第5話 王都へ
「それにしても予想より大きいわね」
悠、拓也、雅人、小春、綾の5人は足並みを揃え石畳の街道を通り、イルゼリア王国へと向かっていた。
ふと家の方へ振り返り、綾は言った。
街道の周りには低草がほぼ均一に生え、風が吹く事に心地いい音を奏でていた。
その中に佇む屋敷と見間違えるほどの大きさの、白のレンガを基調とし、高さは10メートルは優に超えるだろう。
「確かに、クラス全員が住んでるのにかなり余裕があるしな」
「けどなんで、こんな王都郊外の家に移動させられたんだろうね」
「……分からない。あまり王都の人達に見られたらまずい理由とかあったりするのか…。」
「なぁ拓也。ゲームとかでもこういう展開なのか?」
雅人は隣を歩いていた拓也に声をかけた。
「俺はゲームに疎くてな」
「……ゲームとかでも、こういう展開が多い……はず。
クラス単位での転移系はあまり見ないから分からないけど、本当だったら異世界の何も無いところからスタートっていうのが多いね……」
「私たちの場合は、恵まれてたのね…。それにしても影山、話せるじゃん」
小春は拓也の脇腹を肘で小突く。
やめてよ……と言いつつも、拓也は少し嬉しそうであった。
4人が前を歩いている中、悠は少し後ろから、見守るように歩いていた。
(風がきもちいい)
吹き抜ける、生暖かい風が肌を撫でる。
ゆったりとした空気が今、この4人の中で溢れていた。
(昨日の……足音)
悠が消灯後一人で噴水に腰掛けていた時のこと。
あの時に響いていた足音。……少し重量がある様な足音だった。
「雨宮君、大丈夫か?」
はっとして横を向くと、綾の顔がそこにあった。
咄嗟にごめんと言う悠に、顔を傾けながら綾は笑った。
「謝る必要ないよ。こちらこそ驚きかせてごめんね」
「そんな…気にしてないですよ。」
同じクラス、同級生だと言うのに悠は綾に対して敬語だった。その敬語に少しムッとした顔をする。
「なんで敬語なのよ、同じクラスでしょ」
「つい……あんまり話したことなかったし」
クラスでは目立たない悠と、クラスをまとめる委員長。立ち位置は確かに違うものだった。
だが綾はそんな事は気にしている様子は無い。
「まぁね……けどこれを機に話せるじゃん」
「そうだけどさ…」
少しの間。2人の間に沈黙があった。
目の前で、拓也の首に腕を回す小春とそれを苦笑いで見ている雅人。少し照れている拓也。
拓也は能力の事もあり、情報担当みたいな感じになっている。だから少しずつ皆と馴染めて来ていたのだろう。
「ねぇ坂本さん、ひとつ聞いていい?」
「いいわよ。なんでも聞いて」
一呼吸置き、悠は続けた。
「王都に行くメンバーに、なんで僕を選んだの?もっと他に適任がいたと思うけど…」
「適任は居たかもね」
思っていたより直球で返してくる。
「でもね、雨宮君もあの空間でいたら少し居心地悪いでしょ?」
綾は前を向いたままだった。
「………。」
否定は、出来なかった。
石畳を踏む音が、静かに続く。
能力がわかってからの、クラスの空気は少しずつ変わっている。
露骨ではないが距離感が、学校より出来ているのは明確。
「皆の言ってることも理解できる。……けど、雨宮君の気持ちも理解できる。勝手に授かった能力で、勝手に格差が生まれる。それが能力がないなら尚更ね。」
「だとしても、私は見捨てないよ。それが委員長なんだから」
「………ありがとう」
「ええ。……それにこのメンバーも色々考えて作ったのよ。」
綾の口から、息が漏れた。
「悠、遅い」
思わぬ人物から声を掛けられ、少し動揺した。
小春がムッとした顔で、こちらを見ていた。
「置いていくぞ?」
「悠君…大丈夫?」
雅人と拓也も、小春に続き声を掛ける。
悠は少しだけ安心した顔をした。
「ほら」
背中を軽く押された。
「少なくとも、この場にいる4人はそんな事気にしないわ」
「……」
「みんな余裕があんまりないだけ」
「何話してたんだ?」
「いや……その」
口篭り、頬を搔く。
「みんなが冷たいって話よ」
またも綾は直球に言った。
「あぁ、そのことか。……気にしすぎだ。」
「……僕も気にしてないよ。それに悠君のことはわかってるつもりだから」
「なに?拓也って、悠の彼女ポジ?」
「そんなわけないよ!!……僕はノーマルだよ!!」
ニヤニヤと笑いながら、小春は拓也をいじる。
「行くわよ。この調子じゃ日が暮れるわ」
再び、足並みを揃え歩き出す。
心做しか悠の足取りは、さっきより軽く感じた。
小さな丘を越えると、少し遠くに王都が見えた。
外壁は高く、陽光を受けた白い壁が遠目にもよく目立っていた。
街道の先に続く開かれた城門からは、人や馬車が絶え間なく行き交っている。
その中央に聳えるのは、巨大な城であった。
空へ伸びる幾つもの尖塔は光を反射し、神々しい何かを魅せていた。




