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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
千を越えても壊れぬように
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帰れないね

「なんでいるの。」


 目の前の青年が都合の良い幻覚に思えて、じりじりと後退しながらそう呟くと、青年は両手を上げた。


「……教えるからとりあえず立ってくれ。お前に突進されたら内臓潰れそうだ。」

「そりゃ潰そうとしてるからね。敵は再起不能にしないと。」

「それはそうだが……」


 想像したのか嫌そうな表情を浮かべる青年の様子にほっとして、私は立ち上がって土を払った。


「さっちゃん。」

「さっちゃん言うな。」

「本物?」

「本物だよ。」

「ほんとに本物?」

「本当の本物だよ。」

「……よかったーーーー!!!」


 敵じゃなくてよかったーーーー!!!!!

 いや、まあ敵対組織同士ではあるんだけど。

 少なくとも積極的に戦う理由はお互いないから、安心安全。よかったよかった。


「ほんとによかった〜……」

「そこまで言うほどか?」

「うん。」

「そうかー……。」


 「俺も良かったよ」と胃のあたりをさする青年___平里の態度に思わず笑ってしまった。

 平里からしたら少しでもタイミングを間違えたら私が突撃してくるってことで怖かったんだろな。

 つまりは私のことをよく知ってるからこそ、迂闊に結界を解けなかったと。


 なるほど。


「まーそれは置いといてー。立ったら教えてくれるって言ったよね?」


 くるくると平里の周りを歩き回りながら尋ねると、平里はくしゃくしゃと私の頭を撫でた。


「……平里?」

「だから今は羽世って呼べよ。古賀。」


 もう私のことを『久山』とは呼ばない優しい声。

 それがどこか空虚に思えて仕方がない。

 ……あ。やつれて元気がないのは、もしかして___


「うーん……」

「どうした?」

「お腹空いた!」

「突然だな!?」

「おいも食べる」

「しかも今食うのかよ!?」


 あー、やっぱり楽しい。

 ポケットから今朝もらった包みを取り出して、すっかり冷めたふかし芋をひとくち分割る。

 そして残った分を差し出すと、平里は何かを悟ったように蒼い目を細めた。


「お前なぁ……」

「半分こしよー。ってことでー……食べて。」

「……どう見ても半分じゃ___」

「私が半分って言ったら半分なんだよう。たべて、たーべーてー!」


 受け取ろうとしない平里の手に、包みごとふかし芋をグイグイと押し付ける。

 組織の方針から察するに、解放軍は大所帯なのだろう。けれど、この戦況で満足に食糧が調達できるとは到底思えない。

 戦闘員に優先的に回したとしても平里は他人にあげてしまうだろうし……結局、ろくに食べてないんだろな。


 ってことでこれは無理やりにでも食わせてやる。今ここで食わせる。


 ……足払って倒したところで口に突っ込んだろかな。それとも、このまま腕掴んで投げてから口に突っ込んだろかな。


「……あー……もう分かった、分かったから技かけようとしないでくれ。」

「バレてたの。じゃあ食べて。」

「あとで___」

「いーまー!今食べて!」

「はいはい。」


 平里が渋々といった風にふかし芋を受け取って齧り付くのを見守って、私は内心ほっとした。

 その場しのぎでしかなくても、少しはマシなはずだから。


「……何笑ってるんだよ。」

「んっふふー。別にー?」


 訝しげな表情でこちらを見る平里がなんだか懐かしくって嬉しくって、上がった口角が戻らない。

 仕方がないから、私はそのままの顔で小さなふかし芋の欠片を口に放り込んだ。

 うん、ふかふかしてておいしい。…ダジャレじゃないよ?


「おいしい?」

「ん。……おいしいよ。」


 私の質問に食べる手を止めて口の中の芋をごくんと嚥下すると、平里は素直に頷いた。

 よかった。


***


「……んでさぁー?なんでここにいたの?」

「……木を、植えようかと思って……」

「なんで?」


 指し示された傍らの2本の枝に、よく意味が見出せない。

 なんでわざわざここに植えようと思ったんだろ。こんな敵地真っ只中に。


「他の場所じゃダメだったの?」

「……ここじゃなきゃ意味がないんだよ。」

「ここ?……なにかあるの?」


 私が首を傾げると平里は苦々しそうに目元を歪めた。


「……ある、っていうか……あったんだよ。ここに。」

「あった……」


 今はないってこと?

