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世界樹は夢を見る  作者: 深月
幼少期
54/201

53

私達はアルドを街に送り届けてから、帰路についた。

別れ際、アルドはその太い尻尾を激しく振りながら、おかげで魔人も見られてついていってよかったです!なんてことを言っていたが、魔物や魔人に遭遇して喜ぶのはアルドくらいのものだろう。


もと来た南のルートを戻るか、北のルートを選ぶかという2つの選択肢があったが、南のルートを戻ることにした。魔物たちが東へ向かっているのならできるだけ多く討伐したほうがいいし、何より北のルートには集落がない。東の国境付近まで野宿を続けられるほど、私達は余分に食料を積んでいなかったのだ。


幸い、西に向かっていたときよりも魔物に遭遇する回数は格段に少なかった。順調に歓喜の街まで戻ったところで、自警団に盗賊団を壊滅させたことを報告し、補給を済ませてすぐに街を出る。

歓喜の街のあたりには魔物はもうほとんどいないし、行きでも魔物に遭遇したのはこの街よりももっと西側からだ。ここで宿をとらなかったのは念の為、である。西の国を過ぎてアルディア国に入るまでは、野宿を続けることにしていた。


始まりの街を過ぎて国境の町イムにたどり着くと、長旅の疲れもあるだろう、と、ヴォイドが宿の中でも少し高い部屋を全員に取ってくれた。久々のふかふかベッドとできたての食事に、帰ってきたんだという実感が湧いてくる。贅沢を言えばお風呂が恋しいが、一般の家や宿には体を沈められるような湯船はない。あってもお湯をわかして、そこから手桶で湯をくんで体を流すための浴室がある程度だ。王都の屋敷にはしっかりとしたお風呂があるので、それを楽しみにしておくことにする。


帰りの旅は順調だった。再び領主の屋敷にお邪魔しながらもと来た道を辿っていく。進行方向が逆なだけあって、見える景色も違う。夕日が美しかった景色は、朝日にきらめいてまた違う美しさがあった。


こうして何事もなく王都に到着した私達は、王宮へと馬車を乗り入れた。ご無事でなによりです、と頭を垂れる臣下たちに並んで、にこにことこちらに笑顔を向けるシエラの姿がある。


「お母様!只今戻りました!」


駆け寄る私を抱きしめてくれる。屋敷の方に戻るまで会えないと思っていた。きっとたくさん心配してくれたのだろう、その青い瞳は潤んでいた。


「ティエラ、おかえりなさい」


私ににっこりと笑って頭を軽くなでると、シエラは調査団の方へと笑顔を向けた。


「皆様、よくご無事で戻られました。

お部屋の用意が整っておりますので、まずはお寛ぎください。

夜にはささやかながらおもてなしを」


初めて見る母の王妃としての顔に、いつもの少しぽやぽやとした空気はない。お仕事モードというやつだろうか。ついつい感心してしまう。


「ティエラ、あなたは屋敷でゆっくりなさい。

でも晩餐には参加するのよ?」


付け加えられた言葉に嫌な予感を感じつつも、私は屋敷へ。




セルガが気を利かせてくれたのだろう、屋敷ではお風呂が湧いていて、メイドさんが防具を外してくれると、私は浴室へと駆け込んだ。

久々のお風呂。外で冷えた体がじわじわとあたたまる。

まるで溶けてしまいそうな心地よさに身を委ね、たっぷりと長風呂を楽しんだ私を待っていたのは、予想通りのシエラによるきせかえの時間だった。


もう何回着替えただろうか。

数えるのをやめてしばらく経つが、シエラの腕にはまだまだドレスが掛けられている。全部着てみせるのかとうんざりしつつも、日常が戻ってきたような気がして安心する。シエラからしてみればまだ6歳の娘を旅に出したのだ、帰りを喜ぶのは当然のことだろうし、はしゃいでしまっても無理はない。

結局最終的にシエラが選んだのは、一番最初に着たサーモンピンクのドレスだった・・・


晩餐の時間になり、私は王城の会食場の前にシエラと共に立っていた。目の前には大きな扉。王宮の一角に住んではいるが、王城で晩餐に参加するのは初めてのことだ。礼儀作法は習っている、大丈夫。そう自分に言い聞かせて、深呼吸。


王城付きの衛兵によって扉が開かれると、緊張しつつも私は部屋の中へ。皆の視線が集まる中、スカートの裾を軽くつまんで一礼し、ヴォイドの左手側へ。給仕の執事服の男性が椅子を引いてくれたので、着席する。同様にシエラが一礼して私の向かいに着席した。シエラの動きは非常に優雅だった。経験値の差があるとはいえ・・・自分の拙さが少し恥ずかしい。

和やかに進んでいく晩餐。護衛の4人は緊張しているようで動きがなんだかカクカクしている。王族や将軍を前にきちんとした場で食事をする機会なんてそうそうないだろうし仕方ないよね。私だってまだちょっと緊張しているもの。


そういえば、ザルツは緊張している様子がない。テーブルマナーも完璧だし、所作が優雅ですらある。トリス国の研究員とはいえ、どこかの名家のご子息とか?


「しかし、シルザリッツ様がマジックボックスを持っていらっしゃるとは驚きました」


「ああ、おかげで時間の節約にもなった。感謝する」


・・・シルザリッツ様?マジックボックスの話からして、ザルツのことなのだろうけれど・・・


「ザルツどのは、トリス国王の弟に当たる方なのだよ」


きょとんとした私の顔を見て、愉快そうにヴォイドが種明かしをしてくれた。

・・・衝撃の事実である。

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