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イストワール国~その花の名を私は知らない~  作者: 天音蓮
第三章 事件編

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救出(4)

加筆修正しました。

 大きく揺れた茂みから鼻先がのぞいてすぐ、狼に似た獣がぞろぞろと出てきた。アルフレデリック達を獲物と定めた双眸はギラつき、低い唸り声を上げながら狩りの体勢で広場の外周を囲っていく。かなり大きな群れであるらしく、ぐるりと囲ってもなお後から後から出てきて終わりが見えない。


 騎士たちは杖を構えて臨戦態勢をとり、ディアヌローズを抱き上げているアルフレデリックはその後ろで険しく眉根を寄せた。


「リュコスか。血のニオイを嗅ぎつけたな」


『あの獣なら大樹の中で見ました。でも、一頭だけでしたのに』


「リュコスは群れで狩りをする。斥候だったのだろう」 


 アルフレデリックはアントナンを介してディアヌローズと会話すると、ドゥドゥ達に向かって有無を言わせない口調で声を張る。


「子どもらは大樹に入れ」


「ナディ、僕らと一緒に行こう」


 断る、と即座に告げたのはアルフレデリックだ。冷ややかにドゥドゥを見下ろす。


「治癒魔術を解除しては命がもたぬ。討伐の妨げだ。早く結界に入りなさい」


 唇を噛むドゥドゥに、グエンが「行こう」と腕を引っ張った。エマに代わってレミの両脇をふたりで支え、大樹の中に入っていった。



 四人を見送ったディアヌローズが、じっとアルフレデリックを見上げた。


『わたくしも大樹に入った方がよいのではありませんか?』


「心配せずともディプリモン達だけで事足りる」


 足手まといの子ども達を避難させてしまえば、数はあれどリュコスの討伐は容易い。戦力の心配をしたのだろうが、ディアヌローズは自身の命が危ういことを理解できていない。アルフレデリックは眇めた目を向ける。


「それとも、また治癒を解除されたいか」


 きゅっ、とディアヌローズは唇を結んだ。

 大方、その時の痛みを思い出したのだろう。アルフレデリックはそんなディアヌローズに鼻を鳴らして、ディプリモンに向いた。


「私は空にいる。必要あらば援護しよう」


「承知しました。我らにお任せを」


 意気揚々と杖を剣に変えたディプリモン達を横目に、アルフレデリックは部下たちに指示を出す。


「アントナンは私に同伴せよ。ベルナールとクロティルドは空から、アンベールとジェラルドはこのまま地上にて、各々討伐せよ」


 アルフレデリックは風の精霊ブラスクに命じて、ディアヌローズを抱えた自身とアントナンを上空の青竜まで運ばせた。


 ベルナールとクロティルドは隋獣の翼馬を出現させて空へと駆け上がり、杖を弓に変えた。地上のアンベールは杖を槍に、ジェラルドは剣へと変化させて、臨戦態勢をとった。



 広場をぐるりと取り囲んだリュコスはますます唸り声を上げ、中でもひときわ大きな個体が勢いよくディプリモンに跳びかかった。


 それを皮切りとして、リュコスが一斉に襲いかかってくる。


 ディプリモンは下方に構えていた剣を斜め上に振り上げて、跳びかかってきたリュコスの腹を狙い、対するリュコスは寸前で身を捩って躱し、地面に降り立った。暫し睨み合いの末、ディプリモンがリュコスを一刀両断にした。


 片手で槍先を長く持ったアンベールは、横に大きく払って数あるリュコスの足を止めると、素早く槍を両手で持ち直し、目にも留まらぬ速さで次々に急所を衝いていった。剣のジェラルドは太刀捌きに一切無駄がなく、流れるようにリュコスを屠っては刃の血糊を払うを繰り返していく。


 しかしリュコスの群れは統率が取れていて、劣勢の仲間を援護するように間断なく向かってくる。数で勝っていることもあり、倒せど倒せどキリがない。


 それでも騎士たちの手が止まることはなく、彼の領地の騎士たちも血飛沫を浴びながら牙を剥くリュコスを着実に倒し、ベルナールとクロティルドは上空から群後方のリュコスを射抜いていった。


