればいいと思う奴がいるかもしれない。だがな、きちんと一度属性を全て測りなおしてから学ぶというのがルールだ。――いいか、全ての決まりには訳があるんだ」
厳かな低い声。再び教室内の緊張感が高まる。そんな生徒たちの顔を一つ一つ確認すると、「授業に入る」と元のトーンと表情に戻っていった。
「それじゃあ、最初は薬学からだ。ほら、教科書15ページを開け」
慌てて教科書のページをめくる生徒を脇目に、アイザックは軽く2回指を鳴らした。その瞬間、目の前に背の高い植物が2本現れた。
「ワグナー、この植物の名前は?」
右側の青い花を指差し、教室の左端の男子生徒を指名した。
「えっ、あ、はい! えっと……、夜葬花ですかね?」
急に指名されたワグナーはしどろもどろになりながら答えた。八の字に下がった眉が如何にも自信がありませんと言っているようであった。
「何故そんな自信がない……、まあ、いい。正解だ。次、ブリュット」
「はーい」
アメリアの前の男子生徒が返事をした。ロドリゲス・ディル・ブリュット、セラフィラ公爵家の分家の次男である。




