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私のペットは皆何故か凶暴です(仮名)  作者: じゃがいも
まずは味方を作りましょう
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真夜中の攻防戦









「うぅ、お腹空いた……。」




あれから私は誰かから余計な詮索もされる事無く、無事に屋敷に戻ってくる事が出来た。



そして今は、夜寝る前の夜食タイム。

夕食は食べたには食べたが、育ち盛り食べ盛り。

しかも朝から晩まで扱き使われてる私には、あんな量じゃ全然足りない。

ヘトヘトになりながら自室に戻ってくれば、夕食に食べたカロリーなんてとうに何処かに消えてしまった。



まぁ、夜食と言ってもここ最近の期間限定の食事だ。

あの日、通りすがりの綺麗なお姉さんと仲良くなり、クッキーを何枚か貰ったのだ。

なので私は毎晩ちゃんと1枚ずつ、大事に大事に頂いている。

うちの節約クッキーとは違う、ちゃんとしっかり美味しい貴重な甘味……っ!



一口齧れば、サクサクとした軽い食感。

ふわりと漂う甘い香り。

たっぷりと使われたバターと砂糖。

口いっぱいに広がる、優しい甘みとコク。

こんがりときつね色に焼けたクッキーは、見る者を甘い世界へと誘う。



「ふわぁ〜っ。めちゃうま〜っ。」



甘い甘い、幸せな世界。

幸せが思わず漏れ出たため息と共に、声を上げる至福の時。

普段の質素な食事を思えば、涙が出る思いである。





私はクッキー等の焼き菓子の類いが大好きだ。

ケーキとかも勿論大好きだけど、ケーキよりも手軽に沢山作ることが出来る。

しかも何気に日持ちする。

たとえ買ったとしても、ケーキは1回でお楽しみは終わってしまう。

でもクッキー等は同じような値段で、沢山食べられる。



ケーキの綺麗で儚い美味しさも勿論大好きだ。

だがごく普通の庶民であったであろう速水愛理()からすれば、沢山食べられてお手頃な焼き菓子等の方が、より身近に感じられた。


ケーキは特別な日の食べ物だが、焼き菓子は嬉しい時も悲しい時も、辛い時も幸せな時も私にそっと何も言わずに寄り添ってくれた、私の優しいお友達なのだ。



クッキーとの愛しき日々を思い出していると、あの日繋がりでふと、お婆さんがくれた物も思い出す。

謎のお婆さんがくれた、ブレスレットと紫色の小瓶の使い所はまだ見つからない。

是非ともそのまま、永遠に見つからないで欲しい。




そんな小さな願いと共に、私は眠りに落ちた。










次の日。

朝から何だかバタバタしてるなと思ったら、今日はお客さんが来るらしい。


あの2人、友達いるの?!

ってか、聞く所によると性格あんまり良くなさそうなのに友達出来るの?!