 騎士たちの気合の声と、リュコスの甲高い悲鳴のような声がいたる処で上がった。広場はリュコスの死骸でうまり、地面のどころどころには血だまりができている。血腥(ちなまぐさ)いニオイが、周辺に濃く漂った。



 リュコスの群れが半分ほどになった頃、新たな咆哮が森に響き渡った。


 たいして間を置かず、体格も見た目も(ひぐま)そっくりな獣が三頭現れた。二本足で立つ姿は大人の背を優に超え、茂みをかき分けた前脚には太く鋭い鉤爪が見える。その内の一頭は、片眼に大きな傷をもつ隻眼だ。


「隻眼のアルクトスだ!」


 誰かが声を張り上げた。


 アルクトスは爪に毒を持っている。中でも隻眼のアルクトスは致死の毒をもっていて、毒の回りが早く、治癒魔術が追いつかない話は有名だ。


 ところが。

 四つ脚になったアルクトスは、まっすぐ大樹に向かった。リュコスの死骸を気にも留めずに踏みつけて、その脚はべったりと血に染まっている。


 大樹に着くなり二本足で立ち上がると、鋭い鉤爪で幹を抉り始めた。前脚を振り上げる度に木屑が飛び散り、大樹は毒によってみるうちに黒ずんでいった。


 その様を、アルフレデリックは上空から注視した。大樹しか眼中にないアルクトスなど異様でしかない。リュコスにしても、アルクトスを見れば逃げるのが常である。襲われないとわかっているのだろうが、おかげで騎士たちはリュコスの討伐に追われて、アルクトスにまで気が回っていない。


 アルフレデリックはアルクトスの現れた森の奥を見据え、翼馬から弓を引くベルナールとクロティルドを呼び寄せた。


「アルクトスの現れた方角を調査せよ。アルクトスを(けしか)けた者がいる筈だ」



 二人が調査に向かって間もなく、その方角の左手遠方から、小さな生物の群体が飛んでくるのが見えた。近づくにつれてバサバサと羽音が大きくなり、姿がはっきりとしてくる。薄い飛膜を張った翼を羽搏(はばた)かせる姿は、まさに蝙蝠(こうもり)そのものだ。


「アルフレデリック様、ヴァンテリスです。如何なさいますか?」


「下に行かれては厄介だな」


 アントナンへの返事というより独り言のように零して、アルフレデリックは眉間にしわを刻んだ。

 ヴァンテリスは血を好む。リュコス同様、ニオイに引き寄せられたのだろうが、ざっと見ても数千はいる。小さいが動きを察知する能力に長けており、駆除するのは厄介だ。対処の最適解は魔術で、正確性と速度が問われる。その上、魔力量頼みの力業だ。適任者は──。


「ディアヌローズ。ヴァンテリスを始末する間、我慢していなさい」


 アルフレデリックは治癒の光を消して、後ろのアントナンにディアヌローズを手渡した。


 青竜アズルの向きを変え、ヴァンテリスを正面に捉えて杖を振った。


 光の塊が、勢いよく杖先からヴァンテリスの群へと伸びていく。上空で網となって広がった瞬間、アルフレデリックはその網をぐいと下方に引き絞った。


 間髪入れず魔力を流せば、ヴァンテリスで膨れた網の中は線香花火さながらに、パチパチと音を立てて無数の小さな炎が爆ぜた。


 数が多すぎてさすがに一網打尽とはいかず、同じ作業を繰り返していく。


 ヴァンテリスが近づくにつれて「キーキー」とけたたましい威嚇音が鳴り、耳を塞ぎたくなるほどに喧しくなった。




 ◆◇◆




 痛みに耐えてディアヌローズが脂汗を滲ませていると、突然、頭の中にウルラの聲が聞こえてきた。


 ──後方より、新たなヴァンテリスの群れだ。

 (なれ)(われ)を呼べ。


 ──ムリよ。話せないの。


 ──吾は言葉で命を受けるに(あら)ず。声に意志をのせよ。

 吾は契約を結んだ汝の、声と意志に従う。


 どうやら、言葉にならなくても、声を出せばいいということらしい。声だけなら何とかなるだろうか……。みんなの助けになることを強く念じて、ディアヌローズは口を開いた。


「……ゥ、ル ァ……まぉって(護って)


