その理由とは?
その後、夕食を食べ終え、俺と燐は部屋に戻った。
「さて、これからどうするの?」
燐がソファに座ってそう訊いてきた。
「俺としては風呂に入りたいところなんだけど、さすがに女の身体のままで入るのは抵抗あるからどうしようか……」
「確かに、元の世界に還ることが出来るのは1日1回だけだし、もう昼間にやっちゃったもんね……じゃあ、12時過ぎたらやる?」
「それもそうだな」
「っていうか、湊君」
「ん?」
「学校、どうするの……?」
「あ」
すっかり忘れていた。
「えっと、その……今、何時?」
「こっちの時間だともう9時だよ」
「元の世界の時間とか、解るか?」
「多分、同じだと思う……」
「じゃあ……」
親が、心配しているかもしれない。
「………別に、いいよ。学校くらい」
「え?」
「だって、もう手遅れじゃん……俺の親、外泊とか、夜遅くまで遊んでるのとか、絶対に許してくれないタイプなんだ。だから……。
それに、いざ帰って事情を説明しても、解ってくれるとは思えないし。こっちの世界を何とかする方が大事だと思って」
「湊君……」
……ちょっと、キザっぽかっただろうか?
「ともかく、あと3時間か……どうするかな」
時間を潰そうにも、この部屋にはそういう類の物はないし、外は薄暗いから危なさそうだし……。
「ねぇ、湊君。1つ訊いてもいい?」
不意に燐が訊いてきた。
「何だよ、急に」
「湊君って、小さい頃どんな子供だった?」
「ち、小さい頃? そんな昔のことは―――」
「覚えてないの?」
「覚えてないっていうか、どこまでが小さい頃なのか解らないというか……」
言わずもがな、小さい頃っていうのは誰しも黒歴史が欠かせない年頃であって……そう易々と話したくない。どうにか話題を変えよう。
「そ、そういえば、燐はどうして俺をこの世界に呼んだんだ?さっきは誤魔化してて、教えてくれなかっただろ?」
「え? あー……実は私も、その話をしようとして、湊君に過去の話を振ったんだけど……やっぱり、解らない?」
「解らないって、どういう意味だよ?」
「解らないなら言うけど……実は私、小さい頃、湊君と会ったことがあるんだ」
「ふーん……え!?」
何気なく言われ、思わず大声を出してしまった。
「え、小さい頃って……小学校入る前とかそういう……?」
「大体そんな頃かなぁ。私の家、引っ越しばかりしてたからさ、誰かと仲良くなることは無くても、誰かと会うことは結構多かったんだ。湊君もその中の1人なんだよ?」
そう言うと、燐は懐かしそうに語りだした。