惑わされないで
「…賀、古賀…久山?」
「はっ!」
「大丈夫か?」
「だいじょぶだいじょぶ!」
「そうか。」
空元気で笑ってみせたけど、バレてるんだろうな。
前世からの付き合いだし、なにより平里はずーーーっと私と兄さんの世話焼いてたわけだし…。ひとつしか違わないのに。不思議。
そういえばイタズラしようとした時とか秒でバレてたな。なんでわかるんだろ。
ムカつくー。
思い出してむくれていると、平里はちょんちょんと自身の耳を指し示した。
「ソレ、ちょっと貸して貰えるか?」
「それ?」
「通信機。」
「これ?いいよー。」
ふたつ返事で端末を外して手渡すと、平里は何やらボールペン程の長さの金属の細い棒を取り出した。そして端末の複数箇所にそれを押し当てていた。
なにしてんだろ。データ抜き取ってるんかな。
…でも、生体データを参照して〜って高梨言ってたし、端末自体に入ってるデータなんてログとかキャッシュくらいなんじゃ…。
じゃあなにしてんだろ。
まあいっか。変なことはしないだろうし。
うーん…
「なにしてんのー?」
「バックドア無効にしてる」
「ば…?」
知らん単語出てきた。なにそれ。
「なにそれ?」
「んー…勝手にデータ抜き取って送るウイルス、みたいなモンだよ。」
「ヤバいやつじゃん?」
私が驚きに目を見開きながらそう言うと、平里は「そうだよ」と空色の目を細めた。
「なんだってそんな恐ろしいものが…知らなかったよよよ…」
大袈裟にショックを受けて床に突っ伏すと、上から控えめな笑い声が聞こえた。
聞こえてんぞ。
「笑うなー!」
「はは、悪い悪い。っふは、ふー…終わったぞ。」
両手を突き上げて抗議すると、平里は笑いを噛み殺して通信機を差し出してきた。
「ありがとー。でもなんで知ってたの?ウイルスのこと」
「あー…そこは企業秘密ってことで。」
「そっかー」
秘密かー。残念。
まあ私たちは違うとはいえ、一応敵対関係にある組織同士だもんね。しゃーないしゃーない。
ちょっと寂しいけど、大丈夫。大丈夫…うん。
「…よし!それじゃー!気を取り直して鍵探そ!ひ…羽世!」
気分を変えるために明るくそう言って平里に背を向けた。
ぎこちなく呼んだ前世と違う名前に、『もう帰れないのだ』と思い知らされたような気がした。
***
ショッピングモール2階、飲食エリア。
程なくして仮面の裏に貼り付けられていた鍵を見つけた私たちは、扉を開けるとそこに移動していた。
「んー?転移罠だったってこと?それとも幻術だったってこと?」
「それらしい痕跡は見当たらないから、空間同士をツギハギにされてるってことだろ。多分。」
「なるほどそっち系かー。」
ってことはマヨイガミ系統の怪異かな。それともこの建物自体が迷家になったのか。
いずれにせよ、怪異単体で既に丙等級相当な気がする。
まさか救助含めない難易度設定なんてしないだろうし、情報が足りなくて判断を間違えたのかな。
「あ、そうだ古賀。権能は使うなよ。」
不意に発せられたその言葉に、思考を断ち切られた。権能を使うなって…どういうこと?
「なんで?」
聞き返すと、平里は顔を顰めて腕を組んだ。
そして重そうに口を開くと、目線が私から外れた。言いづらいことなんだろうか。
「それは言えないが…ちょっとマズいことになっててな。陰陽師だとバレると大変なことになるんだ。」
「ふーん…」
ホントのこと言ってるっぽいけど、なんか色々隠してんなコレ。
兄さんといい平里といい、昔っからやたら隠し事多いんだよなあ。
仲間はずれ、よくない。
「…ところで話変わるけどさ。もしかして私たち、迷子?」
「まあ、そうだな。」
「大変だあ」
明るい声で無理やり話題を変えると、平里はあっさりと頷いた。
少しは否定して欲しかったな。迷子…。
…あ。そういえば先輩たち大丈夫かな。もしかしなくても、実力じゃなくて偏差値でつけられた等級での上位任務派遣だから危険なんじゃ…?
もし、手に負えない怪異と遭遇したりしたら、さすがにあの2人でも___
「古賀!構えろ!」
「っ!どこ?」
反射的に右手で短剣を引き抜いて、平里の前方へ出る。
前世からの習慣で、つい前に出ちゃったな。気配察知やら援護射撃やらは平里の方が向いてるし、兄さんと一緒の時だって、いつも兄さん連れて治癒と支援で後ろに下がってたから…いや、今はそんなこと思い出してる場合じゃない!
「15メートル先14時方向、視認できるまで…4、3、2…」
後ろからのカウントに意識を集中して、14時方向___通路の合流地点に目線を合わせる。
そして、0になったタイミングでひたり、と。
紙のように真っ白な影が現れた。




