地銀(ちぎん)
「えっ?1千万ギルを用立てるとは、どういう事ですか?」
ポキール神父は、シュウが何を言ったか理解出来なかった様子だ。
「そのままの意味ですよ、
俺達みたいな若造が1千万ギルを払うと言ってもピンと来ないでしょうが、
然る大金持ちの方から、俺達から見て心根が正しいと思う人達が、
お金に困って居たら使って良いと託された3千万ギルを持ってるんですよ」
「冗談では無いからご安心下さい」
ケンは、何かあった時の為にと、
財布に1枚入れておいた白金貨を取り出すと神父に見せた。
「それは・・・もしかして白金貨ですか!?
前に一度だけ、この国の首都ポルポートで開催された
教会の総本山での祝賀行事へと出席した際に、
国家元首のカメオーク様から、枢機卿猊下様へと賜れた御下賜金と同じ物に見えます。
しかし、お二人のお話が事実と致しましたところで、
1千万ギルもの大金をご用立て頂いても、
我が教会には、お返し出来る物など何も無いのですよ」
「では、こういう事にしたら、どうでしょうか?
このお金は差し上げるのでは無くて、
無期限でお貸しするんですよ、
返済は教会の予算に余裕が出た時に少しづつ返して行く事にして、
神父さんの代で返し終えなくても、
いつの日にか返し終えれば良い契約にして置くとか・・・」
「勿論、無利子でね」
「それが、お許し頂けるのであれば、
ちゃんと次世代の神父にも申し伝える事をお約束致しますが、
本当に、それで宜しいのですか?」
「ええ、お金は正しい事に使ってこそ役立つ物ですからね」
「こういう時こそ使わなくちゃだよね」
「おお神よ!この出会いをお導き下さった事に感謝申し上げます!」
「そんじゃ、この後ポン吉くんに、
魔導バックを購入出来る店までの案内を頼んでありますから、
その時に、ここの土地を購入する手続きも済ませて来ますね、
それで、土地の購入をする場合には何処に行けば良いんでしょうか?」
「不動産屋さんて、あるのかな?」
「土地や建物の売買は、商業ギルドで取り扱って居ります。
お二人は、商業ギルドの御口座はお持ちなのでしょうか?」
「いえ、持ってませんね」
「持ってた方が良いんですか?」
「はい、お二人は暫くしたら、また旅立たれるのですよね?
お借りしたお金の返済金を、お二人の御口座へと入金する様にすれば、
他の街の商業ギルドでも引き下ろせる様になりますので・・・」
「なる程、商業ギルドで銀行みたいな業務を取り扱ってるって訳か」
「大金を持ち歩くのは危ないから預けて置いた方が安全だね」
「ギンコウですか?」
「ええ、俺達が知ってる他の国にも、
そういう業務を取り扱ってるお店があったんですよ」
「お金に関する専門店だよね」
「はて?商業ギルドは世界展開をして居る様ですが、
同じ様な業務で、商売として成り立って居るのですか?」
「え?ええ、地域に根差した活動で、
お客さんを確保しているみたいでしたね」
「地域の特産品のプレゼントとかね」
「ほう、そうなのですか」
「ええ、そ、そんじゃ今日中に土地の契約なんかを、
全て済ませて来ようと思いますんで、
俺達は、これで失礼しますね」
「結果は、また明日にでも報告に伺う様にしますね」
「はい、お二人には大変なお世話になりますが、
どうぞ宜しくお願い申し上げます。
今、使いの者にポン吉を呼びに行かせますので少々のお待ちを・・・」
ポキール神父は、呼び鈴で教会の下働きをする者を呼び付けると、
教会に隣接する孤児院へと戻って居るポン吉を呼びに向かわせた。
「兄ちゃん達、神父様から何か面白い話とか聞けたのか?」
孤児院から戻ったポン吉を伴って、
シュウ達はアナポーの街の、中心街へと向かって歩を進めていた。
「ああ、ポン吉のお蔭で色々と為になる話を聞かせて貰ったよ、
そのお返しと言っちゃなんだけど・・・
教会が必要としていたお金は、俺達で立て替える事になったぞ」
「もう無理して、お金を集めなくても良くなったよ」
「えっ?それじゃオイラ達、あそこから出て行かなくても良くなったの?」
「ああ、大人になって独立するまでは、
皆と一緒に暮らせるぞ」
「その代わり、ちゃんと神父様方の言う事を聞いて、
勉強とかしなくちゃダメだよ」
「やった~!ありがとう兄ちゃん達、
うん、オイラもっと真剣に勉強して、
シア姉ぇみたいな、ちゃんとした仕事を見付けるんだ。
それにしても、兄ちゃん達って見かけに寄らず金持ちなんだな」
「見かけに寄らずは余計だっつ~の!」
「まあ、確かに僕達が自分達で稼いだお金じゃ無いもんね・・・」
「兄ちゃん達、街が見えて来たけど、
最初に話してた魔導バックが買える店に案内すれば良いのか?」
「いや、先に教会の土地の方の契約を済ませて置きたいから、
商業ギルドまで案内してくれるか?」
「お店の方は、その後にお願いするね」
「それなら丁度良いよ、
魔導バックを売ってる店も、商業ギルドの並びにあるから同じ方向だよ」
「そりゃ丁度良いな」
「あちこち行かなくて済むね」




