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世界樹は夢を見る  作者: 深月
幼少期
33/201

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「お父様、桶にお湯をためてあります。冷める前にお使い下さい」


「ああ、ありがとうティエラ」


ヴォイドと入れ替わり少し離れて焚き火にあたる。


「ようやくですか。まったく血の匂いが鼻について食事の味もわかりませんでしたな!」


やはり標的は私に変わったようだ。ヴォイドが離れている現在、タリムにとっては心のストッパーが外れた状態なのだろう。


「魔法を使えるというのに態々返り血を浴びるような戦いをするとは・・・

全く期待はずれもいいところだ。

もっと効率よく魔物を倒してみせたらどうなのかね?

そうすれば私が怪我をすることもなかったというのに!」


まぁ、確かにもっと効率よく魔物を殲滅する魔法は考えるべきだろう。それは私も先程反省した点だ。言いたいことはわかる。だが・・・タリムが怪我をしたのは、勝手に転んだせいだろう。私のせいにされてもそれはさすがに無理があるというものだ。


とはいえ、それを口に出すことはしない。黙秘を貫けばそのうち飽きるだろうと思ってのことだが、まだまだタリムは愚痴を言い足りないらしい。


「ああ嘆かわしい。

こんな小娘に私の命を預けなくてはならないとは!

それにしても転生者というのはどうして謝罪の言葉すら口に出せないのでありましょうな!」


・・・別に私にはタリムに謝罪するようなことは何も無いと思うのだが・・・

盗賊の襲撃で失態を晒してしまったカチアが、タリムの視線を受ける私よりもよっぽど萎縮してしまっている。

既にカチアは十分に責め立てられたし、既に謝罪もしている。魔物の襲撃をいち早く報告してくれた後、戦闘中はザルツやタリムをかばうような位置取りをしていたのも知っている。彼女なりに戦闘でも役にたとうとしているのだ。

これ以上はカチアが可哀想に思えて、口を開こうかとしたときだった。


「タリム様、僕達は守られているだけで何もしていない。

みなさんの謝罪を期待する前に、僕達は感謝の言葉を述べるべきではありませんか?」


誰よりもはやくこの小言の嵐に音を上げたのは、意外なことにザルツだった。その背筋は伸ばされ、視線はまっすぐにタリムを見ている。普段の気弱そうな様子はどこへやら。凛とした声でタリムを制する姿に驚いて、ついザルツに注目してしまった。


「感謝?感謝ですと!??

私は怪我をしたのですよ!この小娘たちは無傷であったというのに!!」


「その怪我はタリム様が転んでできたものでしょう。

それに、カナデ様は護衛役でもないのに、その幼い体で勇敢に戦ってくださっている。

魔物に食い殺されずに済んでいるのはみなさんのおかげでしょう」


「殺されずに済んでいる、ですと?・・・そのための護衛であろう!!」


ザルツの冷静な言葉に反比例するかのように、タリムのボルテージは上がっていく。これは、ちょっとまずい。

このままザルツがタリムの標的になっては、感情的になったタリムが何をするかわかったものではない。自分の身を最低限守れる私だからこそ、なにかされたとしても大丈夫だと思って放置していたのだ。


「タリム様」


私は極力感情を乗せずに、口を挟んだ。


「タリム様は一体、私のような()()()()に、何を期待されているのです?」


にっこりと最上級の微笑みを添えて、タリムに言い放つ。


「な・・・っ」


自分が散々私を見下して発した言葉尻を取られたのだ。その顔は先程よりも明らかに真っ赤に染まり、まるで茹で上がったかのようだ。

ザルツが焦ったように私の方を見つめる。


「・・・私は先に休ませてもらう!傷の痕が痛むのでな!!」


離れていくタリムの後ろ姿を、ダメ押しのようににこにこと見つめて見送ると、ザルツが小声で私を咎めた。


「カナデ様、なぜあのようなことを・・・!」


ザルツは私のことを本気で心配してくれている。バイゼル将軍も心配そうな顔を向けてはいるが、私の思惑を察してくれているようだ。護衛たちも、それは同じ。ヴォイドには危険なことを引き受けるなと、怒られてしまいそうだけれど。


「ザルツ様、気持ちはありがたく頂戴いたします。ただ私には・・・仮に味方に寝首を掻かれた場合、誰かを守り切るような技量はありません。

・・・旅はまだ長いのです。ご自分の身の安全をなにより優先なさってください」


まぁ、寝ている間に襲われたら自分の身であっても守れるかわからないのだけれど。


「どうして、そこまでして・・・!

あなたはアルディアの姫君であって、護衛の兵士ではないのですよ!?」


答えは、簡単だ。


「父の仕事に泥を塗るようなことを、私は許容できません。

・・・あの方の娘のフォルティエラとしても、アルディアの姫としても」


だから、その芽はたとえ小さくても、摘み取っておく。

父の役に立ちたいという純粋な思いと同時に、それは、無駄にした6年間を取り返すための私の贖罪でもあった。

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