外出
「はあ……」
メアリーを抱きかかえ、祭華の家に向かう道中、ため息をついた。
祭華からの手紙を見つけた後、すぐに祭華の元へと向かおうと思った。
だが、燐に言ってはいけないような気がしていた。
理由は、ポケットに入っていたメモ。
さっきまで祭華の所にいたのに、帰ってからメモを見つけた……つまり、帰り際か、まだあの家にいる時に入れた、ということになる。
家にいたのにメモで家に来るように指示した……燐には聞かれたくない内容の話、もしくは質問がある……ということになる。
というわけで、燐にすぐ戻る旨を伝えるようガーネットさんに頼み、ホテルを出ようとした―――のだが。
「なんで!? なんでかってにいっちゃうの!?」
玄関で、メアリーに引き留められてしまった。手をガッチリと掴まれている。
「さっきいった! もういい!」
「そういうわけにはいかないんだ、頼むから手を離してくれ……」
「いや!」
参ったな……振り払うわけにはいかない。でも燐に話すのもな……。
「……きらいなの?」
悩んでいると、メアリー訊いてきた。
「え?」
「りんのこと、きらいなの? きらいだから、いじわるするの?」
目から、涙がこぼれた。
「いや、違う。そんな事は無い」
「じゃあいかないで! ここにいて!」
抱き着いてきた。
どうしよう―――。
悩んだ末、メアリーを連れて、祭華の家に行くことになった。燐に言えない理由をメアリーに説明すると、渋々了承してくれた。
「はあ……」
何度目かわからない溜息に、腕の中のメアリーが不安げな表情をした。
「みなと、だいじょうぶ?」
「え、あ、ああ……大丈夫」
「ほてるもどる?」
「いや、それはちょっと……」
そう言うと、俺の首に腕をまわして言った。
「いじわる」
「……」
何、この高等テクニック。
そうこうしているうちに目的地に到着した。
チャイムを鳴らすと、祭華が出てきた。
「来たぞ」
「うん……」
返事はするが、表情は浮かばない。
「どうした?」
「いや、その子」
「ああ、色々あって……」
ホテルで起きた事を祭華に話すと、何故か首を傾げた。
「湊、君はいくつか勘違いしてる」
そう言うと、人差し指を立てて言った。
「まず、僕は、燐ちゃんに内緒で来てくれなんて言ってないよ」
「え? でも、あの紙は、ポケットにこっそり入れたんだろ? だから、内緒で来てくれって事なのかと……」
「いや……そうじゃなくて」
おもむろに靴箱の上に置いてあるペンを取った。
「よく見てて」
両手で包んで数回振ると―――。
「ほら」
―――ペンは無くなっていた。
「え!?」
まるで、マジックの様だった。
「湊、ポケットの中を確認してみて」
「え? ああ……」
メアリーを抱えたままポケットを探ると、何か硬い物にぶつかった。
確認すると、さっき祭華が持っていたペンが出てきた。
「……祭華、お前、マジック出来るようになったのか?」
そう言うと、祭華は眉をひそめた。
「そうじゃなくて……これも、物として呼ばれた人たちの特徴らしいよ。物を転送する事が出来るっていう」
「えっ……そうなのか? メアリー」
訊いてみたが、首を振って「しらなかった」と言われた。
「で、さっき、君がホテルに戻った後、その力があるかどうか確かめるために、君の服のポケットにさっきのメモを転送したんだ。思いのほか上手くいって、驚いてるけど、成功して良かったよ」
「そういう事だったのか……」
と、その時だった。
「あっ」
メアリーが俺の腕から滑り降りた。
「ん、どうした?」
「りんがきてる」
「え?」
振り返ると、肩で息をし、涙目でこっちを見る燐の姿があった。
「燐……」
名前を呼ぶと、俺に駆け寄り、抱きしめられた。
「うっ……ううっ―――」
声を押し殺して泣いていた。
また、やってしまった……。