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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡七一、水野少佐


「オイ、アレコソ火鼠デハナイカ!」


 燈里の中のギョクトが変身した斜子を認めて叫ぶ。


「あちち、あちあち……は? いきなりなんだよ!?」


「ナンタルコト……アレ程探シテ見ツカラナカッタ『五ツ神宝(いつかんだから)』ガコウモ立テ続ケ二見ツカルトハ……何カニ導カレテイルカノヨウダ……」


「え? 斜子さんが火鼠なの?」


「ウム。コレデ残ルハ、燕ノ子安貝ト龍ノ顎ノ玉ノフタツノミ、青龍ヲ目覚メサセ、燕ノ子安貝ヲ見ツケレバ、ヌシラモ新シイ次元ニ進メルゾ!」


「おお、教授の悲願が……」


 燈里が佐々木中尉を横たえて、水野少佐へと身体を向ける。


「……でも、その前にあの河童のおじさんを助けなきゃ」


 大きく袈裟がけに斬られた河童星人は息も絶え絶えで水野少佐の足元に転がっている。


「未熟者だが助けてくれてありがとう、と言うべきかな?」


「そこの河童のおじさんと交換、というのは?」


「無理だと言うのは察しているのでは?」


「まあ、なんとなくは……」


「逆に言えば、八千八百八十八枚もあるんだ。

 一枚くらい譲ってもいいのでは?」


「一枚なら考えなくはないですけどね。

 実際、五枚でしたっけ?

 教授がお譲りしたのは……」


「さあ? 自分の権限では預かり知らぬことだ。

 命令は新しい『ムーンディスク』を確保することだからな」


「そうですか。

 でも、やはり『一枚』お渡しするのと、『ひとり』お渡しするのは違いますよね」


「犯罪者だろう。そこまで気にする必要があるのか?」


「まあ、一度はボコボコにされた相手で、あまりいい感情は持ってませんけどね……それでも、あなたたちに奪われる形で連れて行かれるとなると、違うかな……と」


「ふん……随分と青臭い物言いをするんだな……」


「ええ、まだ、ピチピチの高校生なもんで……」


 水野少佐の顔色が変わる。


「おい、子供がこんなところに来るな!」


「ニャーるほど!

 そんなこと言ったら、私もピチピチの女子高生ニャ!」


「なんだと!? 浮島区ではそんなことがまかり通るのか!」


「『ムーンディスク』の暴走を抑えられる人間は少ないニャ!

 つまり、猫の手でも借りたいから、貸してるのニャ!」


「……だからと言って、君たちはまだ子供だ!

 こんなことをするべきじゃない!」


「それを言うなら、あなた方が『こんなこと』をしなければ、僕らがかり出されることもないんですけどね……」


「……ふぅ。そうか。

 『MD研究室』、そこまで腐っていたか……」


 そう言って、怒りの形相で向けた視線の先には、植え込みに半分ほど身を隠した斜子がいる。


「責任を取るべきは貴様だな……」


 水野少佐が『七支刀レプリカ』で地を削りながら、走り出す。


「ヤバいニャ!

 望月は河童の人! 斜子さんは私がなんとかするニャ!」


 叶和が慌てて斜子との間に割り込んだ。

 水野少佐は『七支刀レプリカ』の柄頭を叶和の鳩尾にめり込ませる。


「ぐふっ……」


 一撃だった。一撃で叶和はくずおれる。


「寝ていろ……」


 水野少佐が何事もなかったかのように、歩を進める。


「ひ、ひぃぃ……」


 水野少佐の怒りの形相に完全にびびった斜子は後ろにさがることすらできない。

 蛇に睨まれた蛙になってしまった。


 藻掻くように叶和が水野少佐の足を掴んだ。


「その人は非戦闘員ですニャ……」


「だが、責任が取れる大人だ……」


 必死に意識を繋ぎ止めながら、叶和が呟くが、変身して力が増していても、体重は変わらない。

 そして、叶和の体重では水野少佐の足枷には不十分だった。


「イカン!

 火鼠ヲ失ウ訳ニハ!

 スマヌ、身体ヲ借リルゾ!」


 燈里の中で何かが切り替わる感じがする。

 一瞬で自分の身体の制御がギョクトに切り替わった。

 口を勝手に使われるよりも、強い嫌悪感が燈里を襲う。

 感覚はあるのに、自分の意思が入らずに身体が動く。

 その嫌悪感に、燈里の中で何かが削れる感覚がある。


 燈里は【霊搗の大杵】で河童星人から出て行こうとする魂を叩いて戻していた。

 かと思えば、一瞬で【生太刀・影打ち】を手に、水野少佐へと飛びかかっていた。


 その殺気。危険な何かを感じ取って、水野少佐が『七支刀レプリカ』を背後に回す。

 キンッ! 金属音が響いて、背後からの一撃を防いだ。

 水野少佐が、叶和の掴む手を蹴り飛ばすように振り向く。


「ソノ者ハ殺サセル訳ニ行カヌ!」


「人が変わったか……暴走だな……」


「何トデモヌカセ!

