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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第3章:ふくふくの根を張りましょう 〜才能開花と責任の自覚〜

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第48話:手紙

第3章最終話。アーサー視点のお話です。

グランフェルトから戻って数日。

僕は、約束通り兄上へ手紙を書いた。


生まれて初めての兄に宛てた手紙。

何度も書き直し、言葉を選び、丁寧に綴った。


グランフェルトで見たもの、体験したこと、そして学んだこと。


王族の在り方。

「強くなる」という意味。


アルヴィン様とハルカが話していた、「作る人」「売る人」「使う人」——みんなが幸せになる道を探すことの大切さ。


それから、王立裁定評議会のこと。

オンタリオに救いの手を差し伸べてもらったことへの感謝。


公権力の正しい使い方や、法律や協定といった約束事など。

自分にはまだまだ、知らなければならないことが多くあることを実感した——。


そんなことを、僕は一つ一つ丁寧に綴った。


◇◇◇


数日後。

兄からの返事を、ヒロが持ってきてくれた。


「アーサー様、レイノルド殿下からお手紙です」


その言葉に、僕の心臓が大きく跳ねた。


「……本当に?」

「はい」


ヒロが差し出した封筒には、見覚えのある王家の紋章が刻まれている。


手が、わずかに震えた。


手紙を、受け取ってもらえた。

それどころか、こんなにも早く返事を書いてもらえたのだ。


それだけで、胸がいっぱいになる。


一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、改めて手紙を手に取る。

丁寧に封を切り、中の便箋を取り出した。


兄上の文字は、几帳面で美しかった。

一文字一文字に心を込めて書いてくれたことが伝わり、嬉しさがこみ上げる。


そして、最初の一行に目が釘付けになった。


『アーサーへ

 手紙、ありがとう。

 お前の言葉を読んで、とても嬉しかった』


その一文を読んだだけで、涙が滲みそうになる。


兄上が、喜んでくれた。

僕の手紙を、ちゃんと読んでくれた。


天井を仰ぎ見て、僕は一度大きく息を吸い、胸の内を整えた。

気合いを入れ、続きを読み進める。


手紙には、王立裁定評議会の様子が詳しく綴られていた。

ソルティス侯の主張を、どのようにして一つひとつ崩していったのか。


そのために、どれほど周到な準備がなされていたのか。


財務長官でもあるアルトリウス公爵に依頼し、過去の徴税報告書を徹底的に調査してもらっていたこと。

そこから導き出された数々の事実によって、ソルティス侯の論拠を覆すことができたこと。


さらに、ローゼンベルク騎士団長には軍務の立場から、「塩は軍事物資である」という現実を突きつけてもらったという。

その指摘が決定打となり、最終的にソルティス侯の行為は、『塩の公正で安定的な供給のための協約』第三条違反と認定されたのだと書かれていた。



ただ——と、兄の手紙は続く。


そもそも王立裁定評議会の召集にこぎつけることができたのは、前回王宮でラオウ殿がその武威を見せつけたことで、オンタリオの価値を改めて多くの貴族が認識し、支持したことにあった、と。


今回の出来事を通して、政治は、貴族や民の支持と公正な法、そしてそれを為す為政者が正しく権力を使うことが大切なのだと改めて思い至った。


王権だけでできるものではない。


それは、アーサーの手紙にも書いてあった「作る人」「売る人」「使う人」——みんなが幸せになる道を探すことの大切さに通じていると気がついた。


お前の言葉から、俺も学ぶことができた。

ありがとう、アーサー。


そう、結ばれていた。



そこまで読んで、僕は手紙を一度置き、深く息を吐いた。


兄上が——。

僕の言葉から、学んだと言ってくれた。

僕を、対等に見てくれている。


「兄上は……すごいな」


自分とは違い、法律や権力、政治というものを理解し、それらを正しく使いこなしている。

——それなのに、僕の言葉にも耳を傾けてくれる。


胸が、じんわりと温かくなった。




ふと手元を見ると、手紙にはまだ続きがあることに気がついた。


二枚目だ。

紙をめくると、そこにはこう書かれていた。


『まだずっと先の話だが——

いつか、王宮に戻ってこないか?』


「え?」


僕は、驚きに息を呑んだ。



手紙は続く。


今回のことで、ソルティス家の影響力は格段に低下した。

王宮内には、ローゼンベルク家を始め味方も増えている。


父上も僕も、お前を守る準備を着々と整えている。

もう、誰にもお前を害させたりしない。


それに——。


「公権力の正しい使い方や、法律や協定といった約束事など、自分にはまだまだ知らなければならないことが多くある」とお前が本当に思ってくれているのなら。


俺の側で、それらを学びながら国を良くする手伝いをしないか。


——もちろん、お前がハルカ嬢やオンタリオ領に恩返ししたいという気持ちを持っていることも理解している。


だが、それは王宮でもできるのではないだろうか?

むしろ、今回のように、政治の中心である王宮だからこそできることを、王族だからこそできることを探して、彼らの役に立つ——そのような道も視野に入れてみてはどうだろうか?


