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午後の授業は座学ではなく、魔法の実習や体力づくりという名の体育だ。これは1年生の間だけではなく、5年間ずっと、だ。2年生になると乗馬なんかも習うらしい。
そのため学園の敷地内には複数の校庭と複数の実習室がある。とはいえクラスの数だけあるわけではないので、実習は2クラス合同で行う。1学年にAからDまでの4クラスずつあるのだが、私達BクラスはこれからずっとAクラスと合同で実習を行うことになる。
魔法の基礎はまだ座学を1時間やっただけなので、実習が始まるのはまだ先。今日は単なる体育である。運動着に着替えて校庭に出ると、真上から差す日差しで少し暑いくらいだ。
転生前は運動が苦手だったけれど、6歳になってからのジルとの走り込みや剣の訓練は今でも続けている。その辺の1年生よりは足の速さも体力も上だという自信がある。”加速”を使うわけにはいかないから、男子には負けるだろうけど。
「フォルティエラ!これから実習は一緒だな!」
親しげな男の子の声。ここまで親しげにされる覚えはないのだが・・・声の主はわかっている。Aクラスと合同と聞いてから、彼と一緒になるのか、とちょっと嫌な気分になっていたから。
「ディストくん。えと、よろしく?」
得意の愛想笑い。精霊が具現化してはいるが、彼はミドルネームを名乗らなかった。ということは転生者ではないのだろうけれど、では彼の精霊が具現化する要因になったのは、一体何だろう?いっぱい勉強したとか本を読んだとか、そういう努力の賜物なのだろうか。
「Aクラスにはやはり精霊を具現化させた者はいなくてね。
実習でフォルティエラがいて嬉しいよ」
なんだかちょっと上から目線?で嫌な感じだ。プライドが高そうだし、ちょっと偉そう。
「そういえばティエラはどこに住んでいるんだ?北区?中央区?」
第一学園に通っている以上そのどちらかしかないので、適当なことも言えない。
「中央区だけど」
確かに中央区だ。なんせ王宮だものね。
「そうか、俺も中央区だ!
これからは送ってあげるよ」
「え、いや、友達と帰るから」
激しく遠慮したい。何故友達にすらなっていない男の子に送ってもらわないといけないんだ。
ディストはやんわりと拒否した私の傍に居る3人組にちらりと視線を送ると、私を宥めるように言う。
「随分頼りにならなそうな・・・精霊も連れていないチビじゃないか。
女の子2人は俺が守ってあげるから、それなら友達も安心だろう?」
何から守るというのだろうか。そもそも。
「自分の身は自分で守れるわ。
それに、友達を馬鹿にしないでほしいわね」
チビと言われたアレンは、怒るでもなくただ落ち込んでいる。1日に2回も小さいって言われたんだもんなぁ・・・
「おや、怒らないでくれよ。俺はただ・・・」
「アイヴァンさま〜ぁ」
彼の言葉を遮るように、Aクラスのほうから甘ったるい声を出して、女の子が3人歩いてくる。アイヴァンさま?学校生活2日目でさま付けで呼ばれるって、一体なにがあったの。
「アイヴァンさま、他のクラスの子なんか構ってないで、ミラたちとあそんでよぉ」
「そうそう、帰りだってわざわざアイヴァンさまが送ってあげることないわよ」
そうして両サイドから腕に絡みつかれたディストは、困ったな、と言いつつも満更ではなさそうな顔で、Aクラスの輪の中に戻っていった。
「・・・なんだったの、あれ」
呆然として呟く私。取り敢えず難を逃れられたので、Aクラスの女子たちに感謝だが、どうにも釈然としないものがある。自分のことをミラと呼んでいた女の子なんか、あからさまに私を睨みつけていたし。
「アレン、もう落ち込むのはやめて・・・鬱陶しい」
ティナの言葉は辛辣である。アイラはというと、アイヴァンって聞き覚えがあるのよね、どこでだったかしら、と首を捻っていた。
その日の授業は、日本でもおなじみ体力測定。50m走をやったりボールを投げたり、握力を測ったりするあれだ。
その悉くで私は男子顔負けの好成績を叩き出した。伊達に鍛えていませんよ。とはいえさすがに握力では全く歯が立たない。身体強化があるからいいんだもんね、と心の中で負け惜しみをいいつつ、筋トレのメニューを増やすことを決めた。あまりやりすぎてムキムキになるのは嫌だが、もう少しくらいならスレンダーな体型の維持に役立ってくれるだろう。
授業が終わった後は、またディストに絡まれる前に、とそそくさと退散した。
早めに更衣室に戻ったおかげで、スペースを広々使って着替えることができて、最後にリボンタイを結んでいたときのこと。着替えに戻ってきたAクラスの女子たちで一気に賑やかになり、そして私は、気づいたときには既にディストの取り巻きに囲まれていたのだった。




