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私は襲い来る強敵と戦っていた。
・・・睡魔である。
入学式なんてものはどこの世界でも対して変わらないようで、教頭の話を聞いて、来賓の話を聞いて、5年生だという先輩の話を聞いて、最後に学園長の有難いお話を聞いて、式は終わり。眠いに決まっている。先輩以外は随分と長々と話をしてくださったし、年齢を重ねるごとにこういった場での話が長くなるのは何故なのだろうか。
なんとか睡魔に打ち勝って式が終わると、私達は渡り廊下でつながった教室棟へと移動した。保護者はここで帰宅することになる。話を聞いてばかりで、列席する意義があるのか正直疑問だ。退屈なだけじゃない。
予め確認していたクラスに入り、荷物を置く。席は既に決められていて、席順が教室の前の方に貼りだされていたので、その席へ。うん、出席番号順というやつだなこれは。
20分ほどの休憩を挟んで、オリエンテーションが始まる予定だ。今のうちにお手洗いを済ませ、鏡の前で少しだけ前髪をチェック。本当は顔を洗って眠気を吹き飛ばしたい気持ちもあるけれど、そういうわけにもいかない。
シエラが結び直してくれたおかげか、タイもきれいなままで直す必要はなかった。というか私が直したら今よりも不格好になってしまう。まだうまく結べないのだ。別に特別不器用とかいうわけではない、ただ日本ではセーラー服だったので経験がないのだ。慣れればうまく結べるようになる、はずだ。
ハンカチをジャケットのポケットにしまうと、再び教室へ向かって廊下を歩く。肩の上にはレイが座っているので、若干注目されている。男子も女子も、すれ違う私を見送ってから、小声で話し始めるのを見るに、みんな既に友達を作り始めているようだ。お手洗いに行ったせいで出遅れただろうか。
「君!ねえ君!」
若干の危機感を感じる私の後ろから、男の子の声がする。・・・私だろうか?振り返って違ったらちょっと恥ずかしい。
「精霊を乗せた君!」
この言葉で、ようやく私は振り返った。そこには明るい栗色の髪の男の子がにこにこと笑顔を浮かべて立っていた。
「君、どこのクラス?」
「Bクラスですけど・・・」
「そうか!一緒だったらよかったのに・・・
僕はディスト=アイヴァン。Aクラスだよ」
ここまで親しげにされる理由が全くわからない。しかし相手が名乗ったのだから、こちらも名乗らないと失礼だろう。
「フォルティエラといいます」
最低限の自己紹介をすると、ディストは再び笑顔を深めて、
「よろしくな、フォルティエラ。仲間同士、がんばろう!」
そう言って、Aクラスの教室へと向かっていった。
・・・仲間?なんのことだろう。
首を傾げつつその背中を見送ると、彼の周りを具現化した精霊が飛び回っているのが見えた。
なるほど。具現化した精霊は珍しいので、レイを見て私を仲間扱いしたわけか。
彼はどんな魔法を使うんだろうなぁ。
ざわざわとしていた教室は、すっかり静かになっていた。全員が席について、教壇に立つ青年に・・・このクラスの担任であるガルヴァに視線を送っている。
まだ若そうな担任教師は、皆が注目しているのを確認すると軽く咳払いをして、学園生活の諸注意などを話し始めた。
「アルバイトなどはしてもいいが、学園に届け出を出すように。それから、学園内では授業以外、魔法の使用は禁止。ケンカで魔法を使うのはもっとだめだ。
最後に、学園の生徒である以上、身分も貧富も関係ない。そんなものは親の力であってお前たちの力じゃないからなー。皆平等、仲良くやってくれ」
非常に簡潔で有難い。ここで長話を聞かされたら、これ以上睡魔に抗い続ける自信がなかったのだ。
「じゃあ、順番に自己紹介だ。名前と、そうだなー、特技とか趣味とか。なんでもいいぞー」
ガルヴァに促されて、一番前の席、廊下側の女の子が立って、教室の皆に体を向ける。
「アイラです。火と水の魔法が使えます。
えっと・・・家で手伝いをしているので、料理が得意です!
よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて、着席。こういう自己紹介って日本でも結構やらされたけど、すごく苦手。自己アピールは得意ではないのだ。
しかし、皆の自己紹介を聞いていると、名字がある子と無い子がいる。いや、名乗っていないだけで本当はあるのかもしれないが、その差はなんだろう?
順番はどんどん進み、私の番。何を言うべきか全く決まっていない。はぁ、本当に苦手。
「フォルティエラです。ティエラと呼んでください。
あと、精霊のレイです。
えっと・・・あ、本を読むのが好きです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いするわ!」
流れる沈黙。
「えーと、フォルティエラ?特技は腹話術かなにかか?」
引き攣った顔でガルヴァが私に問いかける。この世界にも腹話術ってあるんだね。違います、と首を振る私の肩の上で、腹話術ってなに?と首を傾げるレイ。
完全に目立ってしまったなぁ・・・
けれど、これから毎日学園には通うのだ。その間ずっとレイに黙っていろというつもりはないし、いつかは通る道だったのだ。それが遅いか早いか、それだけの話。
とりあえず、出遅れた分頑張って友達をつくらないと!せっかく学校に通うというのにレイしか話し相手がいない、なんて寂しすぎるよね。