 言い終わるや否や咳きこむディアヌローズの腕環から、光とともに梟のウルラが現れた。光の残滓を零しながら羽搏いて、目にも留まらぬ速さで後方のヴァンテリス目がけて飛んでいった。


 ディアヌローズを抱えていたアントナンが「なっ!」と驚きの声を上げ、ウルラの向かった後方を振り返った。


 同時に、「何事だ」と後ろを向いたアルフレデリックが、新たなヴァンテリスの群れとウルラを見て目を見開いた。


 当のウルラは、ヴァンテリスの黒い群体に正面から突っ込んで群を二つに切り裂いたかと思うと、次には混乱するヴァンテリスの周りを飛んでまた一つにまとめている。ただ楽しんでいるようにも見えるが、おかげでヴァンテリスの群れはほぼ足止め状態だ。


 はぁ……、と大きく嘆息したアルフレデリックは「面倒な」と呟いた。疲れたようにディアヌローズを見る。


「ディアヌローズ、あの随獣(ずいじゅう)を呼び戻しなさい。後で説明するように」


 すぐにディアヌローズはウルラを呼び戻した。叱られる予感しかしない。腕環の魔石にウルラが戻った途端、身体がずんと重く、寒くなった。



 ウルラの足止めがなくなったヴァンテリスの群れがディアヌローズ達に迫り、最初の群れの残りが広場目がけて下降を始めた。もはや一刻の猶予もない。


「アントナン。ディアヌローズの頭にマントを被せて耳を塞げ」


 ディアヌローズの耳をアントナンが押さえると、アルフレデリックは杖を天に向けた。

 光が杖先に集まり、輝きを増していく。アルフレデリックの微かに蒼い銀髪が、光を受けて煌めいた。


「エクレール!」


 杖先から閃光が迸った。バチバチと粒子を飛び散らせながら頭上高くで光球となって膨らみ、一気に弾けた。


 耳を(つんざ)かんばかりの雷鳴を轟かせ、柳枝のごとく細い稲妻となって地上に降り注ぐ。


 ヴァンテリスをはじめ、リュコス、アルクトスの頭を穿ち、瞬く間に殲滅した。



 ディアヌローズはアルフレデリックの腕に戻された。頭まですっぽり(くる)まれたマントが開けられたが、苦痛に歪む顔を取り繕う余裕はない。外気に晒された脂汗が急に冷えて、ぶるりと震えた。


「このまま領事棟に戻るか?」


 アルフレデリックに問われて、ディアヌローズはふるふると頭を振った。まだ、やり残したことがある。みんなに別れの挨拶をしたいのだ。


 治癒の再開で痛みが和らぎ、知らずに入っていた力みが取れて間もなく、調査に行っていたベルナールとクロティルドが戻ってきた。ふたりの翼馬には、光の帯で縛り上げられた男が三人ぶら下がっている。