 ヤリタクモナイ事ヲヤラセオッテ!」


「手加減は厳しいか……死んでくれるなよ!」


 水野少佐は中身が入れ替わったらしき燈里の所作から、それが素人のソレではなく、剣を握ったことのある者、もっと言えば、殺せる使い手のものだと見抜いた。

 それ故だろう。瞬間、抜き手も見せずに『七支刀レプリカ』が振るわれる。

 だが、燈里の中のギョクトはその剣に合わせて、【生太刀・影打ち】で受けている。


「膂力デ言エバ、ソコラノ熊ノ方ガ上ダナ」


「抜かせ! 熊にこの剣技はなかろう!」


 水野少佐は上下左右、あらゆる方向からの多段攻撃を放つ。


「マダマダ……狼共ノ連携ノ方ガ厄介ゾ」


「これも受けるか!

 子供と思って手加減したが、よほどの研鑽を積んだと見える……」


「年月ナゾ忘レタワ!

 何度、食ワレタカモナ! コノ身ニ染ミ付イタ丹ガ死ヲ許サヌ……豪剣、奇剣、奇襲、夜襲……全テコノ身ニ焼キ付イタダケヨ!」


「ふっ……さすが妖物か……ならばこちらもそれなりに覚悟をせねばなるまい……」


 水野少佐が脱力する。だが、その剣気だけが膨れ上がる。


「ムッ……コノ荒御魂ハ……」


 ギョクトの目には荒ぶる魂とそれを包む和御魂、それが肥大していく様が見える。

 和御魂が破れて、荒御魂が溢れ出す。

 自然とギョクトはソレを防ぐべく【生太刀・影打ち】でソレを受ける。

 だが、実際は水野少佐は脱力したままだ。

 『斬る』という意識の具現化。

 ソレにギョクトは動かされている。

 針のように細く奇御霊が伸びた。

 それはギョクトの脇腹を貫通する。


 気付けば、水野少佐の『七支刀レプリカ』は燈里の脇腹を斬り裂いていた。


「グハッ……」


 ギョクトは斬られた勢いのままに回転することで、どうにか転倒を防ぐ。

 水野少佐はまた荒御魂を膨れ上げる。

 和御魂に包まれた荒御魂がはち切れるようにしてギョクトを襲う。

 ギョクトの身体がソレに反応してしまうと、また奇御魂の細い針が肩口を襲う。


 ギョクトは斬られた。


 ならばと、ギョクトは荒御魂に反応したくなるのを抑えて、奇御魂に集中するが、今度は荒御魂の方に『七支刀レプリカ』が振るわれる。


 荒御魂のままに振るわれる豪剣。

 燈里の右膝から先が両断された。

 ゴロゴロと燈里が転がる。


「クッ……マサカ、コウマデ御魂ヲ自在ニ操ルトハ……」


「剣気が読めるようだが……読めるからこそ、この虚実の剣に惑わされる。

 これぞ奥義【水面月みなもづき】。

 私にこれを出させたこと、誇るが良い……」


 水野少佐は血脂を振り払うように『七支刀レプリカ』を振ると、今度こそ斜子の方へと意識を向けた。

 だが、ギョクトが呟く。


「親器君臨、【月玉の豊受(ツキモチノホウジュ)】……」


 左手の【霊搗の大杵】で軽く地を叩けば、餅ができる。

 それを親噐として生み出せば、月見団子が、コロリと生まれる。

 それを口に含む。

 斬られた右膝から先が、モリモリと生えてくる。


 ───おい、奪っておいて負けるなよ───


「クッ……童子ノ真似ハ業腹ダガ……」


 ギョクトにしてみれば、回復のための餅搗きであって、本来とは違う使い方というのに業を背負う形にはなるが、水野少佐の【水面月】を見切れない以上、致し方なしと覚悟を決める。

 【霊搗の大杵】で地を叩く。

 叩いた場所から線が伸びて、水野少佐の足元だけが餅になる。


 むにっ、という感覚と共に水野少佐の足が餅に沈む。


「これは……」


 水野少佐が振り返ろうとするが、底なし沼のように足が沈み、動こうとするほどに両足が沈んでいく。


「死ニハセヌ。ムシロ、不老長寿ノ妙薬ヨ……後デ傷付イタ者タチニ食ワセルト良イ」


「おのれ! 妖術の類いか……」


 藻掻く水野少佐だったが、身体は沈んでいく。

 そして、下半身がすっかり埋まったくらいで、水野少佐は諦めたように力を抜いた。

 だが、その目には爛々とした怒りがあり、斜子の方に向けられている。


「おい、貴様! 他の奴らにも伝えておけ!

 子供を大人の争いに巻き込むな!

 次に現場で子供が使われているのを見かけたら、俺は貴様らを絶対に許さない!

 いいか!」


「は、はひぃぃぃ!」


 斜子はただ暴力性に煽られて返事をする。

 しかし、異を唱えたのは叶和だった。


「ふざけるニャ!

 この浮島区から出られなくしたのは、誰ニャ!

 子供は戦うなって言うなら、暴走者に殺されてろって言うのと同じニャ!

 お前は子供たちだけでも、ここから逃がしてくれたのかニャ!

 ここは、お前みたいに戦う力があっても、子供に負ける世界ニャ!

 そんなお前が、この世界の境界線で眺めていただけのお前が何かを語る権利はないニャ!」


 水野少佐は、ジッと地面の一点を見つめて何も言えなくなってしまう。


「……その通りだ。

 俺にはここで何かを語る権利はないな……。

 すまん……まさか子供に正しさを教えられるとは……」


 水野少佐は何かを噛み締めるように餅の中で立ち尽くしていた。


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