懐古
思い出した。
燐の話を聞いて、当時の記憶が甦ってきた。
ある日、綺麗な女の人が訪ねてきて、隣に引っ越してきた者です、とか言って、玄関口で母さんが何か貰っていたような気がする。あの人は、燐の母親だったんだ。
そして、目の前にいる妖精が、当時5歳の俺と一緒に遊んだ女の子、秋桜燐の現在の姿……。
秋桜家は、引っ越してきてから僅か2ヶ月ほどでまた引っ越してしまったので、あまり印象に残っていなかった。
一拍置いて、燐は立ち上がった。
「湊君は、私が初めて仲良くなった男の子だった。女帝国に召還されて、妖精にされて、窮地に立たされた時、もう湊君しか頼る人が思い浮かばなかったんだ。
……迷惑だっていうのは解ってるし、自分勝手だっていうのも解ってる。本当に、ごめんなさい」
言い訳もせず、頭を下げた。
違う。俺は別に、謝ってほしいわけじゃない。
謝るのは、俺の方だ。
「えっと、あの、その……燐、ごめん!!」
俺も頭を下げた。
「正直言うと……忘れてた」
「えっ……」
「で、でも! 今ので、思い出した。あの、熊のメアリーちゃん……今でも元気なのか?」
焦りながらそう言うと、燐が吹き出した。
「うん、元気だよ。先日洗って干してたら野良猫がかじってたけど、命に別状ないから大丈夫」
くすくす笑いながら教えてくれた。
「そ、そっか。いやぁ、よかったよかった……あの時、3人で遊んだりしたもんな……」
ぬいぐるみと、子供2人で……何と滑稽な……いや、そうでもないのか?
「ふふっ、思い出してくれて、嬉しいよ」
そう言って笑う燐の笑顔に、何故かホッとしている自分がいた。