アナポーの街
「はい、領収書の記載内容には問題ありません」
シュウは、商業ギルドの職員から受け取った領収書を見て、
金額、売買の内容、商業ギルドの名義と印に、
誤りが無い事を確認してから職員に返事を返した。
「ご確認ありがとう御座います。
では最後となりますが、こちらの受取証に、
サインとハンコ若しくは拇印をご捺印頂けましたら、
今回の、お取引は終了となります。」
「はい・・・これで良いですか?」
シュウは、職員から手渡された書類にサインをしてから、
右手の親指にギルドのカウンターに置かれていたインクを付けて拇印を押した。
「はい、問題は御座いません、
今回のお取引ありがとう御座いました。
またの当ギルドのご利用をお待ちして居ります。」
「ええ、お世話様でした。」
「失礼します。」
シュウとケンは、今回の取引を担当したギルド職員に声を掛けてから、
『アナポーの街』にある商業ギルドを後にした。
「はぁ~~~
『絶対に使わない宣言』をした舌の根も乾かない内に、
サスケ陛下から、授かったお金を使っちゃったな~」
「事情があったんだから仕方が無いよシュウ兄ィ
陛下も、こういう時に使う様にって、
僕達に、あのお金を授けて下さったんだろうからさ」
「まあ、それはそうなんだが、
こうも早く使う事になるとは思いもしなかったからヘコむよな~」
「うん、そうだね・・・
まさか僕達が、あんな物を買い上げる事になるとはね・・・」
話は、シュウとケンが『亜空トレウス』に乗って、
『アナポーの街』を訪れた日へと遡る
「そこの魔導車、停止しなさい」
亜空トレウスに搭載されたナビの指示に従って、
『アナポーの街』へと到着したシュウ達兄弟を、
街の出入り口の門にて警備に当たっていた兵士が呼び止めた。
「こんにちは~」
兵士の指示に従って亜空トレウスを停車させたケンが、
運転席から兵士に挨拶をする
「うむ、アナポーの街へと良く来られたな、
魔導車に乗って来たという事は、コウガ王国からのお客人かな?」
「はい、僕達はコウガ王国で大工の修行をしていたのですが、
他の国の建築物を見て勉強する為にルクシア共和国を訪れました。」
ケンは、前もってシュウと打ち合わせて置いた内容を兵士へと告げる
「それは勉強熱心で大した事だな、
街へ入るには身分を証明する物を提示して貰わねばならんのだが、
2人とも大工ならば、建築業ギルドのギルドカードでも良いぞ」
「僕達は田舎の村で生まれ育ち、大工の仕事も父から教わっていたもので、
まだ建築業ギルドに登録して無いんですよ、
この街を訪れたのは、この街の建築業ギルドで登録する目的もあるんです。
それと、証明書でしたら、こちらで宜しいでしょうか?」
ケンは、アナポーの街に入る時に必要になるだろうからと、
ラッセン村の村長ヒジガミから貰っていた紹介状を、
亜空トレウスのサイドポケットから取り出して兵士に手渡した。
「どれ・・・ほぉ、ラッセン村の村長からの紹介状か、
あそこで採れる『下ネタねぎ』は絶品なんだよな、
良し!紹介状に問題は無い様なので街に入っても良いぞ、
その魔導車は門を入って左手に馬車の駐車場があるから、
そこに停めるようにな、
では、2人とも『アナポーの街』へようこそ!」
「「ありがとう御座います。」」
「さ~て、これからどうするかな?」
「先に建築業ギルドで登録した方が良いのかな?」
駐車場に亜空トレウスを駐車した2人は、
アナポーの街並みをキョロキョロと見回しながら会話を交わす。
「しかし、大きな街には石やレンガを使った建物が多いって聞いてたんだが、
この街の建物は木や漆喰を使った建物が多いよな」
「そうだね、昔の映画なんかで見る、
大正とか昭和の初期頃の街並みに似てるから、
何か懐かしい感じがするよね」
「あんちゃん達、この街は初めてなのか?」
2人が声に振り向くと、
そこには、タヌキの様な耳とシッポを付けた
10歳ぐらいに見える獣人の少年が立っていた。
「ああ、そうなんだが良く分かったな」
「あれだけ、物珍しげにキョロキョロしてれば、
オイラみたいな子供にだって分かるさ」
「それも、そうか」
「だね」
「オイラ、この街に住んでるポン太っていうんだけど、
訳があって、お金を稼がなくちゃならないんだよ、
この街の事なら隅から隅まで知り尽くしているオイラが、
あんちゃん達を案内するからお駄賃をくれないか?」
「俺は良いと思うんだが、ケンはどう思う?」
シュウは、ポン太の表情から人を騙す様な事は無いと感じ取り、
本当に何かしらの事情があるのだと考えて、ケンにそう尋ねた。
「うん、僕も良いと思うよ」
ケンも、シュウと同意見の様でコクリと頷きながら、
そう告げた。
「ホントに良いの!?」
「ああ、俺はシュウで、こいつは弟のケンていうんだ
宜しくなポン太」
「宜しくねポン太くん」




