集合『青の島』
「優、遅い」優は来た途端にアイリーンの小言を食らった。
「ごめんごめん。早く寝ろって言われても、逆になかなか寝れなくなっちゃってさ」しっぽのついた優だけの優は、そう言いつつ笑って誤魔化した。「なんかすごいな、光ってる集団だ」
全てがほの青く、落ち着いた癒しの空気に包まれた『青の島』。その一角に、優と愛理の守護者たちが集合していた。10名にも満たない人数だが、上めの人たちが揃っているだけの事はあって、各々、色々な色の光を発し、ここだけがキラキラと異質な空間になっていた。
アイリーンの後ろからしっぽのついた音風が顔を覗かせた。
「優先輩」
「あー、音ちゃんだ」
「話聞きました。やっぱり部長、部長じゃなかった。私、あんなの絶対おかしいと思ったんですよ」
「うん。すぐに見抜くおまえってすごいよな」
「絶対、部長取り戻しましょう!私、頑張りますから」音風は胸の前でぎゅっと拳を握りしめた。
「おぅ、絶対勝つ!」優は元バスケ部部長らしく、勢い良く拳を上げた。
2人はハイタッチを交わしてしっかりと頷き合った。
ふと気づくと、いつの間にか優の前にしっぽの無いユーディだけのユーディが居た。
「あっ、ユーディだ。へぇ、こうやって見るとすっげーかっこ良い」
音風もひっそりと頷いて、これは本当にドキドキするかも。と心の中で呟いた。
「優と一体になってる方が良いって言う人も居るけどね」ユーディはいつものごとくクールな様子だ。
「ま、私もなかなかいけてるからねー。人気あるし」そう言って優はニッと笑った。
ユーディも少し笑った。
「あー、笑うとすっごい良さ気ー。んー、なんだろな?硬いんだ。もっとこう」優はユーディの頬をひっぱろうと両手を伸ばした。
ユーディは優の手をスッとかわした。
「えー、ユーディ、なんで避けるんだよ」
「なんとなく」
「いいじゃん、いつも合体してる仲なのにさ」優はいたずらっぽい笑みを浮かべてユーディを見た。
「フッ、全く。優、女の子なんだからもう少し…」
「何、うちのおやじみたいな事言ってんだよ。ユーディ、おやじっぽいー」
ユーディは苦笑いして何も言えなくなってしまった。
「ふふっ。優にかかるとユーディもかたなしね。優の守護者もみんな集まってるの。優、せっかくだから挨拶する?」アイリーンが優の守護者たちの方を示した。
「初めまして。いつもお世話になってます」優は守護者たちに向かってきっちりとお辞儀した。口は悪いが、こういう所は礼儀正しい。ユーディにもニッと笑って今更ながら頭を下げた。
優の守護者たちはみんな微笑んでいる。優の方は初めてでも、守護者たちは優の事はずっと見ていて良くわかっている。
「ちなみに、私のレジィみたいなのって?いつも付いて守ってるって…」と言いながら優はユーディに目をやった。
「祓師のことか?優に祓師は付いてない」
「えーなんで?」優は不満そうにユーディを見た。
「必要ないから。そもそも優はあまり寄せない。寄せたとしても跳ね返す力がある。自分で祓う力も強い。だから、居なくても問題ない。まあ、祓師が有り余ってるならそれでも付けるけど、祓師は足りてないんだよ。諦めて」
「へぇ、そうなんだ。じゃ仕方ないか」優は切り替えの早いさっぱりとした性格だ。
突然、場が更に一段明るくなった。
愛理がしっかりと眠るのを見届けて、派手なレジィが現れたのだ。
「わっ、ド派手なレジィだ!」優は嬉しそうにレジィの所へ走って行った。
「昨日のユーディ、面白かったわ」アイリーンはこそっとユーディに話しかけた。
「え?」
「だって、ユーディの顔で、あの優が話してるのよ?想像してみて」
ユーディは、優の様子をながめた。
「レジィ、昨日ぶりー」優は大きく手を振って笑顔で挨拶した。
「あー、もしかして優だけの優?」
「そうそう」
2人は笑顔でハグした。
レジィが優をまじまじと見て言った。「へー、優って、かっこ良いんだー」
