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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
泥中を迷う
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異質な再会

「…え?」


 突然呼ばれた聞き覚えしかない名前に思考が停止した。その間に嫌な空気を感じたのか、3メートル程先で声の主、黒ずくめの軍服男はめちゃくちゃ気まずそうな雰囲気を出しながら両手を組んだ。


 なんでその名前が今___いや、そんなことよりも、あの声の抑揚、呼び方の癖、そして何より私の顔を見てその名を呼んだとしたのならそれはきっと前世で一緒だった___


「平里?」


 心当たりの人物___前世での魔導具開発の一任者であり、私たちの先輩だった魔導師、平里の名前を口にすると、相手はほっとしたように纏う空気を弛緩させて近付いてきた。


「良かった。人違いだったらどうしようかと」

「まあ人違いではあるんだけどねー。」

「…マジ?じゃ、お前久山?」

「そー。」

「マジかー…」


 黒づくめの軍服男___平里は顔を覆ってしゃがみこんだ。


 失礼だな。私は嬉しいのになんでお前はそんなショック受けてるんだよもー。

 前世の知り合いにまた会えた嬉しさと、それを無下にするような態度を取られた悲しさを込めて、ぺちぺちと制帽越しに頭を叩いて無言の抗議をする。しばらくして落ち着いたらしく平里が顔を上げた。


「久山。」

「なにー」

「今の名前は?俺は羽世。」

「古賀。」

「了解。じゃ、今後はそれで呼び合おう。」

「わかったー。」


 そうする意味はよく分かんないけど、まあ平里がそう言うなら多分なんか、意味があるんだろう。

 目の前に座ってじーっと眺めていると、平里はしゃがみ込んだまま真剣な表情で口を開いた。


「古賀。」

「うん。」

「期待してるとこ悪いが、俺はお前と一緒には行けない。」

「なんでー!?」


 なーんで、なんでー!と回り込んで平里の背中に飛びつくと、平里は勢いに負けて膝を付き、こちらを振り向いた。


「その、お前の所属組織と、俺の所属組織が敵対してるんだ。だから…」

「ひとりで行けって?こんなとこで、ひとりで?怖いのに?」

「なーにが怖いんだよ。彼岸級(Sランク相当)の怪異でも来なきゃ、怪我なんてほとんどしてなかったろ。」

「前世と今世は違うんですー。仲間とはぐれて心細いし、暗いの怖いしー。」

「嘘つけ。昔『味方いないと巻き込み気にせず暴れられるから楽しい!』とか言ってたくせに。」

「バレたか。」

「当たり前だろ。前世のこととはいえ、10年以上の付き合いがあるんだぞ。」

「それもそっか。」


 ちぇ。

 前世ではこうやって子供っぽく駄々こねれば、大抵のことは容認してくれてたのに。

 …ま、敵対勢力同士っていうなかなかに複雑な関係である以上、仕方ないのかもしれない。諦めないけど。


 思い出してしまってからずーっと、寂しくて寂しくて仕方なかったんだ。そう簡単に諦めてたまるか。

 何かあるはず。平里の弱点…あ!


 私は素早く床に罠の類がないことを確認して、その場に寝そべる。それを見た平里の口元が引き攣るのが見えた。


「…お前、まさか。」

「一緒に来てくれないと言うのなら駄々を捏ねます。それはもう見事な駄々を捏ねます。」

「やめなさい、みっともない…」

「恥じらいだとか外聞だとか気にしてるだけじゃなんにも得られないんですよー!!!」

「うるさっ、ってかせめてスカートの時はやめろよ!見えたら困るだろ!」

「……ちゃんと下にスパッツ履いてるから大丈夫!」

「そういう問題じゃねぇ!っていうか今の間はなんだよ!履いてない可能性でもあったのかよ!」

「うん」

「お前…他所(よそ)ではやるなよ…」


 表情は暗くてよく見えないけれど、呆れと苛立ちと諸々が綯い交ぜになった複雑な声色で私は確信した。


 押せばいける、と。


 人間、結局根っこのところは変わらないのだ。お節介で、情に厚くて、1度懐に入れた相手を見捨てられない。いぇいいぇい。やってやらー!

 腹を決めて大きく息を吸い込んだところで、「わかった、わかったから…」と平里が折れた。

 わぁい、わい。


***


「いいか、仲間と合流するまでだからな。」

「わむ」


 テキトーに相槌を返すと、平里は「ホントかぁ?」と不安げに呟いた。

 肯定も否定もしなければ、嘘ついたことになんないもんねー。


「…とりあえず、手始めにどういう霊域なのか調べるか。それが分かれば霊域の主たる怪異がどういう系統なのかも見えてくるだろうし。」

「はーい。」


 私は返事をしてぐるりと周囲を見回した。

 見えない天井、止まったままのエスカレーター、ずらりと仮面の並べられた壁、そして…


「扉?」

「ん?どこだ?」

「あそこ。」


 数メートル先にある、仮面に埋もれるように佇んでいる木製の扉を指さすと、平里は私の頭を撫でた。


「よく見つけたな。」

「へっへん」


 褒められた。嬉しい。

 跳ねる気持ちを抑えつけて、冷静になろうと軽く頬を叩いて気持ちを切り替えた。慎重に扉に近付いて調べてみると、青く錆びたドアノブに小指の先ほどの小さな鍵穴があった。試しに開いてみようとしたが、ガチャガチャと音を立てるばかりで押しても引いても開かない。


「先に鍵探さないとか。随分と凝った霊域だな。…ってことは…」

「知能がよほど高い怪異か、高位の怪異の霊域、ってことだよね。コレ。」

「ああ…最悪だ。攻略するまでに何人死ぬか…」


 苦々しく呟く平里の様子に、私は静かに目を伏せた。

 ここにいたのが、私じゃなくて賢い兄さんなら良かったのかなぁ。

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