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過去への懺悔

彼女はその男に見覚えがあった。

一瞬、殺してやろうとする彼女の怒りの面が

動きそうになったが、辞めた


今は、自分の子の命を優先すべきだ。

それが、今、彼女における最優先のことであった。


(でも……私は彼を許さない)


そう、今、助けを求めて共に向かってる


英雄(ヒーロー)


彼女の夫、そして、白狼の子供の父親にあたる

のを殺し、意気揚々に狩った戦果をお供の猫と

語り合った狩人であったのだ。


今が絶好に復讐する機会である。

だけど、それを防がなければ、

我が子の命さえも失くなり、

一人になってしまう。


何よりも、彼女が

彼を憎めないのは


(私と似ている目をしていた……)


彼女は吹雪の中、冷たい足がそうじゃないと感じる程に

彼と心の中で通ってる感覚に陥ってる

彼女は白狼、その男は人間、さらに言えば、元狩人(ハンター)


狩られるものと、狩るもの、


弱きものが死に、

強きものが跋扈するこの世界で


温情なんて生ぬるいものではない


普通だったら、駆け引きが起こっていた。


不思議な感覚に、白狼自身、戸惑っていた。


(しかし、人間よ、少し遅いな)


彼女は立ち止まる、


人間は憎いが、


今は、同じ道を行くものとして


(乗るか、)


彼の方を向く、


「いいのか?……」


白狼の彼女は吠えた。

背中に乗れるように姿勢を低くする。


「近道で行けるように頼む」


彼の言葉に応えるかのように、白狼の足は

白く輝く吹雪の(かぜ)を駆けていった。


風が自身の顔に叩きつけられる。

降り張らされないように、姿勢を維持するのが精一杯だった。


しかし、時は一刻を争う状況、


歩くことだけでも、不安が彼の心を覆っていた、


かつては、逆だった。


家庭を持ったことで気弱になったのか。


かつては、歩くことで獲物を狩る楽しみが増えていった。


一歩、踏めば、未知なる世界、未知なる出会い、

探求心の先の新しき発見が


そこに待っていたからだ。



だけど、今は、違った。

その男は

家庭を持った。


それからは、家庭を守らなければという使命感が

彼の胸を覆った。


そこから、新しき出会いというものや、わからないことに対して、不安を持つようになった。


改めて、彼は何をしているのか、その手が震えた。


今、向かおうとしているのは、

死神に対して剣を振るうようなものだ。


実際に、このクエストは、難易度が高く、多くの狩人が行方不明、死亡、よくて、半身不随で一生寝たきりという程にレベルが高いのだ。


東方には将棋というものがあり、倒せば駒を扱える程に楽なゲームではないのだ。


人は死ねば、灰になる。

彼は自身の仲間があのモンスターと戦って息絶え死んだ時、

地元の教会で火葬をしたのを覚えている。


あの時は、目の前が全て、敵に見えた。


逃げて、帰った自分が辛かった。

だから、必死に帰ってきた時は、笑うしかなかった。

意気揚々に悲しみを隠すことで、

辛さを和らげたかった。


だけど、違ったのだ。

彼の目には涙が落ちていった。


せめて、クリスマスの夜には上手いものでも食っていかなきゃ

と彼は思っていた。


(何を食べようか……)


その時、白狼がトナカイを狙っていた。


(こいつ、)


自身の思いを邪魔されたくなかった、

邪魔するものは彼の敵でしか見えなかったのだから


彼は大剣をふって、白狼を一振りで殺した。

瞬殺だった。


トナカイは間一髪で逃げてしまった。

だけど、彼はそんなこと、どうでも良かった。


「まぁ今日の収穫は大漁だな!」


明るく振る舞う、引いている亡骸を背負って、

彼は血の道を背負って進んでいく。


それからは、彼は狩人ではなく、

家庭を作り、

牧畜を営むようになったのは


それは幸せを求めるためではなく、

弱さゆえに優しさを求めたのだと


村の人は

彼のことを、

あのモンスター相手によく戦ったと称賛するが、

そうではなかった。


(本当に弱い相手は自分なんだ……)


この白狼を見ると思い出す、彼の過去、

彼は

もしかしたら、白狼はあの白狼に関係したもの、

家族だったのではないかと彼は考える。


そんなことは、あり得ない

だけど、

もし、そうならば……

彼は言葉を考える。

考えても、許されないのだろう


殺しの罪人がいくら、遺族に謝罪したところで

許されないのだろうように

例え、獣でもひとつの生命、

ひとつの心があるのならば、


「すまなかったな」


名前は知らない、

そして、この白狼という名前さえも、

ただ白き狼であっただけであって、

それをつけたのは偉い生物学者かつけたものだということを

その男は知っている。


白狼の表情はその男の視線からは外れていた。

だが、白狼の体は少しばかりだが、温かくなった。



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