異世界進出!
小説の題名に「異世界」と入っているのに第1話で異世界に突入せず・・・(いや、ある意味異世界か?)
今回からやっと異世界です。
気がついたら、今度は上に屋根があった。
ベッドで寝かされていた。
「気づかれましたか?」
若い女が俺を覗き込んだ。
俺は起き上がった。
どうやら病院のようだ。だが外から海が見える。
これはおかしい。俺が地震にあったのは内陸だ。たとえ川に流されたとしても海にたどり着くのは県境の向こうだ。かなりの距離がある。
「俺は海まで流されたのか?」
看護婦らしき女性は首をかしげた。
「まぁ、詳しくは知りませんが海を漂流していたらしいですよ。」
「そっか・・・」
それにしてもやたらど田舎である。改めて病室を見回すとろくな医療機器がない。呼吸器どころかコンセントもない。
大部屋にランプが一つ、上からぶら下がっているだけだ。
「なりほど。これが“あいつ”のいう“異世界”ってやつか。」
なんとなく納得した。謎や疑問な部分も多いが、なんとなく腑に落ちた。
「たにさん!」
見慣れた顔が来た。
「おや、佐藤じゃないか。どうした?ってか何でいる?」
「まぁそれはいろいろあったんだけど・・・むしろ何でいるの!?」
「知るか。」
佐藤は俺の大学の友人。地震の時も避難誘導を手伝っていた。
「ま、ここにいるってことはお互い死んだんだろうな。」
これが唯一分かっていることだった。
翌日
「これ、日本のパトカー!?」
病院(というよりも診療所のほうが正しいか)の前に白黒パトカーが止まっていた。思いっきり側面に“熊○県警”と書いてある。
「うん。時折現代の物がこの世界に飛んでくるんだ。そのうちの一台。とにかく乗って。」
「へいよ」
佐藤に言われるがままパトカーに乗り込む。
パトカーは佐藤の運転で走り始めた。
途中まではただの田舎だったが、道がアスファルト舗装され、工事区画を抜け、ついに町に着いた。
「結構デカい町だな。」
「うん。ここが僕たちの作った町、“日本民主主義国”。」
「日本民主主義国、ねぇ・・・」
「人口はおよそ50万。今も増え続けている。」
「さっき僕たち、といったがどういうことだ?」
「へっ?ああ、俺と一緒に飛ばされてきた日本人によって作られたんだ。にしてもたにさんが飛ばされるなんて思わなかったよ~。」
「俺もまさか異世界に来るなんて思ってもみなかったがな。それにしてもお前、”飛ばされた”って言ったが、いつからこの世界にいるんだ?」
「5年前」
「何!?俺にとっては地震があったのはつい数日前の話だぞ!」
「えっ!?たにさんはあの地震の後来たんじゃないの!?」
「えっ!?」
「へっ!?」
お互いに顔を見合わせた。
パトカーは町の中心部のでかい建物の前で止まった。敷地もでかいことからして、大きなお役所か何かだろう。
「ついてきて」
佐藤の言う通り、ついて行った。
大きな石造りの建物。どこか国会議事堂を思い出す。
やたらデカい木製のドアを開けて中に入ると、中も荘厳だった。
そこにいたのは偉そうな王様みたいな人ではなく、そして高級スーツを着た偉そうな官僚風の人でもなく・・・
どちらかと言えば“会社の部長”みたいな人だった。
「おや、佐藤君。結局この前の遭難者はどうだったんだい?」
白髪のおっさんは木製の事務机で書類と格闘しながら訊ねた。
「あ、はい。現代の日本からの遭難者でした。」
「お!そうか!」
それを聞いた瞬間におっさんは手を止めて俺の方へ向かってきた。
「総理大臣の木嶋だ。木嶋浩平。よろしく。」
「はぁ・・・どうも。谷岡です。」
俺はとりあえず握手をした。正直まだいまいち現状が把握し切れていない状況だ。
「総理大臣なんて偉そうなこと名乗ってはいるけど気軽に話しかけてくれ。ここも元々は小さな村だったんだ。私も正確にはそこの村長に過ぎない。」
「ここが、村!?ざっと見ただけでもすでに“村”というレベルは越えていると思いますが・・・」
「ここまで大きくなったのは実はつい10年前くらいのことなんだよ。いまやここまで大きな町になったけどね。」
「えっ!?いや、その前に・・・10年もいるんですか!?」
「まぁね。おかげで黒かった頭は真っ白に・・・」
「元から白かったやろ!」
突っ込みを入れながら今度は女性が登場した。こちらもどう見ても”普通の日本人”、つまりはOLにしか見えないのだが・・・
「初めまして。私は経済省事務官の平林美佐。」
「谷岡です。初めまして・・・」
「気軽に声かけて頂戴。それと部長!また書類にミスがありました!いい加減にしてください!」
「す、すいません・・・」
木嶋総理大臣は平謝りしている。
ってか”部長”って・・・
そのことを佐藤に訊ねると、元々この二人は経済産業省のお役人だったらしい。木嶋総理は元部長、そして平林事務官はその部下だった。とのことだった。
「まぁそれじゃあ佐藤君。とりあえず谷岡君を案内してやってくれ」
「わかりました!」
佐藤は見事な陸軍式敬礼で答えたのであった。