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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
泥中を迷う
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呪!初任務

 薄闇の中を、ゆっくりと、慎重に歩く。

 視界が悪く障害物なのか怪異なのかでさえ即座に判別つかないような状況で、響く足音は、1人分。


「なんでこうなるかなぁー…」


 立ち止まって小さく不満を零してみたが、仕方なしと再び歩き出した。


***


 ___およそ30分前。



「おおー!街がかっこいいー!!!」

「落ちても知らねーぞー。」

「落ちませんー。そんなやわな体幹してませんー。」

「そー。」


 私と吉川姉弟は、随分見目の良い魔導列車で学園を出発して、箱?船着場のコンテナ?みたいなものに窓を取って付けたような、タイヤのない装甲車らしき物体に乗り換え、現場に向かっていた。

 吉川文目は身を乗り出していた私を引っ張って中に引き込むと、パチンと窓を閉めた。

 もうちょっと見てたかったな。ちぇ。


「ふふ、アヤってば後輩ができたのが嬉しくて仕方ないのね。そんなにはしゃいじゃって。」

「はしゃいでない。」


 吉川文目がむっと眉間に皺を寄せるのを見て、吉川翠はくすくすと笑った。


「ところで爽耶さん。」

「?はい。」

「今回が初めてだろうから、先に説明しておくわね。」


 そう言って吉川翠は青磁色の双眸を伏せて、深く息を吸い込んだ。


()()()()()()()()()()()()()()()。」

「え?」


 …救助要請なんだよね?それなら、誰を助けに___


「わたしたちの任務は、あくまで先遣隊の救助。…多数の一般人のことは、後発部隊に任せるの。」

「あ、なるほど。」


 先遣隊を救助して戦力を整えて交戦、その間に装備やら準備やらを整えた後発部隊が一般人を救出、ってことか。

 確かに、無闇に手当り次第助けようとするよりは理にかなってる。うん。

 人を助けたいと思うことは大事だけれど、それがより大きな損害を生むことだってあるのだ。


「了解です!頑張ります!」


 先遣隊と合流できなかったらとっとと霊域の主ぶっ飛ばした方が被害少なくて済むかな。

 そんな風に思考を巡らせて考え込む様子を、悲しげに見つめる吉川翠に、私は気付けなかった。


***


 それからおよそ20分後。


 (くだん)の商業施設___大型のショッピングモールに到着した私たちは、だだっ広い駐車場に設営された天幕に連行された。

 なにかしたっけ?とちらりと吉川翠の方を見ると、「いつもこんな感じよ」、と儚く笑った。


「…来たか。」

「お久しぶりです、久米(くめ)上官。…状況は、」

「芳しくない。依然、通信は途絶えたままだ。」


 久米上官と吉川翠に呼ばれた、かっちりとした白い軍服に身を包んだ少壮の男性は、焦燥を顔に滲ませて息を吐いた。


「…ところで吉川学生。見ない顔がいるな、新人か?」

「はい。1年生の古賀爽耶さんです。」

「1年生?」


 吉川翠が私を引き寄せてそう紹介してくれた。が、久米上官は私を見て目を見開き、ぎょっとした表情を浮かべた後、深い深いため息を吐いて額を押さえた。


「…魔導学園の入学式は、つい数日前の話だったと記憶しているが。」

「はい。彼女は有望株でして、外部入学生でありながらもオリエンテーションでは___」

「もういい。わかった。」


 お手本通り(テンプレート)のような説明を片手を振って中断させると、久米上官は私を見た。


「いくらオリエンテーションの点数が良かろうが、ひとたび戦地に出ればそんなものは意味がない。…現に、君たちよりもずっと現場に出ている我々が、この(ざま)なのだからな 