 空中で待機となったふたりを残して、ディアヌローズはアルフレデリックに抱えられたまま、再びブラスクによってアントナンと三人で地上に降りた。


 杖の灯りに照らし出された地上は、目を背けたくなるような惨状だった。しかも、エクレールで穿たれた獣毛や肉の焼け焦げたニオイと血腥いニオイで、むせ返るほどに酷い。


 ディアヌローズは嘔吐きそうになるのをぐっと堪えた。そんな素振を見せようものなら、即刻領事棟に帰されてしまうだろう。



「アルフレデリック様、肝が冷えました」


 やって来るなり、からりと言ったのはディプリモンだ。


 誰の目にも軽口だとわかるのに、アルフレデリックは片眉を上げ、さも不快という顔をした。


「下手は打たぬ」


「存じておりますとも」


 ディプリモンはにこやかに言いつつ、「ところで」と話を続ける。


「倒した獣は如何なさいますか?」


「どれも大した素材にはならぬ。適当に魔石にすればよかろう。だが、隻眼のアルクトスはそのまま私が持ち帰る」


 倒したアルフレデリックの要求に否が出るはずもなく、隻眼のアルクトスはブラスクによって上空の青竜アズルまで運ばれ、バンとは反対の足に鷲掴みにされた。


 残りの獣は、アンベールとジェラルド、ディプリモン達が魔石に変えていく。


 ディアヌローズはニオイに耐え切れなくなって、アルフレデリックの胸に顔を押しつけた。手で鼻を覆いたかったが、両手とも爛れているのだから致し方ない。恥じらいの気持ちはあるけれど、マント越しでもあるし、粗相するよりマシだ。何というか、子どもで良かった……。



 広場の獣をすべて魔石に変えると、アントナンが血の海となった広場に水を呼ん(ラヴァージュ)で清めた。


 ディアヌローズはアルフレデリックの胸から顔を離して、広場を見渡した。血の海も不快なニオイも消えている。ただ、大樹に刻まれたアルクトスの爪痕と毒による黒ずみが、より一層際立って見えた。



 気づけば月はすっかり傾いていて、空は薄藍になりかけている。



 ──ディアヌローズ、砦はもう不要であろう。消すが、よいか。


 唐突に頭の中に聲が届いて、ディアヌローズの肩がぴくりと揺れた。この聲は、森の精霊エリィオンだ。エリィオンとは話してから一日と経っていないのに、遠い昔のことのように思えた。


 エリィオンの姿を求めて視線を彷徨わていると、アルフレデリックに怪訝な目を向けられた。


『……何でもありません』


 笑って誤魔化し、見つからないエリィオンの代わりに大樹を見る。


 ──エリィオン、ありがとう。子ども達が助かったのは、あなたのおかげよ。

 お渡しするつもりだった星の欠片を使ってしまったの。ごめんなさい。後で必ずお礼をお渡しするわ。


 ──謝罪は要らぬ。謝礼はもとより不要。我はテチュの要望に応えたにすぎぬ。

 (なんじ)は炎より森を守った。我こそ汝に礼をせねばならぬ。


 ──わたしが願わなければ、森が脅威にさらされることはなかったわ。

 迷惑をかけたのはわたし。なのにエリィオンはそう言ってくれるのね。

 エリィオン、心からの感謝を。ありがとう。



 エリィオンの聲はもう聞こえてこなかった。


 代わりに、大樹が輝き始めた。

 細い枝先や外皮から順に、煌めく光の粒子となって天へと昇っていく。折しも、空からは星が一つ、また一つと消えゆく頃合いで、まるで地上で遊んでいた星々が、薄藍の空へと帰っていくかのようである。


 やがて。

 大樹は跡形無く消え去った。


 入れ替わるように、大樹の中にいた子ども達が現れた。皆一様に、口をぽかんと開けて空を見上げている。


 ディアヌローズも光を見送って、満ち足りた想いで微笑んだ。誰一人欠けることなく、それぞれの居場所に帰ってもらえる。自分が頑張るのも、あともう少し──。貝紫の瞳で、アルフレデリックの淡い金瞳を見上げる。


『アルフレデリック様、治癒の光を消してくださいませ。自分の足で立って、みんなにお別れしたいのです』


「自力で立つなど無理だ」


『少しの()なら大丈夫です。でも話せないので、アントナンさんに伝えていただいてもよろしいですか?』


「相変わらず其方は言うことを聞かぬ。──アントナン」


 不承不承という顔で、アルフレデリックは治癒魔術を解除した。


 下ろされたディアヌローズをすかさずアントナンが立ち膝に乗せ、上着を羽織らせる。上着もラヴァージュで清めたらしく、レミの止血に使ったとは思えないほど綺麗だ。乱れた髪をさっと整える手際のよさは、文官なのに側仕え並みである。


