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雄叫び


母親白狼は村へと向かうことにした。

しかし、公然と村へ向かうのは危険だった。


向かえば、彼らは武器をもって、

攻撃するのは自明だったからだ。


だから、その男の匂いに従って、向かうことにし、

着くとそこには人語を話す猫が牛の世話をしていた。

幸い、空は真っ暗な時間となり、

猫は少し、気がそわそわとしていた。


「おい、猫よ、用件がある」


母親白狼は猫に向かっていった。


「にゃ、にゃんのようだ!」


猫は慌てた素振りを見せていたので、


「言えば、殺す」


といって、母親白狼が威厳を見せると


「わっわかったにゃ、命だけはだから、用件はにゃんにゃ?」


「これを、

あの男が命を懸けて掴んだ薬草で

薬を二つ作ってほしいのだが、」


「ご主人様の事にゃ?」


母親白狼は頷く


「出来たら、鐘を鳴らしてほしい、その時に、

また、姿を現そう」


猫は動揺を隠せなかった。


「ごっ……ご主人様が……」


涙を流す猫、その様子に母親白狼は何も言わず、じっと

猫を眺めていた。

男にとって、大切な家族であったように、

その猫も男のことを大切な存在だったのだろうと心の中で

理解する。


母親白狼は悟る。

この世界に生きてる限り、大切でない存在などいなかったのだということを、憎んでいた彼にも愛があったのだということを、

それが母親白狼にも我が子を愛しく思うように、

彼にも……


白狼は涙をこらえた。

たった一時の利害のなかでの関係だったはずなのに、

かつては、パートナーを殺した憎むべき、

許すことが出来なかった人間に……


失って、気づく大切なことに……


狩り狩られる弱肉強食のその世界で、心の中の涙が流れた。


一時して鐘が鳴る。

母親白狼が来た。


「その男の子供はどうなった?」

「大丈夫だにゃ、今はぐっすり眠ってるにゃ」


それを聞いた、母親白狼はほっとした。


「はい、例の薬にゃ」


猫は彼女に首に鞄をかけた。


「この鞄は……」


母親白狼は薬よりも、鞄のことが気になった。


「ご主人の鞄だにゃ」

「いいのか……」

「まぁ悲しいけど、前を向いていかなきゃいけないからにゃ、

だって、心の中にご主人はいるわけだからにゃ」

「そうか、無事だといいな」

「あっ!後ろに誰かいるにゃ……」


足音が聞こえる、他の人間ならば危ないのだと、

一時、警戒する。


しかし、その猫は涙を流しながら


「ご主人様ぁ~」


鎧がボロボロで血だらけで決して、無傷とは言えなかったけど、

その男は生きていた。


母親白狼は、雄叫びをあげて、喜び、


「ありがとう」



といって、立ち去っていった。


その後、白狼の子は薬によって、助かったのだった。


(おしまい)












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