3時のおやつ
小型のナイフの他に調理道具やカトラリー、着替えや魔道具、雑貨諸々旅装束一式買ってもらいマジックバックに詰めると、帰る時は足に括り付けておくと良いですよと言われた。
どうやらマジックバックもギルドカードと同じ様な仕組みらしく、バックを軽く2回叩いてチェンジと唱えてから好きな大きさを思い浮かべれば、小さく出来るらしい。
スカートの膨らみに隠れるので、これで帰る時も来た時と同じ格好が出来る。
周りに余計な詮索もされずに済むだろう。
そろそろ三時のおやつだし、小腹も空いてきたので、そろそろ何か食べたい。
何せ今日は食べ歩きする日だと決めて来てるので!!
色々と予定は変わってはいるけど!!
私はまだ諦めてはいないのだ。
フッフッフッ、次は何を食べるべきか……。
やはりここは、まずは魚介串焼きだろうか……。
久々の日本感!!
いや、待てよ……?
後に甘いお菓子を買うのなら、先に甘い物を食べてからにした方が、おつまみ系のあのしょっぱさがより生きるのではないだろうか?
いや……、だがしかし、甘い物は袋にいくつか入ってるようだった。
それなりに数がある事を考えると、甘い物を食べ始めたら途中でしょっぱい物も食べたくなるのが自然の摂理。
それが人間という物。
その本脳に、きっと私は抗えまい。
ならば、ループ食べする事を前提として考えねばならない。
そうなると比率的には、甘い物1:しょっぱい物2、もしくは3辺りだろうか……?
そこはどちらも量を見て、比率を考えねばならないだろうが、とりあえずはこの考えでいいだろう。
大体の考えが纏まった所で、私達はさっきの飲食街まで戻ってきていた。
さっきの約束どおり、魚介串焼きと甘い物を買いに来たのだ。
「おばちゃーん!約束どおり来たよー!!」
イケおじに抱っこされながら手をブンブンと振ると、店主のおばさんはイケおじを見て私を見ると、ちょっとびっくりした顔をしていた。
「……あらあら、まぁまぁ。」
「おばさん!これ1つくださいな!」
地面に下ろされて店主に注文すると、おばさんはちょっと目を白黒させてイケおじを見た。
そしてちょっと得心のいったような、あぁ、やっぱりねみたいな顔で何度か頷いた。
後ろを振り向いてイケおじと目を合わせても、変わらずまたいつものにっこり笑顔。
おばさんが何で頷いたのかは、分からなかった。
「1つでいいかい?」
「とりあえず!」
「ふふっ、そうかいそうかい!」
鉄板の小さな丸い窪みに黄色い液を垂らすと、ジュウジュウと音を立てて、ふわりと甘い香りが辺りを漂った。
あっという間に焼き上がると、紙袋にひょいひょいと何個も入れる。
「はい。お待ちどお〜!サービスしといたよー!」
「おばさん、ありがとー!」
「ふふっ。足りなかったらまたおいで!熱いから気を付けなよ!」
はーいと元気に返事しながら紙袋を覗けば、ベビーカステラみたいなコロコロした物が幾つか入っていた。
「お爺さんも食べますか?」
「いえ、私は大丈夫ですよ。楽しみにしていたのでしょう?思う存分食べてください。」
「えぇ……?そう言われちゃうと、全部食べちゃいますよ?」
「えぇ、えぇ。貴方はもっと食べた方が良いでしょうからね。むしろ今のうちに、たくさん食べといてください。」
身長はまだまだ小さいし、ムチムチしてないのが抱っこしなくても分かるぐらいの事を言ってるのだろう。
私はお爺さんのご好意に甘える事にした。
「あちあちっ」
両手で代わる代わる持ちながら、ふぅふぅして一口齧る。
「はふっ!はふっ」
火傷しないよう手も口も忙しなく動かすも、どっちも熱々。
あまりの忙しさに、堪らず残りも口の中に入れる。
「あ、あちっ!」
し、舌が!
ちょっと涙目になりながら、天を仰いではふはふしてる内に少し冷めてくる。
途端にふわふわとちょっとずつ、甘く広がる幸せの味。
「んふぅーっ」
幸せが思わず漏れ出てしまったようなため息と共に、白い湯気が口から漏れ出す。
あまりの熱さに後悔しかけたが、熱々な物をはふはふしながら食べるのも、これはこれで乙な物。
熱々は熱々なりの、美味しさがあるという物よ。
熱かったけど。
お爺さんと目が合えば、残念な子を見る目で見られる。
何だよぅ。
良いじゃないか。
早く食べたかったんだもん。
こんがりときつね色に焼けたカステラは表はサクサク、中はふわふわふかふか。
でもちょっとモチモチもしていて、弾力性がある。
舌に残る優しい甘みは、蜂蜜とかも使っていそうだ。
うーん、牛乳とか飲みたい。
何ならゴクゴク飲み過ぎて牛乳で口髭とか作りながら食べて、何となく止まらなくなって無心になって食べちゃう味だ。
昔ながらのと言った感じの優しい素朴な甘さは、ふんわりと優しい気持ちにさせる。
ベビーカステラは、2つを重ねたような形をしている。
真ん中の窪みを見て、半分に割って間に入ったら気持ち良さそうだ。
上から布団のように被って、下は自重で適度に沈みつつふかふかで、ベットにしたら最高に気持ちよさそう。
しかも寝て起きて、お腹が空いたら適当にその辺から毟って、ムシャムシャ食べられる。
食べられるベット……。
え、最高……。
私ってば、天才……?
