【165】大会が終わった後-ルキウスⅡ
ルキウスの仕事は手紙の整理だけでは終わらなかった。
次の日、渡されたのは、屋敷に届いた祝いの品々である。
まず、ブラックオパールの血族の分家筋の家から、沢山の祝いの品が届いていた。
伯爵家を代表して出場したという事は、血族を代表したとも言える。今回の優勝で、ブラックオパールの名が上がったとして、感謝や、優勝を祝うお礼の品々が山ほど届いていて、一つの部屋を占拠するような状態になっていた。
本家を代表するという事の重大さが、ようやく感じられた。
他にも、アゲート伯爵家、グリーントパーズ子爵家、男爵家、などからもお祝いが来た。勿論、すぐ目の前にある屋敷で暮らしているファイアオパール伯爵家の代官からや、ホワイトオパール伯爵家の人々からも届いている。
寝込んでいるルキウスの部屋に運ぶわけにはいかず別室に積み上げられていた品々を前に、ルキウスは立ち尽くすしかなかった。
「すべてお前宛てだ。ルイトポルト様宛や、伯爵家宛ての品は除いてある」
「……え、これ、どうしたら……」
「お礼の返事はもう、伯爵家名義で出してあるから心配しなくていい。とりあえずは、箱だとか袋からすべて出すとして。……お前の部屋、入りきるか?」
コェストラーの言葉に、ルキウスは首を横に振った。
ルキウスは現在、伯爵邸の敷地内に立っている使用人たちが暮らす建物で暮らしている。その建物では一人一部屋が基本であるので、ルキウスの部屋の広さはそう広くない。
とてもではないが、別室に積まれているお礼の品をしまいきる事などできない。
「まあ一旦、中身を確認してもらうか。変な物が入ってないか、危険な状態ではないか、のあたりはもう確認してある」
そんな訳で広げた贈り物は、実に様々だった。
ルキウスからすればいつ使えばよいのか分からない、装飾品が入っている箱。
日常使いが出来そうな服やタオルといった物が入っている箱。
弓に由来した道具や手入れ道具などの消耗品が入っている箱。
贈っている人間のセンスが分かる、そんな状態である。
箱がなくなれば比較してスッキリしたようには見えるが、それでも、量が多い。
「この部屋は元々使っていなかったし、少しの間ならこのまま物を置いておいても大丈夫だとインゴ様にも許可をいただいている。なんとか、仕舞う方法を考えるしかないな」
「はい……」
どうしたものか、とルキウスは頭を悩ませた。
◆
荷物整理が終わると同時に、ルキウスは代官ヘーゲンに呼び出された。
そして伝えられたのが、優勝した事への祝いとして、報奨金を出すという話であった。
「い、いぇ、既に沢山、お祝いの品をいただいて、おりますので、報奨金など、私などにそんな……」
と、ルキウスは焦り気味に拒絶の意を示した。
実の所、ルキウスは金銭的には全く苦労していない状態であった。
そこまで散財する性質でもなく、ブラックオパール伯爵家の狩猟祭でも報奨金にあたるものを貰っている。仕事着など一部は自分で出費して綺麗な状態を整えないといけないとはいえ、今のルキウスには痛くはない。
更にそこに、弓術大会ではピジョンブラットルビー伯爵家から賞金も出ている。
これに加えて報奨金なんて貰ったらどうなるのか……と恐れおののくルキウスだったが、最終的には受け取る事となった。
「貴殿がこれを受け取らなかった場合、同じような活躍をする者が今後現れたとしても、辞退するのが正しい在り方という事になってしまいかねない。人間は、前例に倣う生き物だ」
自分の為ではなく、他者の為に受け取るべきだとヘーゲンに言われて、ルキウスは受け取る事にした。
(他の人が努力して成果を出しても、何も得られなかったら可哀想だな……)
と、ルキウスもすぐに納得できたからである。
(それにしても……昔から考えたら、信じられない財産になってしまった……)
今のルキウスは一人きりだ。追加でお金を使う事になる状態は、想像できない。余程賭け事などで散財すれば使い切れそうだが、普通に生きていると、使う事もないまま一生が終わりそうだとルキウスは思った。
(……まあ、俺が死んだときに残ってた金があったら、ルイトポルト様に渡して貰えばいいか)
人間、いつ何があるか分からない。
元気だった父親は急に病気が悪化して死亡した。
母親は、父親が死んだあと一気に老け込んで、すぐに後を追ってしまった。
ずっとそばにいると言った妻は、自分よりも貴族を選んで去っていった。
ここを終の棲家とするのだろうと信じていた町の人々からは石を投げられ、逃げ出す事になった。
人生、何があるか分からない。だから自分の持ち物の処分方法についてはハッキリさせておいたほうがいい。
(インゴ様に、聞いてみようかな。死後の物品の、処理について)
遺言を残せばいいが、王都などでは、契約書を作って正当性を高めたりする。ルキウスが、ルイトポルトに譲る事を望んでいたと、はっきりさせたい。
そんな事を思いながら、ルキウスは「次はこっちだ」と呼びに来た同僚の後ろをついて、歩いて行った。




