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誘い

 「どうして、ここにいるの…?」

恐怖のあまり、声がうわずる。逃げ出したくても、足がすくんで動けない…。

そんな私を見て、智之はにたりと気味の悪い笑みを浮かべる。

「俺には、やっぱり亜紀がいいって気づいたんだ。だから、迎えに来た」

「そんな…。私達、もうとっくに終わったでしょ…?智之は、奥さんと子どもと暮らしていくって決めたはず…っ、きゃ―!」

ぐいっと手を引かれ、部屋の中に倒れ込む。重いドアが、バタンと派手な音を立てて閉まった。

「亜紀を忘れられなくてね…。俺のことを本当に理解してくれたのは、君だけだった」

そう言って、智之は私の上に覆いかぶさり、強引にブラウスを暴こうとした。抵抗しようと伸ばした腕は、簡単にねじ伏せられてしまう。

「いやっ!やめて…っ!!」

もう、だめだ…。そう思った時――。

バン!!と大きな音を立ててドアが強引に開けられ、下で待っていたはずの男性がそこに立っていた。

そしてすぐさま、その男性によって智之は外に弾き飛ばされる。柵に体を強く打ちつけられたようで、うめき声を上げながらうずくまっていた。

「大丈夫!?」

男性は泣きじゃくる私をすぐに起き上がらせ、湿ったジャケットを脱いで肩にかけてくれた。そして、そっと抱きしめながら…優しく頭を撫でてくれた。

「もう、怖くないよ」

                  *

 俺が唯子と出会ったのは、3年ぐらい前のこと。まだ劇団員として、舞台に出ていた頃だ。当時、すでにモデルとして人気を博していた唯子とは、友人を通して知り合った。そしてすぐに意気投合し、つきあうようになった。

一応言っとくけど、別にヒモだったわけじゃない。なかなか役者として芽が出ない自分にヤキモキしつつ、どんどん外へ出ていく唯子がただ羨ましかった。


 「ねえ。翔って、いま彼女いるの?」

次の出番が来るのを椅子に座って待ってたら、唯子がやって来た。俺は台本のチェックをするふりをして俯く。噂されるのも嫌だし、早くどこかへ行ってほしい。

「そんなこと、どっちでもいいだろ」

「えー?冷たいなあ」

唯子はおかしそうに笑って、まわりをチラッと確認し…一気に距離を詰めた。そして、俺の耳元に顔を寄せる。

「わたし、翔のこと…やっぱりまだ好きなの」

「え…?」

「今夜、うちに来ない?」

艶っぽく微笑む唯子。その手は、俺の膝の上に置かれていた――。

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