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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
98/107

繕う

 初めて会った時のことはよく覚えている。時雨は僕の世話係を押し付けられた少年だった。

 初めて顔を会わせた時に他の人達は面倒ごとだと思っていることを少しも隠さず嫌そうな表情をしていたけれど、時雨だけは違っていた。嫌がるどころか、まるで僕のことを弟扱いでもするみたいに笑っていた。


 少しして百合と京が生まれると、時雨以外の世話係は一斉に僕の元から離れていった。婚外子と嫡子なのだからそれが当たり前だと思ったし、寂しいとも思わなかった。

 それでも残ってくれた時雨になにか報いたかったけれど、僕があげられるものなんて技術くらいしかなかった。


 だから教えた、だから鍛えた。

 そういう経緯もあったから、僕が勝手に思い込んでいたんだろう。「この人は絶対に僕を裏切らない」って。

 僕が悪い。僕が悪いよ。そりゃあ。見る目がなくて判断間違えたのは僕だもの。


 だからこれは、ただの八つ当たりだ。


「しーぐーれー?」

「……古賀様、罰は如何様にも受けます。ですが……お2人を今帰すことはできないのです……。」


 帰すことができないって?村の中枢はサヤが制圧したはずだよな。

 決闘から逃げたアレを担ぎ上げる馬鹿がまだ残っているとは思えないし……どういうことだ?

 ……まさか。


「……村の方に何か問題が?例えば……怪異とか……」

「いえ、そういう訳ではなく。ただ……少々込み入った話になりますので、茜塚様も交えてお話させて頂ければと。」


 なんだ、違うのか。

 ミクラサラが終わっていなかった以上、あちら側の霊域が活性化したのかと思ったんだけれど。よかった。


 それにしても……茜塚を?なぜ?

 たしか、サヤの提案で技術講師させてたんだっけか。その関係ってこと?

 ……このままじゃ時間の無駄だし、今は動きがないミクラサラの霊域もいつ変化するか分からない。なら、大人しく受け入れた方がいいか。


「……分かったよ。茜塚ー、こっち来て。」

「はい!……あ、大岩も一応こっちに……」

「ああ、分かった。」


 大岩まで?どうして……いや待った。


 僕とサヤ、平里と……たぶん風早さん。

 そして目の前にいる茜塚と大岩。


 色と容姿が混ざってる僕らと、幼いながらも前世と変わりがないように見える2人。

 ひょっとして……茜塚の神様がもう1柱の転生の神様なのか?


 だけど、「神名の継承」を役目としていた(神原)の家に伝わる神様に蝶の神様の名前はなかった。なら、継承時点で信仰の途絶えた神様か、「大権現」みたいに存在だけ残って名前を失伝してしまったか……それか、資料の残っていなかった異教の神様か。


 そうだとしても茜塚にその自覚があるかは分からないし、何より今は百合と京のことだ。

 尋ねるのは別に、終わってからでいい。その答えに好奇心以上の価値はないのだから。


 優先順位を間違えてはいけない。だって僕は『古賀爽耶』である前に『神原棗』なのだから。


「……それで?茜塚がいないとできない話って何?」

「怒ってますか?」

「当たり前でしょ。こんな場所に子ども連れてきて……」

「お2人が子どもなら古賀様も子どもでは?」

「うるさいよ。」


 軽く手の甲で時雨の肩を叩く。そのまま時雨の目の前で指の形を変えると、時雨はようやく理由を語り始めた。


「最初は……最初は、ええ。お止めしたんですよ。私も。」

「ふーん」

「信じてませんね?」

「そりゃあね。今そこは重要じゃないから、とりあえず続けてよ。」

「はい。……まず茜塚様が異変を感じ取ったようで、共にいらっしゃった百合様と京様を自室に帰させた後に私の元へとやって来たのです。そして私と茜塚様の2人で向かおうとしたのですが……」

「なるほどね。付いて来ちゃったんだ?」

「はい……気付きませんで、本当に申し訳ございません。」

「茜塚。本当?」

「本当です。2人とも教えてないのに隠密が上手で……」

「……そう。なるほどね」


 茜塚を呼んだのはこのためか。たしかに茜塚は嘘が下手だから証明にはなるけれども。

 時雨の肩をすぼめる仕草が弱々しくて苛立つ。弱くなんかないのに、弱々しく見せようとしているのが腹立つ。


「……あのさ。」

「はい……」

「何、百合と京に負けてんの?」

「はい?」

「時雨は強いはずでしょ?せっかく僕が10年以上かけて鍛えたのに。

なのになんで_____」


 あれ、なんだこれは。

 こんな言い方じゃ、なんか、まるで。

 まるで僕が……


「……今のなし。忘れて。」

「古賀様〜……もしかして照れてますか?」

「うるさいよ。」


 後輩のいる手前、あまり過激な手段はとれない。微笑ましそうにこちらを眺めながら内緒話をしている茜塚と大岩の姿に若干の恨めしさを覚えつつ、僕は時雨の額を思いっきり弾いた。


「あだっ!?」

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