「だろ?一応女だけどねー」
「あはっ、僕、『一応男』だけどねっ」レジィからパラッと光が舞った。
「一応男なのにさ、レジィ、かわいいよな」
「えー、ほんとに?嬉しいなー」レジィがニッコリ笑うと、明るい光が大量に舞い散った。
「おー、今日も豪勢にキラッキラ舞ってるねー、なんかご利益ありそうだよなーこれ。レジィ、もっとバラ撒いてよ」
「アハハッ、了解!」レジィは思いっきり笑って、派手に光をまき散らした。
優はキラキラを浴びるように両手を上げて「わー金運ついたー」などと言いながら、はしゃいでいる。
「ふふっ。あの2人、昨日もあんな感じで。気が合うみたい」アイリーンはそう言うと、ユーディの様子を伺った。
「仲良しだね…ん…昨日ね…なんだか、ものすごく…恥ずかしくなってきた」
「見たことのないユーディだった。すごく表情豊かでね。あっ、手振り身振りも。それはそれで素敵だったわよ」アイリーンはユーディを見てくすっと笑った。
ユーディはフッと小さく笑って言った。「嫌な赤の出てるアイリーンみたいなものかな」
「え?」
「貴重体験」ユーディはアイリーンを見て口の端を上げた。
「もう。やり返された」アイリーンは少し口を尖らせて微笑んだ。
光輝を戻して貰う手間分、一足遅れてサラが現れた。
「あ、サラ、有難う。大変だったわね」すぐにアイリーンが声をかけた。
「いえ、レジィさんが居ましたから。私、弾作りながらで…もしも、今晩、うまくいかなかったら、明日も大変だろうから、念のためで」光輝を切っていないサラは、桃色がかった銀の髪、淡い空色の服で、少しはかない印象になる。いつもと違いポニーテールになっている分、普段よりはまだ幾分元気そうな雰囲気にはなっている。
「サラ、ここに居なくても良いのよ。みんなにもそう言ってるんだけど、居たいみたいで」
「私も気になります…居させてください。一時的でも今、私、愛理の守護者ですから」
「計画通りにうまくいけば、あっと言う間に片が付くはずなんだけど…弾、無駄になっちゃうかも」
「上手く行っても…すぐに使います」サラは自分に言いきかせるように言った。
「サラ…誰かの祓師、する気になった?」
「…はい。ご心配かけました」
「そう。良かった」アイリーンが微笑むとやわらかい虹色の光がふわっと広がった。
「あ、サラ。その髪型、すごく似合ってるわ」
サラは頭に手をやって照れた様子で微笑んだ。
「じゃあ、みんな揃った所で…」アイリーンが話し始めた。
「シンプルプランよ。音ちゃんが愛理にジャンプしたら、レジィは音ちゃんにジャンプして、即、愛理を射る。上手くいけばこれで終わり。シンプルでしょ?」
みんなそれぞれに頷いた。
「ただ、破魔矢が絶対に効くって保証は…無いけど、信じるしかない。そもそも、もし音ちゃんが愛理にジャンプ出来なかったら、いきなりプラン練り直しになる。でも、きっと、あれは、私たちが連携とってるなんて考えもしないでしょうから、音ちゃんは拒否されてないはずよ。音ちゃんが無事にジャンプ出来て、上手く行かなかったら…間違いなく全員拒否される。もう、こっちで追えなくなるわ。一晩勝負よ」
「なんか、私、責任重大っすね」音風が呟いた。
「音ちゃんは、愛理の体に被らないように後ろ向きにしっかりつかまって。こんな感じ」アイリーンは音風の腕に、前から腕を回して実演した。
「わっ、なんか気持ち良い…」音風が思わず呟いた。
「え?」アイリーンは音風を見た。
「あっ、いや、変な意味じゃなくて、なんていうか、あったかい光に包まれてるみたいで」
アイリーンはニコッと微笑んだ。虹色の淡い光がふんわりと広がり、音風は更に気持ち良さそうな顔をした。
「こうすれば、レジィは音ちゃんの前、つまり愛理の後ろ側にジャンプできて、すぐに背中を射れる。音ちゃんは、愛理が前を向いてるタイミングでレジィに”今”って伝えて」そう言うとアイリーンは手を離した。「良い?」
