中々山荘の住人
私は拾われて来た仔猫のミケちゃん、ではなくて、拾われてからもう何日も経っているから
私は拾われて来た大人に近い三毛猫のミケです。
膨よかな体型のおおらかな飼い主の(房助)ぼうすけさんに拾われて
優しい大家の(永谷)ながたにおばさんに育てられたの。
私のやりたいことはただ一つ。早く人間の言葉を覚えてお世話になった人に恩返しをすること。
だから毎日いろんなことを覚える努力をしているわ。
..毎日狭い家にいてつまらなくないかって?
そんなことはないわ。
なぜなら飼い主のぼうすけさんの部屋の押入れの奥には小さな穴が開いていて、そこからいつでもお隣りの大家さんの部屋に行って好きなことを観察できるのよ。
大家さんのおばさんも穴には気がついているんだけど、私がある事件を解決したことから穴はそのままになっているわ。
今日は大家さんの部屋を通してアパートの中がどうなっているのか少しだけ探検してみようと思うの。
ところでここは中々山荘のアパートのなか、二階の部屋は全部で6つあるわ。
私の住むぼうすけさんの部屋とその隣りが大家さんの部屋で、その隣りは売れない画家さんが住んでいて、その真向かいの部屋は退職したおじさんが住んでいてその隣りは売れない小説家さんが住んでるの。
そして売れない小説家さんの隣りの部屋はまだ空き家のままになっているわ..。
私はある事件からこのアパートを救った猫としてなかなかに有名になったのよ。
一番かわいがってくれるのはアパートの大家さんだけど、不器用ながらにかわいがってくれる人がもう一人いるわ。
それが売れない小説家さんの冬美さん。
冬美さんは痩せていて背が高く長い髪は黒くて伸ばしていて、歳は?で独り身なんだけど優しくて静かで私は好き。
冬美さんは何故だか私を見つけると小さな飴を一つくれるの。私は目の前のその小さな飴玉にたまらずにささっと手を動かして飴玉サッカーをはじめると冬美さんはいつも静かに嬉しそうに眺めてくれるのよ。
それから冬美さんの部屋と大家の永谷さんの部屋を行ったり来たりしている私のお友達もいるわ。
そのお友達は昼間は寝ていて夜に元気になるんだけど、人間にしてみたらなかなか厄介かもしれないわね。
私はどうしてもこのお友達を嫌いにはなれないんだけど、大家さんに見つかったら大変になるからいつも彼は隠れているわ。
大抵、冬美さんの部屋の屋根裏あたりに床を構えていてお腹が空くと大家さんの部屋へ来ることになっているの。
でも今日は昼間だけど運良く出会えたみたい。
そのお友達は大家さんの部屋と冬美さんの部屋の間の廊下を渡ろうとしている最中だったけど
後ろに何かを運んでいてゆっくりしか進めないみたいだったわ。
私は驚かせないようにいつも静かに彼に話しかけるようにしているの。
「こんにちは」
そしていつも、彼はことのほか驚いた様子で私を見るのよ。
「なんだい。猫かい」
今日はいつもより彼の機嫌が悪いみたいに見えるの。だから丁寧に受け応えしないとと思って私は返事を返したわ。
「ミケです。」
ところで私はこのお友達を何て呼んだらいいのか迷うところです。
彼は大家さんの部屋から出て来て何かをあんまり一生懸命に運んでいたのでつい私は声をかけたの。
「手伝いましょうか?」
ピンと長いヒゲがもぞもぞ動いてほんの少しだけ彼は笑ったわ。
「いいよ。猫の手なんか借りないよ」
私は笑った彼をそのままにしたくて手伝いできなかさらに聞いたの。
「手じゃなくて口で運びましょうか?」
小さな彼は嬉しそうに向き合って私を見上げて言ったわ。
「あんた変わった猫だね。」
私はうずうずしてやっと彼に聞きたいことを聞いたわ。
「あの、なんと呼んだらいいですか?」
彼は眩しそうに私を見上げてしっかりと言ったわ。
「ガスパールとお呼びよ、白ちゃん。」
ガスパールさん..私は聞いたことのない響きにドキドキしたわ。
だからゆっくりと返事を返したの。
「ミケです」