あ、でもそれだと体がベトベトしそうなのが難点だ。
なんだ、天才だと思ったのに。
スンっと無心になってムシャムシャ食べていると、次はしょっぱい物が食べたくなってくる。
そこで、さっきの魚介串焼きの出番である。
「おじさん!お魚串焼きお1つ下さいな。」
「おっ!お嬢ちゃん、良い食べ方してんね?」
「ループ食べは、人類の発明の至高だよね。」
訳知り顔でうんうんと頷いて言えば、おじさんは思わずといった感じで吹き出した。
「お嬢ちゃん、難しい言葉知ってるなぁ。」
「私は食の探求者であり美食家だからね。通な食べ方も色んな言葉もたくさん知ってるのよ。」
フフンと偉そうに言えば、おじさんは可笑しそうに笑いを噛み殺した。
「そいつは凄ぇや。それじゃあ是非とも、食の探究者であり美食家でもあるお嬢ちゃんには、うちの串焼きを気に入ってもらわないと。」
話しながら焼かれた串焼きからは、ジュウジュウと素敵な音色と醤油の香ばしい匂いが辺りを立ちこめる。
「ほら、食の探究者であり栄えある美食家様。お1つどうぞ?」
ノリのいい店主に、魚の串焼きを1つ差し出される。
私は高揚に頷くと、頂くわと偉そうに受け取った。
ふよふよと湯気が上がる魚の串焼きは、サイコロのように刺身みたいに切られて、串に刺さってる。
「んんッ!あっつ」
ふぅふぅして1口食べれば、醤油の香ばしい匂いにふわりと鼻を擽られる。
学習しない私は、またも涙目になりながら天を仰いではふはふはぐはぐしながら食べ進める。
焼かれたことによってぎゅぎゅっと詰まった魚の旨味と醤油の塩味が、じゅわじゅわ〜と口の中いっぱいに広がる。
醤油漬けにされていたことによって魚の生臭は消え、魚の旨味はそのままに。
いやむしろ香ばしい香りとちょっと濃いめの塩味が、旨味を一段も二段も上に引き立たせる。
うっま。
お酒と合わせたい。
いや、1度目の人生で酒の美味さはまだ分かってなかった気がするけど。
でもこれは間違いなく、合う味だ。
串焼きの美味しさにニマニマしながら、素人ながらこれに合うのはビールか日本酒か、はたまた焼酎かなんて考察する。
店主はそれを面白そうに眺めると、フフンと笑いながら、自信ありげにお口に合いましたかと聞いてきた。
「えぇ、最高にね。」
私はそれにまたフフンと高揚に頷いて、にっこり笑った。
「そいつぁ良かった。お眼鏡に叶ったなら幸いだ。」
おじさんと目を合わせると、何やら仲間意識のような物が出来て、お互いニヤニヤしちゃう。
そして、どちらともなく2人で吹き出して笑った。
ノリの良いおじさんである。
私はまた、紙袋からカステラを出してムシャムシャ食べる。
しばらく食べて、今度は海老の串焼きを頼んだ。
海老もこれまた最っ高で、思わず続けて連続でもう1つ食べてしまった。
貝を焼いたのは串焼きじゃなかったので、もはや店名詐欺だ。
だが、美味しければ何でも良いのである。
美味しいは正義だ。
甘いのとしょっぱいの、永遠に繰り返せるこの幸せ。
なんと素晴らしき事か。
前の質素な食事や、普段の食事からすればとんでもない贅沢である。
んんん。
うまうま。
しあわせ。
にへにへしながらおやつを頬張る事に夢中になっていた私は、この時知る由もない。
お金持ちの商家か、貴族の家か。
明らかにメイド服に使われてるであろう形のワンピース。
それも何処か良い所で働いていそうな、高級そうな生地を使った仕立ての良さ。
しかも鬱陶しい程厚くて長い前髪と、よく下を向く事で隠れてはいるが、よくよく見るととんでもない美幼女。
その割にブカブカの服は汚れていて所々ほつれ、動く度食べる度にスルッと少し袖が落ちていた事。
そして袖が少し落ちた事で擦り傷や痣が覗く腕が、ちらちらと何度か周りに見えていた事。
それに反して、パクパクと幸せそうに涙目になりながら食べるその姿。
それはあまりに微笑ましくも、見る者の涙を誘う姿だったという事をこの時の私は知る由もなかった。




