プロローグ
なあ、世の中ってのは不公平だって思ったことはないか?
別に妖しい宗教の勧誘じゃないから安心して欲しい。とにかく俺の話を聞いてくれ。
物事ってのは、いくら頑張ったって上手く行くとは限らないし、善良な人間が良い目を見るとも限らない。むしろ正直者がバカを見る世の中だ。チャンスはどこにでも転がってる? それをモノにできない奴がとろいんだ? いやいや、この世界には、ちっぽけなチャンスすら与えられない人間ってのがわんさかいるんだ。
確かに努力は必要だろう。それは俺も認めるところだ。実際、今の俺があるのは努力の賜物だと自負している。それというのも、ガキの頃から親父に嫌ってほど聞かされてきた言葉がこれだ。
「自分の生まれを恥じているわけじゃない。しかし現実として、俺達は白人の倍以上努力しなければ上には行けないんだ」
親父の言うとおり、今までがむしゃらにやってきたさ。そしてこれからも、この努力というものを続けなくちゃいけないんだとも覚悟している。まあ、俺と同じ肌の色をした男が大統領にもなったわけだし、そこらへんは疑っちゃいない。
そんなわけで、一年通じて気候も温暖、テーマパークが多くリゾート気分の観光客が溢れるこのサンディエゴという街で、俺は地味な背広を着込み、重いスミス&ウェッソンをぶら提げているんだな。俺の今の身分は、いわゆる国家公務員だ。
俺のことについては、これくらいにしておこう。それに、ちっぽけなチャンスも与えられない人間というのは、自分のことを言っているわけじゃない。
俺みたいな仕事をしていると、そういう奴に出くわすことも多いんだ。しかも、こんな奴が自分の悲惨な境遇にぶち切れて犯罪を企てたとしたら、どうなると思う?
これは、そんな奴がしでかしたある事件を綴った物語だ。