まだお前は七歳で、これからたくさんの経験を積むだろう。


だから、今すぐ答えを出す必要はない。

学院を卒業する時までに、決めてくれればいい。


十二歳になれば、王立学院に入学する。

王宮から学院に通ってもいいし、まずは寮に入って、週末だけ僕の側で政務を学ぶのでも構わない。

少しずつ王宮に慣れ、政務や王族の務めというものを知ってもらいたい。

その上で——将来、アーサーには僕の側で、僕の政務を手伝ってもらえたらと思っている。


急にこんなことを言い出して、さぞかし戸惑わせていると思う。

だが、僕は本気だ。

母上のと約束もある——今まで出来なかった分も、どうか兄としてできる限りのサポートをさせてほしい。


デビュタントで王都に来る時に、改めてお前の想いを聞かせてほしい。


そう、綴られていた。




僕は手紙を手にしたまま、しばらくその場から動くことができなかった。

何度も読み返し、そこに綴られた兄上の言葉を胸の奥で噛みしめる。


——兄上は。


僕を、必要としてくれている。

帰ってきてほしいと、そう言ってくれている。


これまで僕は、ずっと思い込んでいた。

王宮に自分の居場所はないのだと。

誰からも必要とされていないのだと。


でも、それは違った。


父上も兄上も、僕を待っていてくれた。

僕の成長を、遠くから見守ってくれていたのだ。


けれど——。


今の僕には、ここがある。


ハルカがいて、

タイロン様とミランダ様がいて、

ラオウ様がいて、

レオやヒロ、ルナがいる。


皆が、僕を受け入れてくれた。

こここそが、僕の居場所なのだと信じていた。


かつて僕は、ラオウ様にこう言った。


ただハルカに守られるだけでも、

ハルカを守るだけでもない。

互いに補い合い、共に歩いていける存在になりたい、と。


そのために必要な力を身につけたい。

だから、ハルカを僕にくれ——そう願った。


その想いは、今も変わらない。


けれど——。


兄上の言葉が、静かに胸に響く。

王宮でも、できることはある。

王宮だからこそ、王族だからこそ、果たせる役割があり、使える力がある。


僕は、王族だ。


その責任から、逃げてしまっていいのだろうか。

ただ自分の願いだけを抱えて、生きていていいのだろうか。


考えは次々と浮かび、頭の中を巡っていく。


「今すぐ答えを出す必要はない。

学院を卒業する時までに、決めてくれればいい」


兄上の言葉が、ふと胸に蘇る。


——そうだ。まだ、時間はある。

それに、兄上は道筋も示してくれていた。


まずは寮に入り、週末だけ政務を学ぶ。

少しずつ王宮に慣れ、王族としての務めを知っていけばいい——と。


それに、岩塩だって、まだ探しに行けていない。

オンタリオ領に、僕はまだ何も返せていないじゃないか。


ならば、今はまず力を蓄えよう。

学院に入るまでに、できる限り多くの“力”を身につける。

そして十二歳になったら冒険者登録をし、岩塩を探しに行こう。


その先のことは、ハルカやタイロン様たちと相談して決めればいい。


「一緒に考えるの。それが、家族でしょう?」


かつてハルカに言われた、その言葉が胸に響く。


もう、間違えたくない。

今度こそ、間違えない。


だから——答えを、一人で出さなくていい。

皆と共に、探していこう。


僕は、そう決めた。



◇◇◇



「トントン」


部屋にノックの音が響いた。

僕は慌てて思考を打ち切る。


「入って」


扉が開き、顔を覗かせたのはハルカだった。


「アーサー、夕食できたから。一緒に行こう」


いつも通りの明るい笑顔。

僕の大好きな、温かみのある琥珀色の瞳が、楽しげに揺れながら僕の名を呼ぶ。


「うん。これを片付けたらすぐ行くから、少し待っててくれる?」

「分かった。じゃあ、扉の前で待ってるね」


そう言って、ハルカは軽やかに部屋を出ていった。


一人残された部屋で、僕はもう一度、手紙に視線を落とす。


『デビュタントで王都に来る時に、改めてお前の想いを聞かせてほしい』


——まだ、時間はある。

今すぐ答えを出さなくてもいい。


けれど、いつかは決めなければならない。


手紙を丁寧に畳み、大切に机の引き出しへしまう。


「お待たせ、ハルカ」


そう声をかけ、食堂へ向かう廊下を並んで歩きながら、僕は考える。


兄上は、僕を必要としてくれている。

父上も、守ると言ってくれている。

王宮にも、僕の居場所はある。


それでも——。


今の僕の居場所は、ここだ。


どちらも大切で、

どちらも、失いたくない。


だからこそ、いつかは選ばなければならない。

——その日が、できるだけ遠くにあることを、願いながら……。


ふと窓の外を見上げると、星が静かに瞬いていた。


オンタリオの空は、初めてここに来た日と変わらず、

どこまでも広く、そして美しかった。


〜第3章 完〜

♦︎ 次章予告 ♦︎


ソルティス侯爵の次の一手とは。

レオの帰還。

学院生活の始まり。

恋の目覚め?

そして、アーサーの選択。


二人の未来は——。


『第4章 ふくふくの花を咲かせましょう』

どうぞ、お楽しみに╰(*´︶`*)╯♡

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