「さあ、これでよろしいでしょう」


 アントナンは言うなりディアヌローズを抱き上げた。


『歩けるわ』


「歩き疲れてしまっては、話をしないうちに帰ることになりますよ」


 そう言われてしまっては、ディアヌローズに反論などできよう筈もない。


『……ありがとう存じます。どうかみんなの処に着く前に、下ろしてくださいませね』


 願いどおりに、みんなの少し手間でディアヌローズは下ろされた。


 ところが。いざ一人で立ってみると、身体は自分のものとは思えないほどに重かった。歩けるところを見せたかったのに、足が少しも前に出ていかない。バランスを保つのも、痛みを堪えて笑顔を貼り付けているのもやっとだ。


 察したらしいドゥドゥとグエンが彼らの方から寄ってきて、それを見ていたレミや他の子ども達も集まった。


 ディアヌローズはアントナンを見て頷く。


『喉を傷めて声が出ないの。けれどみんなにお別れを言いたくて、伝えてもらえるようにお願いしました。みんな、怖い思いをさせてごめんなさい。でも、わたしは無事だし、レミの傷も治ったわ。悪い人たちはドゥドゥやグエン、大人たちが捕まえてくれた。獣だってもういない。みんな帰れるのよ。

 もしもまた何処かで会えたら、きっと声を掛けてね』


 唇を読んだアントナンが、一言一句違えずに子ども達に伝えた。


 最後にディアヌローズが別れの礼を執ろうとしてふらつくと、アルフレデリックが掬うようにして抱き上げた。


「もういいだろう」


 ディアヌローズは『はい』と首肯(うなず)いて、みんなへと向く。今できる最上の笑顔でみんなを見渡した。


『レミ、庇ってくれてありがとう。ドゥドゥ、グエン。ありがとう。みんな、ありがとう。さようなら』


「僕たちの所為で危険な目に遭わせてごめん」


 ドゥドゥとグエンは苦しそうに眉を寄せて、代わる代わる謝った。


『大したことないの。心配しないで。ふたりとも洗礼できるのでしょう?』


 遠慮がちに首肯くふたりに、ディアヌローズは『おめでとう』と祝福を贈る。


 ふたりは「必ずまた会おう、ナディ」と声を揃えた。


 彼らの後ろで、レミは静かに頭を下げ、隣のエマも同じように頭を下げた。



 ディプリモンが不躾な目で、アルフレデリックの腕の中にいるディアヌローズを見ながらやって来た。


「では、アルフレデリック様。近いうちにお会いいたしましょう」


「暇があればな」


 言い捨てるようにして、アルフレデリックは踵を返した。治癒の光でディアヌローズを包むと、ブラスクに命じて風を纏い、上昇する。広場にいる人たちがあっという間に小さくなって、青竜の背に着いた。


 アントナンやアンベール、ジェラルドも翼馬で合流し、アルフレデリック達は領事棟へと手綱を向ける。


 上空の空気が殊更冷たく感じて、ディアヌローズは寒さに身を震わせた。


「無理をし過ぎだ。莫迦者」


 ディアヌローズをアルフレデリックがマントで包んだ。本来、治癒の光を受けていれば、寒さなど感じないのだという。



 風を切って飛ぶ青竜の背で、ディアヌローズはアルフレデリックの腕に守られながらも不安に駆られた。

 ずっと頭の隅に追いやっていた『然るお方』、その存在に向き合わなければならない時がやってきた。


 一体、『然るお方』とは誰なのか。

 その人が、自分のよく知る人だったら?


 その人に、自分は何をしてしまったのだろう。

 やはり、謝っても赦してはもらえないのか。


 その人は、自分が戻ったらどんな顔をするだろう。

 また遠ざけようとするのか。

 それとも、命を狙うのだろうか……。


 寒気を感じるのは身体なのか、それとも心なのか。

 それすらもわからないまま、ディアヌローズは身も心も震わせるのだった。






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