オーストリッチ・マウス教団
「でも『アナポー年代記』に、
こうしてゴジュウショク様と辺境伯様の、やり取りが書いてあるなら、
この土地が教会の正当な持ち物だって証明になるんじゃないんですか?」
「でもシュウ兄ィ、この文章じゃ場所の特定が出来ないよね?」
「はい、弟さんが仰る通りにアポペン様も、
『この文章だけでは、この場所か分からないだろう。』と仰られて居ります。」
ポキール神父は、ケンの言葉を残念そうな表情をしながら肯定した。
「コウヤサン教会が昔から、この場所に建ってるんだとしたら、
この場所の事を指示しているのに間違い無いだろうにな」
「それはアポペン様も分かってるんだと思うよ」
「はい、アポペン様も、その辺の事は全てご承知の上で、
この土地を入手したくて、そう仰られているのだと思われます。」
「そう言う事か・・・
そうすると、この土地を買えるだけのお金が用意出来ても、
アポペン様は売ってくれないんじゃ無いんですかね?」
「あ~、それは、ありそうな話だよね」
「いえ、お金を用立てる事が出来たら、
その辺の心配は必要無いんですよ、
アポペン様が歓楽街の候補地とされている土地は何か所かありまして、
その中で、この土地が唯一タダで手に入れられそうな土地だから、
買い上げる様に要求して来ているだけですので、
お金さえ払えば、他の候補地を買い上げて計画を進めるのだと思います。」
「偉大な方の子孫にしては随分とセコイ事を言ってんだな、
そうなると、何とか、ここの土地を買い上げるだけの資金を集めにゃならないんだけど、
神父さん、この土地が幾らぐらいするのか分からないんですけど、
これだけ歴史が深い教会なら、アナポーの街に信者の人達が大勢居るんじゃないんですか?
そういう方達からの寄付金は集められないんですかね?」
「これだけ大きな街なんだから、何とかなりそうだよね」
「一昔前ならば、それで何とかなったのでしょうが、
今現在では、そうも行かないのですよ・・・」
「何でですか?」
「信者の人が減ってるんですか?」
「はい、弟さんが仰る様に当教会の信者の方々が減って居りまして、
一昔前と比べますと一割程度の方々しか残って居られません、
信者の方々からのご寄進も、
孤児院の子供たちの食費に当てるのが、やっとの状態なんですよ」
「9割も減ったなんて普通じゃ無いですよね、
何か原因らしい原因があるんですか?」
「原因も無く9割は減らないよね」
「はい、当教会から離れられた信者の方々の殆どの方達は、
アポペン様の側近の方が、この街に新たに迎え入れた
『オーストリッチ・マウス教団』へと鞍替えされた様です。」
「そっちも、アポペン様絡み何ですか・・・
それで、その教団は何で、そんなに人気があるんですか?」
「そうだよね、何の理由も無く信仰を変えるなんて無さそうだもんね」
「はい、当教会の信者の方で『オーストリッチ・マウス教団』への勧誘を受けて、
断った方の話をお聞きしたのですが、
何でも最初は『神父様の話を聞きに来るだけで良いから来てくれ』と誘われて付いて行くと、
神父の話が一通り終わった後に、
周囲に紛れ込んでいたサクラらしき者の一人が、
『俺、信者になります!』と言い、
それに続いて他の者が『いや!俺が信者になる!』と申しまして、
それに釣られたターゲットの方が『じゃあ俺が・・・』と言うと、
『『どうぞ、どうぞ』』って事らしいのですよ」
「ダチョウか!」
「何か催眠商法みたいだね」
「そして、入信した信者は、
新たに5人の信者を紹介すると10万ギルが進呈されるそうです。」
「ネズミ講だろ!」
「どこにでも悪い事を思い付く人は居るんだね」
「そうして居る内に、あれよあれよと言う間に信者の大半の方達が、
あちらの教団へと移ってしまわれた訳です。」
「日本でも、知ってて引っかかる人が大勢居るぐらいなんだから、
純朴な、こちらの世界の人達じゃ、
それこそ一溜りも無いだろうな・・・」
「そうだね」
「アポペン様は、1千万ギルを払えば、
ここの土地を教会の持ち物と認めると仰られて居りますが、
とてもでは御座いませんが、その様な大金を当教会が用意できる筈も御座いません」
「1千万ギルですか・・・確かに大金ではありますね」
「シュウ兄ィ・・・」
「ああ、そうだな、
陛下は、こういう時の為に、あの金を俺達に貸してくれたんだよな、
神父さん、その一千万ギルですが俺達が用立てますよ」
「ご遠慮無く、お使い下さい。」




