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しばらく0時、12時の1日2回更新予定です。
「早くしろ!!それとも見殺しにする気か!」
バイゼル将軍は剣を捨てようとはしない。
人質に取られたのは自国の”護衛”なのだ。将軍にとってその命は、自らやタリム、そして王であるヴォイドの命よりも軽いのだろう。
しかし、将軍の思いとは裏腹に、武器を捨てたのはヴォイドだった。
お父様・・・!
心の中で悲鳴をあげる私。
将軍は尚も武器を持ったままだったが、ヴォイドの気迫の篭った視線を受けて、その剣を捨てた。
続いてジェロスが盾を、マティスが弓を、捨てる。
男は満足げに歪んだ笑みを浮かべ、カチアに剣を突きつけたまま
「全員降りろ!!」
馬車に向けて再び叫ぶ。
御者たちがその言葉に従い、御者台を離れていく。
ザルツもまた馬車から降りて、御者たちとともに両手をあげた。
・・・私の乗る馬車からは既にヴォイドが降りた。私の存在に気づいていないかもしれない。
余裕のある場面ではない。だが、状況を打開できるとしたら、その可能性に最も近いのは私だと、頭の中はひどく冷静だった。
カチアの後ろにいる男だけなら問題ない。瞬間移動で背後に回れば制圧は容易いのだから。
問題は、残る2人だ。一人を倒す間にヴォイドたちに切りかかられる可能性がある。タイミングを合わせたところで、皆武器を捨ててしまっている。
考えろ。どうするのが最善か。
「おい、もう一人いるだろうが!!
はやく降りろ!!」
もう一人、と男は言った。私の存在に、少なくともあの男は気づいていない。
後ろの馬車から、タリムがゆっくりと降りていく。足が震えているようだが、その顔には恐怖だけでなく、怒りと不満が浮かんでいるように見える。
「護衛が足を引っ張るなど・・・!
アルディア王も馬鹿正直に剣を捨てるとはどういうことだ・・・!!」
そのつぶやきは小さくはあったが、カチアとヴォイドを睨みつける視線は鋭い。
「よし、これで全員か?
おとなしくしてろよ、俺達がその馬で逃げ切るまではな!」
3人の盗賊たちは、それぞれがカチアとジェロス、ヴォイドに武器を向けたまま、お互い顔を見合わせる。逃走のタイミングをはかっているのだろうか。
「ま、待て、もう一人いる!!
小娘が!自分だけ助かるつもりか!!」
タリムの馬鹿・・・!折角気づかれていなかったのに!!
もう考える暇すらなくなった。ヴォイドたちから離れて馬に近づいてくれればチャンスだったのに・・・!
仕方なく馬車のドアをゆっくりと開ける。タリムに批難の視線を向けたいところだけれど・・・せめて怯えている振りでもして隙をうかがうしか無い。
馬車を降りる。男たちが、なんだ子供か、と警戒を緩め、うつむいた私をみて下卑た笑いを浮かべた。
「まるでお人形じゃねぇか、幼女趣味の金持ちに高く売れそうだぜ」
女二人は連れていこうぜ、と男たちは笑い合う。
そういう目で見られるとは思っていなかった。男たちの下品な発想に嫌悪感が再び湧き上がる。
全員が丸腰の今、頼りになるのは自分の力と、身体強化を持つジェロスだけだ。
ちらり、とジェロスに視線を送る。それに気づいたのか、ジェロスが私にまばたきを返した。
「男どもは殺してその高そうな服をいただくとしよう」
「な・・・っ!武器は捨てている!抵抗もしない!!
荷物もくれてやるから助けてくれ!!」
タリムが情けない悲鳴をあげる。・・・本当に情けない。
「わ、我々は各国の重鎮だぞ!手を出せばどうなるか・・・!!」
更に喚き散らすタリムに、男たちの視線が向く。チャンスだ。
「ほう。
手を出せば・・・どうなる?
こんなところで死体が見つかればいいがな」
ジェロスに再度視線を送る。その右腕は先程よりも太く筋肉が盛り上がっている。準備は万端のようだ。
私は意識を集中して、カチアを人質にとって笑う男の後ろに意識を向けた。
あいつの後ろに、一瞬後に、そこにいるイメージ・・・!
視界がぐるりと変わる。目の前には男の背中。男たちが私を見失ったことに気づく前に、無力化する・・・!
目の前の背中に向けて、切りつける。
武器は捨ててしまった。手の中にイメージするのは、氷の刃。
精霊の力を鋭い刃の形に成形してから、それを一気に水へ変換し、更にその熱を奪う。右上段から斜めに腕を振るった瞬間に、それは完全に剣の形となって男の体を切り裂いた。
噴き出した血が顔に、服に、かかる。拭っている暇はない。血の匂いに咽そうになるのを堪えて、次の目標を見る。
ジェロスの右腕が、一人の男の頭を鷲掴みにし、そのまま地面へと叩きつけた。
武器を持っていないことに油断をしていたのかもしれない。残る一人の顔に、今更驚愕が浮かぶ。その剣はヴォイドとバイゼル将軍の動きを牽制していたが、どちらか一人に絞って首筋にむけていればまだしも、その程度ではカチアの安全を確保した現状では、なんの意味もない。
再びの瞬間移動。今度はヴォイドと男の間に、宙に浮く形で転移する。ぐるりと廻る視界にもだいぶ慣れた。
突き出された男の剣が間近にある。それは丁度私の腰の高さ。空中でそのまま右足を蹴り上げると、男の剣は腕ごと跳ね上げられ、その手から離れた。
その隙を見逃すバイゼル将軍ではない。反動で後ろへよろめく男の側面から、その胸元へ向けて掌底が繰り出された。鳩尾を打ったその一撃で、男の息が吐き出される。
仰向けに倒れた男は、まだうまく息ができないのだろう、口を開けたまま浅い呼吸を繰り返す。また立ち上がられては厄介だ。土の魔法を使い、マティスが魔物に使った技を参考に男の四肢を泥に埋め、そのまま再び固めて拘束すると、私はやっと安堵のため息をついた。




