危険人物
「取り敢えず家具造りの方は、こんなもんにして置いて、
そろそろ、フツーニさんが待ってるラッセン村に向かうとするか」
森でトレントと、普通の木を伐採してきたシュウとケンは、
その材料を使って、大き目な食卓と6脚のイスのセットを、
3セット程造りあげていた。
「うん、分かったよシュウ兄ィ、
でも、このトレントって魔獣の素材ってホント家具造りに向いてるよね」
「ああ、製材してる時から思ってたんだが、
この木目みたいな模様と、色の白さが絶妙だよな、
枝みたいな腕が付いてたから節があるだろうと思ったら全然無いしな」
「うん、節を刳り貫いての細工が必要無かったから助かったよね」
「おう、だいぶ時間の短縮になったな」
「ところで、仕上げにシュウ兄ィの建築魔法にしか無い
『能力付与』ってのを使ってたけど、
それって、どんな効果があるの?」
「ああ、あの魔法は、俺達が造った物に好きな能力を付けられるってもんなんだが、
今回は、食卓に乗せた料理が温かいままで食べられる様にって、
上に乗せた物の温度を保つ効果と、
イスに座った人の疲労を癒す効果を付けといたんだ。」
「その魔法って、なんか色々と応用が利きそうで、
何気に凄いよね?」
「結構、便利な魔法だよな、
まあ、便利といえばケンの『土木』と『基礎』の建築魔法だって、
この世界観だったら絶大な力になると思うぜ」
「そうか! 多分、普通の人達は人力でやってるんだもんね、
この魔法を使えば、街や村を守る為の壁とかだって、アッと言う間に造れるからね」
「まあ、そう言う事だな、
あっそうだ! ケン、お前が造った木刀にも、
付与を施してやるから貸してみろよ」
「うん、ありがとうシュウ兄ィ」
ケンは、建築魔法に慣れる為に何本か習作した木刀の内、
一番気に入った出来の物を掴むと、シュウへと手渡した。
ちなみに、シュウの習作は裸婦像で、
その技量の高さと、材料の白さとが相俟って、
かなりの艶かしさを感じさせる仕上がりとなっていた。
「取り敢えずは状態保存と、魔力を込めると重くなるって付与をしとくぞ」
「うん、折れにくくて、自由に重さが変えられるって事だね」
「そう言う事だ」
出発の準備が整った2人が、見た目は4人乗りの2tトラックで、
その実、荷台に広大な見えない空間を持つ『魔導式亜空間トレーラーハウス』
略して『亜空トレウス』から外へと出て、運転席の時計を見てみると、
亜空間内との時間の流れの違いから2時間程しか経過していないのが見て取れた。
「ホントに『亜空トレウス』の中と外では、全然時間の流れが違うんだね、
僕の感じだと半日ぐらいは中に入ってた気がするんだけど・・・」
「ああ、俺の体感でも、そんなもんだな」
「何だか得した様な気分だよね」
「『時は金なり』って言うぐらいだからな」
2人は『亜空トレウス』へと乗り込むと、フロントに備え付けられているナビを頼りに、
ケンの運転で一番近い村であるラッセン村へと向かった。
暫く、2人が乗った車両がゴッホヨリ街道を進んで行くと、
ナビが『目的地付近です。』と告げる
「あっ、あそこじゃないかな?シュウ兄ィ」
「確かに、人工的な柵っぽいのが見えて来たな」
2人の視線の先の方に、2メートル程の高さを持った
細い丸太を組んで作ったと見える柵が現れて来たのだ。
「もしかして、あの村の入り口みたいな所で、
手を振ってるのってフツーニさんかな?」
「ああ、俺にも、そう見えるな、
あれから、どんだけ時間が経ってると思ってるんだろ?
人を持て成すのが好きな村とか言ってたけど、
どんだけ楽しみにしてるんだよ・・・」
2人の車両が村へと近づくと、フツーニが寄って来て話し掛ける
「漸く来たか、待ち侘びたぞ2人とも、
魔導車は、村の入り口を入ると直ぐ右側に馬車置場があるから、
空いてる所に停めていいぞ」
「あれ?フツーニさん、~ヅラって方言はどうしたんですか?」
「そういえば、そうだね」
「あれはウソだ!
決して作者が面倒になったからでは無いぞ」
「はあ・・・何言ってるのか良く分かりませんが、
この地方の方言って訳じゃ無いんですね?」
「これが、お約束ってヤツだねシュウ兄ィ」
ケンが、フツーニの指示に従って村の中へと車両を進めると、
右手にある広い敷地に沢山の馬車が停車しているのが目に入る、
ざっと30台程の馬車が見て取れるが、空いたスペースも、
まだ、ちらほらと見えた。
「この国の村って、こんなに馬車を持ってるもんなのか?」
停車した『亜空トレウス』から降りたシュウが、フツーニに尋ねる
「そんな訳無いだろ、この村が特別に潤ってるからだよ、
あれらの馬車は村の所有となっていて、希望者は村長に言えばタダで借りられるんだよ」
「タダでか!? そりゃ大分、潤ってんだな・・・うん?
村の人達に、ちらほらと雑じって見えてるのはケンタウロスって人達か?」
シュウの視線の先に広がる村では、フツーニの様な人族に交じって、
下半身が馬で、上半身が人の種族が見て取れたのであった。
「ああ、良く知ってたな、
彼らは確かにケンタウロス族で間違い無いぞ、
そして、この村が潤っているのも、彼らのお蔭なのさ・・・おっ!
俺と仲が良いヤツが丁度居るのが見えるから紹介するぜ、
お~い!タカムーラこっちに来てくれるか~!」
すると、一人のケンタウロス族の男が、
その4つの足で、パカラッパカラッと軽快なリズムを刻みながら走って来るのが見えた。
「よう! 我が心の友フツーニ、俺に何か用か?
ちなみに俺は暇だったんで、村の中をナニと一緒にブラブラ歩いてたんだ」
「ああ、旅の人を村に招待したから、
お前にも紹介しとこうかと思ってな、
コウガ王国からの、お客人でシュウとケンだ
2人は、一人前の大工になる為の修行で旅をしているそうだぞ」
「「宜しく、お願いします。」」
シュウとケンは、目の前の人物から微かな地雷臭を感じながらも、
無難な挨拶をして置く
「おおっ! シュウ君とケン君か宜しくな!
俺はケンタウロス族のタカムーラって者だ!
人は俺を『とにかくエロい、タカムーラ』と呼ぶぞ!」