25
始まりの街。
この街もまた海に面した街ではあるが、アイゼンとは雰囲気が全く違う。
アイゼンと同様の石造りの建物と、木造のあまり上等とは言えない建物が混在しており、土埃の舞う道は地面を均して固めただけだ。緑も少ない。
木々を植えるほど住民たちにはまだ余裕がないのだろう。
私達はこの街にはあまりない石造りの宿をとった。仮にも王族や他国の重鎮がいるのだ、防犯上隙の多い安宿を取るわけにはいかない。
これまで領主の屋敷ではヴォイドと二人部屋だったが、今日からは3人になる。護衛がそれぞれの部屋に一人ずつ配置されるのだ。と言っても勿論ジェロスたちも睡眠をとらなければいけないので、何か遭ったときにすぐに対応でき、かつ他の部屋ではそれぞれが部屋の主を守れるようにという配慮である。
私達の部屋はカチアが担当するようだ。
今後ローテーションするのかはわからないが、同室になるのは都合がいい。4人には聞いてみたいことがたくさんある。
「カチアさんは、転生前はどんな生活だったのですか?」
ジェロスはオークに殺されたと言っていた。あのときは深くは聞けなかったが、つまりオークが存在するような世界にいたということだ。
私のいた世界とはさらに別の世界から転生してきたということになる。
では、カチアやマティス、ティテスはそれぞれ別の世界出身なのか?それともいくつかの世界に限定されるのか?
そもそもなぜこんなにも転生者がいるのか、その謎にもつながるかもしれない。
「うーん、実はわたし、名前以外のことあんまり覚えていないのよね」
「・・・意識ごと転生したわけではないんですか?」
私はティエラとして生まれたときも、意識は奏のままだった。カチアも同じだとしたら、名前以外覚えていないというのはありえないように思えた。転生した瞬間記憶喪失というのなら別だが。
「わたしはベローナって名前をつけられたときに、それはわたしの名前じゃないような気がして・・・
それからしばらくして、カチアとして生きていて、一度死んだんだってぼんやり思い出したの。
あと覚えてるのは、暗いところにいて、あたりを何かが囲んでいて・・・たぶんだけど、死んだ時の光景じゃないかしら」
転生前の記憶の量には差があるのか?
そういえばレイは精霊の泉で、こんなに記憶があるのははじめてだと言っていたような気がする。私みたいなケースのほうがもしかしたらレアなのかもしれない。
とはいえ、その程度の記憶量ならば、この世界で数年生きて経験することのほうが多いような気がする。なのに、転生前の記憶があるという時点で精霊の力は増す。”転生前の”記憶であることが重要・・・?
この考えが正しいのかレイに聞いてみると、
「そういうわけじゃない・・けどそうとも言えるのかしら。
記憶そのものもあたしたちの力になるけど、言うなれば記憶は、扉みたいなもの?
少ない記憶であっても、あたしたちはそこから内面を覗いてもう少し詳しい記憶や思い出、知識をみることができるわ。
それが違う世界の記憶であれば、この世界の記憶と重複しないから単純に加算されるっていうか・・・
えっと。例えばよ?
この世界で空を見た記憶は違う世界で空を見た記憶と重複する。
だけど、違う世界で空がもし緑色だったら?
この世界で緑の空なんて見られないから、重複しないじゃない?」
・・・難しい。
「つまり、転生前の記憶にはこの世界では得られない記憶や知識がたくさんあるから、この世界で経験したあらゆることとはまた違う記憶があるってことで・・・だから別モノとして加算される、ってことでいいのかしら」
「そういうことね!」
どうやら正解だったようだ。
となると、私の場合はこの世界にはない科学技術だったり化学だったり物理理論だったり、そういうものを持っているから知識量としてかなりの加算がされていることになるのだろう。
おそらくカチアの場合も、何に囲まれていたか覚えていなかったとしても、実はその”何か”がこの世界には存在しないものだったから、知識の加算対象になった可能性がある。
ヴォイドが興味深げに頷いた。
「では、この世界から同じこの世界に転生して記憶があったとしても、同じように強い力を得られることはないわけか」
「そうね!
とはいえ住む場所も立場も違えば持っている記憶も大きく変わるだろうから、それなりに精霊の力は強くなると思うわ」
新しい発見だ。
これは是非ともマティスやティテスにも話を聞いてみなくては。
またどんな発見があるかわからないからね。
カチアを交えてのこの日の夜もまた、穏やかに過ぎていった。