「あ…はい。何か、力貰った感じです。了解しました!」音風は右手を額にビシッと当てて敬礼した。
「あ、けど、もし、何かイレギュラーな事があったら?」
「音ちゃんは、ジャンプされた時に追えるように絶対に愛理を離さないで。音ちゃんが離したら多分もう二度と、永久に愛理を追えなくなる」そう言って、アイリーンは音風をみつめた。
「永久…。了解です!スッポンですね、スッポン」
「私は?何もなし?」優がしびれを切らせて口を開いた。
「優はレジィと音ちゃん、この2人と繋ぎっぱなしにして、下の様子をここでみんなに伝えて欲しいの」
「…私、待機?」優は不満そうな声をあげた。
「もしも万が一イレギュラーが起こった時、下と上を中継する、重要な役目よ」
「じっとしてるのって性に合わないんだけど」と言って、優は訴えるようにユーディに目を向けた。
「わかってるが…ここに居る者は優以外全員、下とは繋がらない。自分が行けない場所に居る人とは話すのも無理なんだよ。これは優にしかできないことだから」ユーディはなだめるように言った。
「優、性に合わなくてもやって。愛理の為よ」アイリーンがピシッと言った。アイリーンは何故か優には少し厳しめだ。
「…わかった」優はしぶしぶ了承した。かと思うと、「よーし、任せろ!完璧な実況中継してやるよ」と元気よく言った。これが優の切り替えの早さだ。
「お願いね。レジィはOK?」
「うんOK。音ちゃんからゴーサインが出たら、ジャンプして速攻で愛理を射る。背中から超至近距離で。だよね?よろしくね。音ちゃん」レジィは音風にニコッと笑いかけた。
「わー、キラキラ飛んでる…きれい」音風はレジィのキラキラに目を奪われた。そして思い出したようにペコッとお辞儀した。「こちらこそ、よろしくです」
「んー、ほぼ矢つきつけての発射だね」レジィは嫌そうな顔でボソボソと呟いた。
手で突き刺せる距離だ…けど、それもっとヤだな、無理。弓にしよ。
と、レジィが考えていると、アイリーンが声をあげた。「あ、イレギュラー用に。音ちゃん、もしも飛ばれても驚かないでね」
「飛ぶ?」音風は首を傾けた。
「こっちでは大抵の人は飛べるの。あれが飛ぶかどうかはわからないけど、愛理は飛べるから、やろうとすれば出来る。音ちゃんも飛べるから焦らないでね」
「へ?」音風は目をまるくしてアイリーンを見た。
「試しにちょっと飛んでみる?」
「音ちゃん、飛ぶって思えば飛べるよー」レジィが人懐っこい表情で横から口をはさんだ。
飛ぶ!「わっ、ホントだ、飛んでる」音風はすーっと宙に浮いたと思ったらすぐに降りてきた。
「はい!私もやりたい!」優は興味津々の顔で手を上げてそう言うと、誰の返事も待たずに飛び上がった。「おー、飛んだ!すごい」優は高く飛んでアクロバティックにくるくると飛び回った。さすがに運動神経抜群なだけはある。
「あー、優、なんか楽しそー。僕もー」そう言いながらレジィも飛び上がって空中で優に合流した。
「あっ、そうだ。レジィ、ここでキラキラばら撒いてよ」優が楽しそうに飛び回りながら言った。
「よーし!今日あんまり笑えなかったから、うっぷんばらしー!」レジィが笑いながら飛び回ると、大量のキラキラが宙にばら撒かれ、まるで光の雨のように降り注いできた。
音風は、ほの青い空間を見上げ、嬉しそうに両手を上げて光を受けた。「キラキラがいっぱーい、金色の光のシャワーだ。あ、金色だけじゃない、色んな色、すごくキレイー。これ、起きたら忘れちゃうのか…残念だなぁ」
サラも弾を作るのを止め、上を向き、穏やかな表情で呟いた。「ホント、綺麗。今日の最悪が洗い流されるみたい」
しばらくすると、アイリーンの鶴の一声が響いた。
「そこの仲良しさんたち、そろそろ降りて来て。遊ぶのは終わってからゆっくりとね」
「準備は良い?」
一瞬で地味な姿になったレジィは『破魔矢』を弓につがえて構えた。
アイリーンが音風に頷いて見せると、
音風が消えた。