 もしかして、千年前にあったものなのかな。

 この場所に見覚えはない、けど……揖屋にあったものといえば……


「……彼岸の霊域?」

「……ああ。」


 だとしたらまさか、この枝は___


「……それ……楓と、棗だったりする?」

「……そうだよ。」


 少し恥じ入るような声色で肯定した平里に、なんだかとっても愛しさを感じて思わず抱きついた。


「覚えててくれたの!?私たちの名前!」

「離れろ!揺するな!」

「ねー!!!これ、私たちのためでしょ!?」

「……悪いかよ。」

「悪くないよ。めっちゃいいよ。」


 嬉しすぎる。

 兄さんも聞いたかな、今の。


 平里が私たちの弔いのために、私たちの名前の木を植えようとしてくれてたって!!!

 嬉しい、嬉しい、嬉しい!


「えっへへー。……あ。じゃあもしかして、そこの枯れてるのも……」

「これは……去年の分だな。それ以前のはもう土に還った。」

「……毎年来てくれてたの?」

「……」

「沈黙は肯定なんだよー?」

「……」


 これは……肯定と見ていいのかな。言い返さないってことは、肯定ってことだよね?

 そう思って、良いんだよね?


「うぇっへへへ〜」

「なんだその変な笑い方。」

「別にいいでしょ、嬉しいんだもん。」


 嬉しすぎてくるくると回りながら離れると、平里はなんでか悲しげに目を伏せた。


「平里?」

「……だから、羽世って呼べよ。どうかしたか?」

「んーん。なんでも……」


 勝手に死んでしまったこと、今も怒ってるんだろうか。

 それとも、私たちが……2人が1人になっていることを、平里も寂しく思ったのだろうか。


 そうだったらいいな、とひどいことを思ってしまったことを隠したくて、私はもう1度平里に飛び付いた。


「おい、だから離れろって言ってんだろ。」

「やだ」

「やだじゃない。」

「えぇー……あぁー……」


 平里は慣れた様子で私を引っぺがすと、そのまま無情にもぽいと放り投げた。

 ひどい。


 ……まあでも、大好きだから許してあげる。


「……ねぇねぇさっちゃん。」

「さっちゃん言うな。……で?どうした。」

「もしも……もしもだけどさ。こんな無意味な紛争が終わったら、また一緒にいてくれる?……茜塚も…兄さんもちゃんと見つけたんだよ。それと……それとさ、ことちゃんとか布施家の人たちがここまで繋いでくれた子孫が魔導学園にいるんだよ。私、名前聞いたときびっくりしちゃってさぁ……」

「……古賀。」

「だから、だからね、羽世。お願い。お願いだから……」

「古賀。」


 平里がここにいる時間を引き伸ばすための会話はすぐに見破られて、諭すように名前を呼ばれた。

 ……平里がさっさとその木を植えて、ここから早く離れたがっていることには気付いていた。

 さっきからチラチラ周りを見てるよね。

 不自然に枝を触る回数が多くなってきたよね。


 ……分かってる。分かってるんだよ、ちゃんと。

 こんな世界じゃ一緒にはいられないってことは、もう十分わかってる。

 兄さんだって、ずっと近くにいるのに傍にはいられないような世界だ。

 分かってる。ちゃんと分かってるから___嘘を吐いて欲しい。


 嘘でもいいから、みんな一緒にいられるんだって言って欲しい。

 この未来(さき)にまだ、希望はあるんだって。


「……古賀。悪いがその約束はできない。…いくら俺たちは敵対していないといえども、お互いの組織は敵対してるからな。」

「………そう、だよね。知ってた。」

「だから……これはあくまで提案なんだが。


別の約束をしないか?俺は日本解放軍を、古賀は魔導学園を組織の内側から変えるんだ。」

「内側から……それって、内部改革するってこと?」

「ああ。そうすれば、いつかは組織同士で手を取り合える可能性もあるだろ。」


 そっか……そっか。

 いたずらに勢力を増やして戦況を引っ掻き回すよりも、自分の所属してる組織を改革して少しずつ方向転換させていった方が一般人への損害は少ない。

 そりゃ時間はかかるけど、命の犠牲が少ないならそっちのがいいに決まってる。


 あの上層部にすっかり嫌気がさしてて、全く思いつかなかったや。

 さっすが平里!


「……うん!約束しよう!指切りしよ!!!」


 大きく頷いて小指を立てて平里の鼻先に突き出すと、平里はおかしそうに笑って私の手を押し返した。


「さすがに近過ぎだろ。」

「やる気を表現しました!」

「ははっ、そうかよ。……ほら、指切りするんだろ?」

「うん!」


 差し出された平里の立てられた小指に、勢いよく自分の小指を絡ませた。


「……ねぇ、羽世。」

「どうした?歌忘れたか?」

「そんなんじゃないよ!

……あのね、私、頑張るね!」

「……ああ。お互い頑張ろうな。」


 2人で小指を絡めたまま頷き合うと、私は小さく息を吸い込んだ。


「ゆーびきーり、げーんまーん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーん、のーっます!

ゆーびきっった!!!」

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