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極めてリハビリ的な【短編集】  作者: 伊井塚ショウ


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7/9

いつかなくなる景色

 日本には約三千三百万本の電柱があると言われている。

 計算すると国民の三人に一人が電柱を保有していることになるのだとか。いまいち計算の意図が分からないのは一旦置いておく。


 電柱同士を結ぶ電線が蜘蛛の巣上に張り巡らされている様は景観の邪魔になると言う人もいるが、僕はこの風景が結構好きだ。

 特に夕暮れ時なんかはたまらない。橙色に染まった空に、電柱がシルエットになって作り出される光景は、何とも哀愁深くて思わず見とれてしまうほどだ。

 僕は決して電柱マニアではないが、時折こうやって「電柱っていいよなぁ」とぼんやりと考えながら、街中を歩くことがある。


 例にもれず今日もそんなことを上の空で考えながら、散歩をしていた。

 それも今さっきコンビニで買ったフライドチキンを右手に持ってパクつきながら。行儀が悪いなどと言いなさるな。それほど人が歩いていないような閑静な住宅街では、食べ歩きを咎める者など誰もいないのだから。


 ところが、今日は食べ歩きを許さないやつがいた。

 それは一瞬の出来事。気が付くと、右手からフライドチキンがなくなっていた。

上空からの突然の襲撃。電柱に止まっていたトンビが勢いよく、自分のほうへと向かってきたのだ。

 トンビは僕から奪い取ったフライドチキンを口に咥えたまま、どんどん遠くへと飛び去って行く。


 こうなるともう取り返すことはできない。まだ半分も食べていないうちに、こんなことになってしまうなんて。しょんぼりした気持ちで空を見上げるが、もうトンビの姿は見えなくなっていた。

 食べ物を取られる人の映像は何度か見たことがあったが、自分が同じ目に遭うとは夢にも思っていなかった。


 しかし、ここでふと思う。いつかはこんな光景も見られなくなってしまうのではないかと。

 都会では無電柱化が進んでいるらしい。電気配線は地中化され、場所によっては電線がほとんど空中を通っていない場所も存在する。無電柱化は、景観が良くなるだけでなく、防災の面でもメリットがある。倒れた電柱が道路を塞がってしまう心配がなくなるからだ。

 

 無電柱化がどんどん進んでいけば、いつかは街中に電線が張り巡らされた景色はなくなっていく。電線に止まる鳥たちも、そこから落とされる糞も、今回のように電柱から襲撃してくるトンビもいつかは存在しないものになってしまうのだ。

そう考えると、何だか今受けた仕打ちも悪くない気がしてきてくるから、不思議なものだ。


「もう一回買いに行くか」

 

 食べそびれたフライドチキンを求めて、僕は来た道を引き返してコンビニへと向かう。

 今度はトンビに取られないようにしようと心に誓いながら。

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