異世界建築事情
「・・・と言う訳で今晩は、このラッセン村へと、
一流の大工となる為に修行の旅を続けて居られる
シュウ君とケン君の御兄弟をお招きしての歓迎の宴を開催したいと思う、
では皆の衆、飲み物は行き渡って居るかな?
大丈夫なようだな、じゃあ乾杯!」
「「「「「カンパ~イ!」」」」」
シュウとケンの挨拶と自己紹介に引き続いて、
村長による乾杯の音頭で歓迎会が始まった。
「どうだシュウ、ケン、この村の料理は中々のもんだろ?」
「ああ、フツーニさん、
ええ、どの料理も美味しくて楽しませて頂いてます。」
「ご馳走になってます。」
この世界では15歳で成人なのでシュウは飲酒年齢に達しているのだが、
日本に居た頃の『お酒はハタチを過ぎてから』という常識や、
弟のケンが飲めないのに気兼ねをして、
ケンに付き合って果実水を飲みながら、
専ら料理の方を楽しんでいた。
「この村も少し前までは山菜やキノコに、
固い黒パンといった普通の村と変わらない食事事情だったんだが、
アネゴやタカムーラといったケンタウロス族を村民として迎えてから、
薬膳なんかの買い付けに商隊が立ち寄る様になって、
それに伴って色んな食材なんかが運び込まれる様になったんだよ」
「そうなんですか、通りで料理に使われている香辛料などが豊富だと思いましたよ、
俺の記憶では地方の村などは良くて塩味っていうのが常識ですからね」
「ごま油とか胡椒が効いてて美味しいよね」
「ああ、少し前まではウチの村でも塩味が付いてればご馳走だったよ」
「やっぱり、そうなんですか、
フツーニさんには、こんなに美味しい料理を食べさせて頂ける村に、
誘って頂き感謝しなきゃなりませんね」
「そうだねシュウ兄ィ」
「いや~俺こそ、こんな立派な弓を貰って済まないな」
「いえ、ほんのお礼の品ですから、
材料は森で採って来たトレントの残りだし、
加工は俺達がしてるから費用は掛かって無いんですよ」
「僕達も良い練習になったしね」
「いやいや、トレントの弓なんて、
大きな街の、それなりに名の通った武器屋にでも行かなきゃ手に入らないんだぜ、
それに、シュウ達が弓を造ったのは、これが初めてだって話だろ?
俺も長い事、この村で猟師をしているが、
これ程、照準に狂いが少ない弓は始めてだぜ、
それこそ、勿体無くて使えないよ」
「折角なんだし、どんどん使う様にして下さいよ、
一応、『状態保存』の魔法を付与しておいたんで、
余程の事が無い限り壊れるなんて事は無いと思いますから」
「シュウ兄ィが付与したんだよ」
「『状態保存』の魔法って・・・
魔法が付与された武器が武器屋で幾らで売ってるのかシュウ達は知ってるのか?」
「いえ、武器屋さんは覘いた事が無いんで分からないですね」
「家具が50万ギルで売れるんだから、その位なのかな?」
「これ程の造りで、しかも材料がトレントを使っていて、
魔法まで付与されてると言ったら300万ギルは下らないだろうな」
「300万ギル!?」
「武器造りって儲かるんだねシュウ兄ィ」
「まあ、武器屋で売るとなったら、
武器職人のギルドに所属しなきゃならんから、
上納金は収めなきゃならんがな」
「それって大工職人でも入れるんですか?」
「僕達、大工になれないと困るもんね」
「いや、大工は建築業ギルドだから、
両方での掛け持ちは出来ないな」
「俺達兄弟は、地方の村生まれで、そのまま村で育って、
大工の仕事も親父に習ったもんだからギルドに所属してないんですけど、
その建築業ギルドっていうのは、どこで入れるんですか?」
「そうだよね、片方にしか入れないんなら建築業ギルドだもんね」
「ああ、この辺で入れるのは『アナポーの街』になるな」
「なる程、教えて頂きありがとう御座います。
それで、その建築業ギルドなんですけど、
その名前からすると、大工以外の職業の人達も所属しているんですね?」
「どんな職方がいるのかな?」
「ああ、他にも石材工やレンガ職人なんかも入ってるぞ」
「石造りやレンガ造りの家って結構あるんですか?」
「中世の街って、そんな感じだよね」
「ああ、地方の村では木造りの家が多いが、
そこそこ大きな街まで行けば石やレンガで造った家の方が多いぞ」
「そうなんですか、そうすると今後、
俺達も大工仕事を探すなら村々を回った方が需要がありますかね?」
「いや、そうとも限らんぞ、大きな街でも木造りの家は多いし、
石やレンガの家だって建具や内装で木を使ってるからな」
「そうですか、それは良かったです。」
「良かったねシュウ兄ィ」




