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妻が貴族の愛人になってしまった男  作者: 重原水鳥
第四粒 ルイトポルト、貴族学院へ ~春季(はる)~

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【166】大会が終わった後-ルイトポルト

 弓術大会後、貴族学院に登校したルイトポルトは、さまざまな同級生たちから祝福をされる事になった。大会に来ていたのは殆どルビーの血族の者であったが、少数、違う血族の者もいた。特に、席は離れていたが、ブラックオパールの分家の子女たちも、参加していたらしい。どうやら分家の子女たちは、自分の本家で働く侍従見習いが優勝したと、それはそれは(じまん)をして回ったようだ。一体どこまで話が広がっているのか、すれ違いざまにも祝福される。

 まあ、ただ祝福されるだけなら全然いい。しかしそれにかこつけて、ルイトポルトと縁を作るのが目的というのが()()()()の接触まで一気に増えてしまった。

 入学当初、ブラックオパールの分家の子女たちに囲まれていたのが、関係ない血族の者たちに変わった。そんな状況だった。


 そんなルイトポルトを助けたのは、カールフリートをはじめとした友人たちだった。


「退け、邪魔だ」

「その話は重要な話題か? でなければ、改めてもらおうか」


 と、カールフリートやオテンフェルドが正面から追い払い、


「悪いがこの後ルイトポルトはボクと用事があってね」

「ルイトポルトさま! オテンフェルドさまが呼んでおりまして……」


 と、ハスカールやポーンスドルフは遠まわしな物言いで、ルイトポルトを助け出してくれた。


「助かるよ。本当に……ありがとう」

「気にするな。とはいえ、もう少し振り払ってもいいと思うがな。自分から話題を提供するでもなく、無駄に貴殿に話をさせようとする程度の者たちは」

「そうだな。もう少しはっきりと、伝えてもいいのかもしれない……」


 いつの間にかこの五人で食事をするのも日常になっていた。


 ブラックオパール伯爵家嫡男ルイトポルト。ピジョンブラットルビー伯爵家嫡男カールフリート。アゲート伯爵子息ハスカール。グリーントパーズ子爵家嫡男オテンフェルド。グリーントパーズ男爵子息ポーンスドルフ。

 黒、赤、黄と茶と白(しましま)、緑、緑。

 その色の頭が共に動いているのも、有名になってきていた。


 それもあって、彼らと共にいる時に堂々と近づいてくる学生は、減っている。逆に、誰かひとりとルイトポルトだったり、ルイトポルト一人だと、凄い勢いで囲まれる。


 分家の子女たちに囲まれていた時と違うのは、彼らはあくまでも自分の時間の中でルイトポルトに近づいてこようとするだけなので、授業時間にも無理をして来ようとまでは、してこない所だろうか。それでも休憩時間などの度に囲まれるのは、それなりにストレスも感じるが。


 そんな風な会話をしながら食事をしていると、珍しく、その五人組に近づいてくる緑の髪の人影があった。


「あ、あの」

「ん? ……おや、貴女は」


 そこにいたのは、グレータ・グリーントパーズ男爵令嬢だった。

 以前、ルイトポルトが荷物を抱えている彼女を見かねて、運搬の手伝いを申し出た女子学生である。

 廊下を歩くうちに会話をしていて、彼女がオテンフェルドとポーンスドルフという友人たちの親族だという事を、ルイトポルトは知っていた。


「グレータ! なんだ、お前までルイトポルトの付き纏いを始めるつもりか? 勘弁してくれ」


 グレータの姿を見て意気揚々としゃべりかけたのは、オテンフェルドだ。オテンフェルドにいつも付いて回っているポーンスドルフは、焦ったような顔で「オテンフェルドさま。い、言い方を……」と呟いているが、オテンフェルドの耳には入ってはいなさそうである。


 オテンフェルドに話しかけられたグレータは、少しぞんざいな物言いで、オテンフェルドに答えた。


「付き纏い? なんのことかわかりませんわ、オテンフェルド」


 そう言い放った後に、はっとした顔をして、少し気恥ずかしそうにルイトポルトに向き直る。


「そ、その、お名前で呼んでもよろしいでしょうか、ブラックオパール子息」

「ああ、構わない」


 グレータの申し出に、ルイトポルトは頷いた。


 一度会話をした事はあったが、それきりの関係だ。更に異性。簡単に名前で呼び合うのは少しおかしい。

 貴族学院内では、比較的優しく判断されるし、ルイトポルトも厳しく言うつもりはない。

 同名同爵位の家が異常なほど多いというジュラエル王国の()()()、苗字で呼び合い続けるのもおかしい事になるという、難しい問題もあるからだ。


 何より、彼女は友人(オテンフェルドたち)の親戚だ。様子からして、それなりに親しいという事も分かる。冷たく接する理由もない。丁寧に、事前に名を呼んでよいかと尋ねてくれた事も、好印象だ。


「こちらもグレータ嬢と呼んでも?」

「勿論ですっ!」

「それでグレータ嬢。私に何か用だろうか」

「は、はい」


 先ほど、グレータが真っすぐにルイトポルトに向かってきたことを思い出しながら問えば、彼女は頷いた。


「こちらを……」


 差し出されたのは、リボンで封をされた、両手サイズの布製の袋だった。


「これは?」


 受け取る前に尋ねると、グレータは少し俯き気味になりながら答えてくれた。


「その、クッキーです。以前、荷物を運ぶのを手伝って下さったことへの、お礼で……!」

「……グレータ嬢が作ったのかい?」

「は、はいっ、私、料理が得意で……!」

「荷物を運んだなどと……、少し手伝った程度だから、気にする必要はなかったのだけれど」

「そんな! 私、とても助かりました。それでなんとか、お礼をしたくて……! 学院で、お腹が空いた時に食べてください……!」


 どうぞ、という言葉と共に、グレータがクッキーの入っている袋を差し出す。

 ほんの少しの間の後に、ルイトポルトはそれを受け取った。


「ありがとう。受け取るよ」


 グレータはパッと表情を明るくさせ、その後、「よ、用事は以上で……」と言うと、ぴゅーんと音がしそうな雰囲気で走り去っていった。


 ルイトポルトは、手の中のクッキーの包みをジッと見つめる。

 そんな彼の姿を、オテンフェルドが目を細めながら見ていたが、ルイトポルトは気が付かなかった。

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