54
トリス国の、王族。見れば護衛の4人も目を見開いて、フォークとナイフが空中で止まっている。
それにしても、所作の優雅さにも納得だ。旅の間、なにか粗相をしなかっただろうか。そういえば・・・ザルツを守る自信がないから黙ってろ的なことを言ったような気がする。
「シルザリッツ様、知らぬこととはいえご無礼を・・・」
「今まで通りザルツとお呼びください、小さなお姫様。僕の愛称なのです。
それに無礼なことなんて、何も。
その小さな体で僕を守ろうとしてくれたではありませんか」
謝罪を口にする私に、ザルツはにこやかに言う。守ろうとしてくれたっていうのは、やっぱあれのことだよねぇ。できればあれは忘れてもらいたい。
「・・・では、ザルツ様は学術都市の研究者ではないのでしょう?
その割には、レイや世界樹の話には随分と興味がおありのように見えましたけれど」
「いや、研究者というのも本当ですよ。
ただ、研究をしていると身分というのは時々邪魔になるのです。
もちろん、逆にその身分が使えるときもありますけどね」
そういって朗らかに笑うザルツには、以前感じたおどおどとした空気は全く見られない。あれは演技だったということか。・・・役者にもなれるんじゃないだろうか。
「研究者として動くときには、身分などないただのザルツとして、と決めているのです。
そのために隠すようなことになってしまったこと、申し訳なく思っています」
調査団としてではなく、研究者としてならば・・・研究者同士で話し合うときなんかは、たしかに身分は邪魔になるのかもしれない。学生が教授に言いたいことを言えるかと考えれば、それができる人はひと握りだろう。同じように、身分の差が立場の差になってしまえば、遠慮なく意見を言い合うことができなくなったりすることもあるだろう。
思い返せば、魔物の回収について王の名を簡単に出せたことも、タリムに対する毅然とした態度も、そういえばバイゼル将軍と親しげに話していたこともあったっけ。
「バイゼル将軍とは、旅の前からお知り合いだったのですか?」
「うむ。アイゼストの武術大会にトリス国から国賓としていらしたことがあってな。
そのときに身辺警護を務めさせていただいた」
「私は何度か会談のためトリス国を訪れているのでな」
当然のようにヴォイドもザルツのことは知っていたようだ。・・・教えてくれてもよかったんじゃないのかな、それ。別に知っていたから何か変わったわけではないけどさ。
むくれる私をなだめるように、ヴォイドが食後のケーキを差し出した。
「私の分も食べていいから、そうむくれるでない」
笑うヴォイドに、更にむくれた顔を返す私。ケーキを受け取ると、フォークを握り直して言う。
「ケーキくらいで懐柔しようなんて、お父様は私をなんだと思ってらっしゃるのかしら。
大体、甘いものがお好きでないだけではありませんか」
まぁ、このケーキはありがたくいただきますけどね!
その様子を見て、両親もザルツも、将軍も声をあげて笑う。
これまでの殺伐とした旅にはなかった和やかな雰囲気に、私も一緒になって笑った。
この会食には同席しなかったジルには、後でカチアやジェロス、ティテスに教えてもらった魔法のことをたくさん話そう。
世界樹と友達になったこと・・・は言っていいのかわからないから保留。
いつかロキのことを話せたら、一緒に精霊の泉に遊びに行こう。
やりたいことが、話したいことがたくさんある。
こうやって人と関わることが楽しいと、今は心の底から思っていた。
会食が終わって、それぞれが部屋へと戻っていく。今日はゆっくりと旅の疲れを癒やして、明日からは報告書の作成のために旅の情報をまとめるため、お仕事という形でまだしばらく顔を合わせることになる。
自分の部屋で、一人。
旅の間はずっとヴォイドと同室だった。
なんだか少しだけ寂しい気持ちでベッドに入ると、枕元にレイがふわりと飛んできて、横になった。
「今日はここで寝るわ!」
私の寂しさを感じ取ってくれたのだろうか。ありがとう、と呟いて、私は深い眠りに落ちた。
翌朝、朝食の席に家族が揃ったので、私はそれぞれにプレゼントを手渡した。アイゼンの街で買ったお土産だ。
皆が喜んでくれて、調子に乗ってどうしてその品を選んだかを説明すると、想像以上に感動してもらえて、シエラなんかは髪飾りをつけてすぐに、私に同じ色のワンピースを着てくるようにと言い出す始末。
そんなわけで、私の今日の服装は桜色のワンピースなのである・・・




