第26話 犯人
私の脳裏に中倏妹の言葉が過った。
「(全身あざだらけにしたあげく、骨折まで……絶対許せない!)」
(そういうこと……)
クマ子の言う通り、契約者以外の者はゾーン内での記憶が残らないのだとしたら、こういうことだろう。
契約者が被害者をゾーンに引き込み、犯行に及んだ後現場から離れた所でゾーンを閉じれば、被害者は突然負傷する事になるわけだ。
「犯人は、どんな奴だと思う?」
私はクマ子に訊いてみた。
「……被害者には共通点がある。
最初の被害者、中倏 柑奈は転校して現在の学校に居るが、彼女は元は東征学園の生徒だった。
……中倏が東征に居た頃、彼女を筆頭とした五人のいじめグループが存在し、中倏らは一人の生徒へ日常的な暴行を加えていた」
その話なら私は聞いた事があった。
クマ子は学園のグループチャットで、当時の状況を確認しているようだった。
「……他の生徒も中倏らの行いには気づいていたようだが、下手な事をして自分が標的にならないようにしていたようだな。
……実際、いじめを受けた生徒を助ける者はおらず、この生徒はクラスの連中の人柱となっていたんだ」
クマ子はグループチャットの画面をスクロールして話を続けた。
「……この生徒が病院送りとなった後中倏は転校、だがこれで解決とはならなかった。
……この生徒が学校に復帰した後も、残ったグループの奴らによるいじめは無くならず、彼女は入退院を繰り返していたようだ」
クマ子は画面を何度かタッチしたり、スクロールした。
「……中倏は当初、この生徒を馬鹿にしたり笑い者にする投稿ばかりだったが、転校後の書き込みは不満ばかりだな。
……東林 弥兎、お前の事が書かれていたぞ。
くくくっ……中倏とは色々やり合ったようだな」
クマ子は面白がりながら初めて笑ったかと思うと、片方の口角だけを上げ不敵な笑みを浮かべた。
なるほど、どうやらクマ子は中倏の書き込みから、私の事を知ったようだ。
「そのいじめを受けていた生徒が犯人だって言うの? 動機としては十分だけど、余りに安易な推測じゃない?」
クマ子の話を一頻り聞いた上での、私の感想だった。
「……犯人は間違いなくそいつだ。……私は彼女と戦闘の末、敗れた。
……自分の腕には自信があったんだがな。……ったく、あのギャルが居れば……」
「――えっ? は!? あんた、もう犯人と接触してたの!?」
クマ子の発言に度肝を抜かれた。
クマ子は今まで犯人像を推測ではなく、断定的な事実として話していたのだ。
「……あぁ。二人目の被害者が出た頃、この事件を知った私はここの書き込みから、犯人と次の被害者を推理した。
……最初の被害者はリーダー格の中倏、次は最も暴行を加えていた四条だ。
……犯人はグループ内でカーストの高い者から順に犯行へ及んでいるのが分かった。
……次の被害者を同じく暴行を加えていた上野と予想した私は、彼女を尾行していた。
……そこでは案の定犯人である契約者が現れたんだ」
クマ子は一端スマートフォンを見るのを止めると、スプーンでコーヒーを掻き混ぜて一口飲んだ。
「……そこで私は、犯人である契約者を止めるため戦闘となったが、私と奴とでは相性が悪く撤退を余儀なくされた。
……上野への被害を食い止める事は出来なかった」
(結果、上野は三人目の被害者となったのか)
「……以上の事から、犯人はいじめを受け、病院送りとなった子――」
そうしてクマ子はスマートフォンをこちらへ向けると、東征学園の制服を着た女学生が写る一枚の画像を見せてきた。
「――“樋郡 らむね”だ」
――とあるゾーン内
「あぐっ! ……うっ」
憑依体となっている中倏 佳奈は殴り飛ばされ、地面に倒れ込んでいた。
そんな佳奈を、眼帯少女樋郡 らむねは見下すように見ていた。
らむねの前には、ゴリラのぬいぐるみが指を鳴らす仕草をして佳奈を威圧している。
倒れ込み、うずくまる佳奈に対し、らむねは呆れた声を漏らす。
「全く……、佳奈ちゃんはほんとに駄犬だね」
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