なんて思っているとメイド達の情報によれば、そのお客さんもあまり褒められた人では無いらしい。

類友ってやつだ。


まぁ、私にはあまり関係の無い話だ。

幼児という事もあって普通のメイドより出来る事が少ない私は、あの2人の前に出た所でどうせ粗相するのがオチだ。

余計に怒らせるだけだろうという事で、とりあえず両親の前に出た事は無い。



会えばどうなるか分からないし、私自身も出来れば会いたくない。

予定通り、私は今日も裏方に徹しよう。



メイドのお姉さん方の使いっ走りにされて、館内をバタバタと走り回ってる内に、とうとう例のお客さんがやって来る。

ちらりと見た限りでは、今日の客であるロングジョー卿とやらは、まさに成金の悪役といった感じだった。

趣味の悪いゴテゴテとした装飾がいっぱい付いたヒラヒラの服に、ゴテゴテとした装飾品。

くるりとカーブしている長い髭と、しゃくれた長い顎が特徴的な偉そうなおじさんだった。


まさに悪役然とした風貌は、もはや一種の感動を覚えた。

凄いなぁ、本当にフンッとか言いながら髭を整えてる。

本当にああいう事するんだなぁ。


そんなどうでもいい事を横目に、裏ではメイドさん方がバタバタと働いてる。

そして恙無(つつがな)く3人での昼食会は終わり、おやつもしっかり食べて日も傾きかけた頃。


裏方でバタバタと動く身からすれば、いやもう帰れよって感じなのだが、招いてる側の旦那様は上機嫌で酒をあおる。

そしてロングジョー卿までもが飲み出した。

これはお泊まり確定だ。


あぁ、面倒な……。


何をそんなに話す事があるのか。

今日1日ずっと喋ってる2人は、疲れも知らず楽しく談笑している。


そうして日が落ちてしばらく経つと、旦那様もロングジョー卿も酒瓶片手にソファでグースカ寝だしていた。

奥様はとっくに1人で夕食を摂ったらしく、もう既に部屋でお休みになられている。


その為、あまり音を出さないようにしながら後片付けをする事に。

あぁ〜、起きるな〜。

起きるなよ〜。


ドキドキと早鐘を打つ心臓を押さえ付けて仕事をしていたら、うとうとしていたロングジョー卿が、願いも虚しく目を覚ます。

寝惚け眼のロングジョー卿は大きなあくびをすると、水を1杯くれないかと私に声をかけた。




そう。

私には関係無いなんて、言ってる時がありましたね。

あまりの片付けの多さに、私もしっかり駆り出される事になりました。

フラグ回収めちゃめちゃ早い……。


声をかけられたのは他のメイドとやっと片付け終えて、部屋から出ていくのは私が最後という時だった。


後もう少し、あと数歩だったのに……。

うぅっ、あの髭似合ってないくせに〜。

あのアゴめ。

どこのデュエルマスターだ。

それとも何処ぞの学園の生徒か。


あまりのタイミングの悪さに、心の中で思わず言いたい放題ぼやきながら水を1杯持って行く。



《コンコン》



「どうぞ」




「お水をお持ちいたしました。」



「ヒック……あぁ、そこに置いといてくれ。」



「それでは失礼します。」



「おいおい。ヒック……待ちたまえ。」



え、何なに。

これ以上何があるっていうの。

止めて欲しいんだけど。



「君、何そのまま帰ろうとしてるんだ、……ヒック。」



「はい?」



「この時間に私の部屋に入ったんだ。……ヒック、ある程度は分かってるだろう?」




いやいや、分かってないよ。

何当たり前に、こっちが分かってる前提なんだよ。




「何の事でしょう。」




「冗談はいい。……ヒック、早くこっちに来たまえ。」




何だ何だ。

止めてくれ。

嫌な予感しかしない。




「……、今日はもうお休みになられた方が良いかと思いますが。」




「ヒック……ハハッ、冗談言うなよ。私は今日、君のために来たんだぞ。」



「……旦那様に、何を言われたのでしょうか。」



「リベルマンだけじゃないさ。ヒック……、話したら食事の時奥様だって喜んで了解してくれた。」



「何の了解でしょう。」



「君を売ることをだ。」



売る。

売るとは、一体どういう意味だ。

何が起きてる。


売るとはつまり、そういう意味か?

何だこいつ変態ロリコン野郎か。


……冗談だろう。

私の事いくつだと思ってるんだ。

まだ5歳だぞ。



「さぁ、早く来たまえ。ヒック……、お小遣いは弾むぞ。」



「別に欲しくないので。」



「照れなくてもいい。大丈夫だ、怖くはない。……ヒック、優しくしてやろう。」




何も大丈夫じゃない。

この顎、頭おかしいのか。




「……、怖いので、温かい物を飲んで、落ち着いてからにしたいです。」



「フン、良いだろう。」



「ロングジョー卿もいかがでしょうか。多少落ち着かれるかと思いますよ。」



「……ヒック、いや、俺はいい。そんな物を飲んだ所でこれからする事は何も変わらないぞ。」




ロングジョー卿は、ニヤニヤと下卑た笑顔で私の誘いを断る。




「えぇ、ですが最近、朝晩肌寒くなって来ましたし、お酒も飲まれているのですから何かお飲みになった方が体にも良いでしょう。」



「フンッ、それなら水で十分だ。」



「……、私自身の為に、一呼吸置いて欲しいのです。」



「フッ、そうかそうか。そんな物を飲んだ所で、私の考えが変わるとは思えないが。……ヒック、まぁまだ君も小さい。それまでに君の覚悟が決まるといいなぁ?」



「私めの為に過分な判断、恐れ入ります。」



「そうだろうそうだろう。私は優しいからな。」










「本当に優しい奴は、こんな事しないんだよ。」



休憩室に戻ってきた私は、誰もいない部屋で独り言ちる。

こんな時に限って誰もいないし、誰も助けてくれない。

いやまぁ、居た所であのメイド達がこの状況で助けてくれるとも思えないが。



あの父親は、アイツに何を言ったんだ。

っていうか、私のこと知ってるのか。



どこまで知られてる?

どこまで分かってる?


奉公に来た貧乏な幼い娘?

それとも、生きる為に変装している自分の娘?








いや、とりあえずはそのどちらでも良い。







今はまず、この窮地を抜け出さなければ。



このままどこかに隠れるか。

その内見つかるだろう。


この家を一時的に抜け出すか。

こんな遅い時間にどうやって。




しかもどれもこれも、後々面倒な事になりそうだ。




どうしよう。

どうすればいい。




何か手はある筈だ。

せっかくここまで時間を稼いだんだ。




ふと、自分の太ももに当たる小瓶を思い出す。

あの魔女みたいなお婆さんは、何と言っていた?



「……眠るだけ。」



そう、眠るだけだ。

でも今は、それだけで十分じゃないか?

お酒も入ってる、突然眠くなって寝たっておかしくは無いだろう。



うん。

いける。


きっと上手くいく。



そうと決まれば、今から作る飲み物に入れよう。

それぞれのカップに、温かい紅茶を入れる。




ふよふよと、湯気が上がる。



周りに誰もいないのを確認して、私はポケットに入っている小瓶を取り出した。

小瓶を見て、私は覚悟を決める。

この状況を、絶対に抜け出す為の覚悟だ。




これは1回、耳かき一杯。



紫の小瓶の中身をサラサラと入れれば、もう戻る事は出来ない。

ティースプーンでよくかき混ぜて、異物混入の痕跡を無くす。

見付かったら、ただじゃすまない。



でもきっと、上手くいくはずだ。

大丈夫。



深呼吸してドクドクと脈打つ心臓を落ち着かせれば、それに応えるように手首に付けたブレスレットがシャラリと鳴った。






大丈夫。

色も香りも変わってない。

何も変な所は無い。





私は覚悟を決めて、休憩室のドアを開けた。




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