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世界樹は夢を見る  作者: 深月
幼少期
28/201

27

「森の方に、かなりの数の集団がいるわね。

・・・23人」


同様の反応を、私の索敵魔法も捉えていた。

カチアの索敵は魔物を見分けるが、魔物以外の存在が見えないわけではない。但し人間と動物を区別することはできないが。

魔物ではない反応が23もまとまって動いていれば、それは明らかに人間である。


「噂通り随分と多いな」


昨夜の話し合いで、彼らは森を根城にしているのだろうという意見で全員が一致。襲ってくるならば森側からか、あるいは前方を完全に塞ぐような形で旅人を待ち構えているだろうという予測から、右前方にジェロス、左前方にカチア、

二人の後ろにバイゼル将軍、マティスと続き、最後尾に馬車を挟む形でティテスという隊列を組んだ。護衛の戦力バランスがやはり悪いように感じるが、それを今更言ったところで仕方がない。

馬車の中でも、戦力になりうる私とヴォイドの乗る馬車が先頭だ。タリムとザルツは完全に戦力外として考えている。


このまま進めば襲われるのは確実だ。・・・しかし引くわけにもいかない。

意を決して進むと、森のほうから想像していた通り粗末な武装をした男たちが向かってくる。馬が数頭いるのは、これまでの戦利品なのだろうか。よく見れば時折他の者よりも明らかに質のいい防具をつけている者や、、錆一つ無い剣を装備している者がいる・・・あれもおそらく奪ったものなのだろう。私の顔に嫌悪が浮かぶ。


マティスが弓を構え、ジェロスの背後から向かってくる盗賊たちを焼き払うべく炎の矢を放つ。弓には自信があるというその言葉を違えることなく、放たれた矢は先頭を走ってくる男の胸に突き刺さり、男が倒れるとその体を燃やしていく。


人に襲われた経験などない。

浮かぶのは恐怖と、なぜ人間同士で、という疑問と、理解できないことに対する困惑、そして・・・傷つけることに対する躊躇い。


願わくばこのまま、私とヴォイドの出番なく終わってほしい。

味方が相手を殺すことは止めない癖に、自分の手は汚したくないというずるさが私の中にある。

こんなのは、卑怯だ。わかっている。


いかにマティスが弓の名手でも、その武器の特性上一人ずつにしか対応できない。討ちきれなかった盗賊がついにジェロスのもとへとたどり着き、接近戦が始まる。相手はあと、18人。


魔物すら受け止めるジェロスが、人間の特攻程度止められないわけがない。向かってくる男を二人まとめて盾で受け止め、身体強化された腕を振るうと、男は吹っ飛び、その顔はひしゃげて血が流れている。

とはいえマティス同様、ジェロスが対応できる人数は多くはない。盾で受け止めた相手を片手で投げ飛ばし、別の男に当てたりもしているが・・・相手はあと14人。

バイゼル将軍が剣を振るう。数人に囲まれているが、その攻撃の全てを躱し、受け止め、逸らしては切り捨てる。素人と目される男の実力と比べるまでもない、圧倒的な強さだ。相手はあと10人。


乱戦になってはマティスの弓はそのアドバンテージを完全に潰されてしまう。このままでは残る10人が馬車の近くまで来るのも時間の問題だ。馬車を降りるべきだ。戦うために。

けれど、まるで凍りついたかのように体が動いてくれない。

平和だった旅の行程が一瞬にして戦場に変わる。血が流れる。人の死が間近にある。


相手の実力を見ても、負ける気はしない。幾度となく手合わせしたジルより、格段に相手の動きは鈍く遅い。血に対する忌避感も別に無い。けれど。


怖い。

戦場という緊迫した空気が。

人を傷つけるということが。

殺し合いという非日常が。

勝つためには殺さなければいけないという事実が。

そしてそれら全てを受け止めようとしている、自分が。


息を呑む私の頭にふわりとあたたかな重みが添えられた。


「王としては、失格なのかもしれないが。

父親として言わせてもらう。


ティエラ、お前はここにいなさい」


言い残すと大剣を手に、ヴォイドが馬車からひらりと降りた。

そしてそのドアを後ろ手に閉めながら、


「娘一人守れないようでは、父親も失格であろう!」


抜き身の大剣を手に、ヴォイドは戦場へ走る。

バイゼル将軍には及ばないが、ヴォイドもまた十分に強い。王として自らの身を守るために、彼とて修練を積んでいる。

心配はない。そう自分に言い聞かせる。


「カナデ。

あたしがついてるんだからね!」


レイの精一杯の思いやりの言葉に、私は静かに頷いた。

相手はあと7人。もう三分の一も残っていない。地面に倒れる15人は体を焼かれたり、腕力によって体を歪められたり、あるいは剣を受けて血を流していたり・・・

わずかにも動く気配はない。

死んでいるのだ。いや、私達が、殺したのだ。


残るは5人。

物言わぬ死体が増えていく。

また一人、バイゼル将軍の剣を受けて散っていく。


あと4人。ヴォイドの大剣がうち一人の胸を貫く。

マティスの矢が肩に、そして眉間に突き刺さる。

あと2人。

そこで、はじめて気づく。


カチアの姿が見えない。いつの間にか連れ去られた?

周囲を探るため、探知魔法を展開すると、馬車の左前方に2つの反応。

・・・ふたつ?


「武器を捨てろ!

全員馬車から降りろ!!


ぐずぐずしてるとこの女の首が無くなるぜ?」


その声は、先程反応があった場所から、響いた。

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