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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
千を越えても壊れぬように
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どうしてこうなるの?

「えーっと……それでは……始めさせていただいても……?」

「よろしくお願いします!」

「よろしく頼む。」

「そ、それではー……えっと、始めさせていただきまーす。よろしくお願いします。」


 農地から少し離れた隅っこで、時雨さんが見守る中修行の開始を告げた。

 ピリピリとした空気で頬が痛い。

 どうしてこんなにギスギスしてるんだろか。昨日が初対面だよね?


 引き攣りそうな頬を引っ張りながら目の前の2人をじっと観察してみたけれど、なんにも分からない。

 高梨はパッと見近寄りがたそうだけど会話すればぼんやりしてるとこもあるけど結構面倒見はいいし、茜塚だって根っから明るくて、しかも人懐っこくて話しやすい子だし。

 どうしてこんなに反りが合わないんだろ?


 すぐ背後から次第に深く、暗くなっていく森をちらりと一瞥して、再び不安に駆られた。

 ほんとに大丈夫かなぁ。

 喧嘩して遭難とかしたら目も当てられないよね。


「……時雨さん。」

「はい。どうかされましたか。」

「耳貸してください。

……2人……特に高梨が滑落したりしないようにこっそり見守っててもらえませんか?」


 こそっと耳打ちすると時雨さんは「かしこまりました」と頷いた。

 これでひと安心。多分。

 戦うところは見たことないけど、時雨さんの隠密技術は相当なものだから……仮に怪異が出現しても私が駆けつけるまでは凌げるはず。

私が気付けない程の気配遮断の結界を張れるほどの陰陽師や知能の高い怪異なんてそうそういないし。


 ……まあ、気配遮断の結界が張れる時点で甲等級確定だから、失伝した技術の多い現代でそこまでの陰陽師が育つことはなさそうだけど。悲しいことに。

 せっかく風早さんを筆頭に結界術について研究して、それでやっと車とか部屋とかに応用で組み込んで見た目よりも内部を広くする、とか鞄の容量を広げる、だとか色々使えるようにしてくれたのにな。

 ……考えたって今更、私ごときがどうにかできる訳じゃないけどさ。


「……では、今日の修行を発表します!」



 気分を切り替えるためにパチリと手を打ち鳴らして、努めて明るく2人に笑いかけた。


***


 山中、木の上。

 わざと軋ませた両腕が痛くて思考が散る。

 でも、この痛みの中でもきちんと動けなければこの先の成長は見込めない。

 だから、頑張らないと。

 そう考えると……戦闘中私が回復役の兄さんを守ってたつもりだったけど、実のところ守られてたのは私だったんだろな。


 小さく息をゆっくりと吸って、周囲に耳を澄ませる。

 鳥の囀り、ガサガサと枝葉を掻き分ける音、遠くに水の音。

 そして___小さく話す声。


「……見ーつけた。」


 修行___山中鬼ごっこの開始からわずか数分後。

 声のする方へ木の上からこっそりと近付くと、案の定高梨と茜塚の姿が見えた。

 川とかの跡らしき窪地にしゃがみこんで、2人で前と後ろを分担して警戒しているのはいいんだけど……上下までは確認しきれていないみたい。

 ま、茜塚はまだしも高梨は慣れてない訳だし、仕方ないか。

 後で手信号教えたげよ。


「……はい、捕まえたー!」

「……古賀!?」

「え!?先輩!?いつの間に……」

「はーい、私ですよー。」


 高梨と茜塚の肩に手を乗せながら笑いかけると、2人は悔しげな表情をした。

 本当に「悔しい」って思えてるならちゃんと伸びそうだな。高梨は慣れればきっと良くなるだろうし、茜塚はコツを覚えれば絶対に強くなれる。

 2人には私と違ってまだまだ伸び代があるんだから、ちゃんと成長して欲しい。

 ……私のいないところで、死んで欲しくないから。


「どうしますー?もう1回やりますー?」

「やります!ね!」

「ああ!もう1度頼む!」


 さっきまでの険悪な空気はどこへやら。仲良く揃ってやる気に満ち溢れている。

 まったくいつの間に仲良くなったんだか。

 ……でも良かった。これで、遠慮なく協力前提の追い詰め方できるや。


 2人のやる気に応えたげようと微笑むと、茜塚の土の付いた頬がびくりと引き攣った。

 高梨はきょとんと首を傾げた後、茜塚の顔を見て大きく肩を震わせて固まった。

 ……怪我しても治せない以上、私は兄さんみたいな『ひどいこと(なんでもアリ)』はしないんだから、そんなに怯えなくても良くない?


「……茜塚?始める前にも言ったけど、そこまでキツいのはやらないからね。山初心者もいることだしさ。」

「先輩の『軽め』とか『キツくない』は信用できないんですよう。筋トレだって、ムキムキの人と普通の人じゃ基準が違うじゃないですか。」

「たしかに……って、茜塚だってそれなりに筋力あるじゃん?」

「一般人に比べればちょっとはそうかもしれないですけど、先輩に比べれば全然ですよ。」


 ……そう、なんだ?

 でも昨日山登りしてたし、それに結構機敏な動きしてなかった?

 茜塚以外の人……一般人かと勘違いしたくらいギリギリの霊力しかない人たちは瞬でしたけど?


 ……ちょっと?

 ちょっとかなぁ?


「……かなり違くない?」

「ちょっと、です!」

「……そっかぁ……?」


 茜塚は河豚みたいにぷくっと頬を膨らましてなかなか食い下がってきた。

 そんなに『ちょっと』にこだわる理由ってなんだろか。可愛いけど。


「まあ、それは1回置いといて……これでもちゃんと考えてるんだよ?今回は特に、山道に不慣れな高梨先輩がいるんだから。」

「本当ですか?」

「そんな目で見ないでー。これでも言い出しっぺとして安全には気を配ってるんだよー。」

「なら良いんですけど……」


 疑いの目を向けられて、ちょっとだけ悲しくなった。

 可愛い可愛い後輩にこんな視線向けられて、なんともない人ってなかなかいないと思う。しかも普段懐いてくれてる子ならなおさら。


 ……本当に、ちゃんと考えてるんだけどな。

見つけたときに怪我しないように追い回してないし、何より攻撃を仕掛けてない。

 これがもっと慣れてる人___例えば桐生ちゃんとかだったら、きっと戦闘訓練込みでやってたと思う。


「……本当なのにー!」

「はいはい。分かりましたから、早く次やりましょ。」

「茜塚が冷たーいー……」


 私の言葉は茜塚にひらひらと両手でかわされた。

 私の訴えは聞き入れられていないみたい。……悲し。

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