。」


 確かに、前世の記憶があるとはいえ、今の私はただの15の小娘でしかない。前世の知識や経験だって、どこまで現代で通用するのかすら分からない。


「だから、悪いことは言わない。…未熟な君たちに、まだこの任務は早い。ここで待機していなさい。」


 そう告げる久米上官の声色は、冷淡を装いながらも気遣いに満ちている。眼差しからは、「君はまだ庇護されるべきなのだ」、と言いたげな程の思慮が見え隠れしていた。


 …この人は、まともな大人だ。

 吉川姉弟含めて、いくら強かろうが子どもが霊域に放り込まれることを良しとしていない。

 …私も、そんな大人になりたかった。

 私もずっと、そう願ってたから。これからの子どもたちには、同じ思いをさせないように頑張ろうって、皆で励ましあって___。


 楽しかった日々が脳裏に蘇って、つい泣きそうになった。けれど、気持ちを切り替えて私は口を開いた。


「私が未熟であることは分かっています。そしてきっと、先輩方も同じでしょう。ですが、ここで任務を放棄したところで、何も変わりません。」

「…だろうな。」

「だから、だからこそ。」


 大きく息を吸い込んで、背筋をぴんと伸ばす。そして顔を少し上げると、真っ直ぐに久米上官と目を合わせた。


「私たちは、戦わねばならないと思うのです。」


 しばしの沈黙が落ちる。

 私の言葉を聞いた久米上官は、額を押さえたまま呆れたように首を振った。


「それは何故だ?」

「これ以上、学生が食い物にされないために、です。」


 そもそも、学生が動員されているのはきっと『慢性的な人手不足』が原因なのだろう。

 そうでもなければ、いくら強かろうと経験の浅い___ほぼないような私なんかを選ばない。

 ここで『戦わない』ことを選べばきっと、次はAクラス、それもダメなら…といった風に弱い子たちまでどんどん戦わされてしまうだろう。

 なら、戦って、戦って、戦って___私が彼らにとって有益な駒、あるいは機嫌を損ねて裏切られたら困る駒になれば、体制を変えられるのだろう。

 もちろん、根回しだとか色々面倒な下準備は必要だろうけど…少なくとも、戦闘のいろはも知らないような子たちが怪異との戦いで命を落とすよりは、ずっと良い。


「ふん…そうか。青いな。」


 久米上官が眩しそうに目を細めるのに、私は「そうですね」とだけ返した。


***


 そして装備を確認して、3人で正面入口から突入___した、ハズ、なんだけど。


「なんで誰もいないのー…」


 どこ行ったのー。泣いちゃうぞー。

 まあ、泣き言言ってても何も変わらないのだ、現実というものは。

 頭を軽く横に振って思考を断ち切ると、私は改めて自分の装備を確認した。

 動きやすい、隠しポケットのいっぱい着いた制服。ぶっちゃけ人間相手ならともかく、怪異相手なんだからポケット隠さなくて良いでしょ。まあ便利だし良いけど。

 そして、オリエンテーションの時のものよりも軽量化されたプロテクターに魔導回路の刻まれた短剣が2つ。一応魔導拳銃も持ってきたけど、いくら型遅れと言われようとも弓の方が良かったかもしれない。

 弓は反動も射程もある程度調節できるけど、拳銃はそうもいかないし…。

 これが、後悔先に立たずってやつかぁ。

 なんか通信機も圏外だし。まあ、オリエンテーションの時みたいな偽装がないとも限らないし…とりあえず電源切っとこ。


 よっこいせ、と半端なところで止まっているエスカレーターをよじ登って2階に上がる。

 こうして見ると、暗すぎる以外は普通のショッピングモールと変わりないように見えるけれど___なんせ天井も見えなければ売り場に並んでいるものもおかしいのだ。明らかに霊域に侵食されている。

 白塗りの、不気味な仮面が所狭しと壁に並べられている区画を足早に移動していると、不意に目の前に動く物体が現れた。


「っ!」


 怪異?それとも生存者か___声を出せずに腰に下げた短剣を引き抜いて身構えていると、相手が先に口を開いた。


「…神原?」

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