世襲制の弊害(へいがい)
「お話を始める前に茶でも淹れますので、
囲炉裏の端にでも腰を落ち着けて下さいませ」
「はい、分かりました。」
「ありがとう御座います。神父さん」
2人はポキール神父の言葉に従って、囲炉裏端に腰を下ろした。
「さて、まずは何処からのお話をすれば宜しいですかな?
ふむ、お二人はゴジュウショク様が、初代の御領主様と共に、
この街を起こされたというのを、お聞きになりましたかな?」
シュウ達に鉄瓶のお湯を使って、
お茶を淹れながらポキール神父が問い掛けた。
「ええ、ポン吉くんからお聞きしました。」
「たしか当時は、この国がルクシア王国だったって言ってたよね」
「その通りで御座います。
今でこそルクシア共和国となって居りますが、
その当時はカメヘッド・スジバリー・ルクシア国王陛下様が国を治められる、
ルクシア王国と呼ばれて居りました。
そして、ゴジュウショク様と共に、
ここアナポーの街を起こされたペンパナ・アナポー辺境伯様は、
カメヘッド国王陛下様の御従兄弟に当たられるお方で御座いました。」
「へ~、国王陛下の従兄弟だったなら、
国の中でも大分、偉い人だったんですね」
「そうだね」
「はい、共和国となった現在に置いても、
辺境伯様のご子孫の方は、この国において強い発言権を持たれて居られますし、
未だに、ここアナポーの街を治められて居られます。」
「へ~、未だに子孫の人が治めてるって凄いですね」
「世襲制ってヤツだね」
「そこで、当教会が抱えている問題に関係して来られるのが、
昨年、突然の御病気で亡くなられた先代の後を継がれる形で、
この街を治められる事となったアポペン・アナポー様なのです。」
「突然、後を継ぐ事になるなんて大変だったでしょうね」
「後を継がれた方って、お幾つぐらいの年の方なんですか?」
「はい、先代もマダマダ40代とお若かったので、
ご子息のアポペン様には、
この地を治める者の御教育を始めて居られなかった様ですな、
何しろアポペン様は15歳と御成人されたばかりでしたしな・・・」
「成人して直ぐに権力を持っちゃったのか」
「それは、人によっては良く無い事を引き起こしそうだよね」
「はい、アポペン様も後を継がれた当初は、
先代に付かれて居られた側近の方々に、
統治の進め方を教わりながら御勉強されて居られたのですが、
どうやら良からぬ事を吹き込む輩が近付いた様で、
ご意見を申し上げる立場の者達を次々に解雇してしまわれて、
ご自分のお耳に心地よい事のみを申す者で周りを固めてしまわれたのです。」
「そりゃ最悪だな」
「自分に注意してくれる人こそが、
本気で向き合ってくれる人なのにね」
「そうした者の中の一人が、
『この教会の土地を召し上げて歓楽街を造れば、
観光客が増えて税収が上がる』と進言した様なのです。」
「えっ?この教会の土地は、
ゴジュウショク様が、初代領主様から賜ったんじゃないんですか?」
「そうだよね」
「そうなのですが、書面として残って居る訳では御座いませんから、
ゴジュウショク様の持ち物と証明する手立てが御座いませんのです。」
「ゴジュウショク様が、ここに教会を建てる事になった経緯とかが、
分かる書物とかって無かったんですか?」
「何かしら残ってそうなもんだよね」
「はい、『アナポー年代記』という書物に、
唯一それらしき事柄が認められて御座いまして、
それによりますと、
ゴジュウショク様が『ここに俺ん家建てて良い?』とお聞きしたのに対しまして、
辺境伯様が『良いよ!』とお答えされたと認められて居りました。」
「それだけかよ!」
「確かに、それだけじゃ証拠としては弱いよね・・・」




