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04. アレックス王子の求婚   

2025/6/15 修正済


※ ※ ※ ※


 

 アレックスが貴族令嬢に興味を示さないのは、一言で言えば彼女たちに見飽きたからだ。

 

 華美なドレスを着て扇をはためかしながら、香水むんむんの貴族令嬢よりも、真っ白い聖衣を纏い、神殿に厳かに仕える聖女に興味深々だった。



 “聖処女”という清らかなイメージも、アレックスの男心に拍車をかけた。

 

 

 実際、王子に限らず聖女は宮廷内でも殿方から人気があった。中には聖女を手籠めにしようとする悪しき令息もいたのだ。

 

 その為、聖女たちは宮廷内は二人以上でないと行動しない規則となっている。

 

 

 ましてや大聖女のダイアナには、女性の護衛騎士が傍におり、マリーを含む巫女たちがダイアナを取り囲んでいた。

 


 それだけ警護を強化するのは、万が一、大聖女に何か不埒な事があっては『神殿の(ことわり)が狂う』と、聖職者たちから暗黙の了解だったのだ。


 

 だが、アレックス王太子は諦めなかった。


 しぶとくダイアナに食い下がる。

 

 それでも拉致があかないと思いきや、とうとう国王に泣きついた。

 


「父上~どうか()()でダイアナを僕の正妃にしてください、どうかどうか、この通りです」と土下座までした。


 弱り果てた国王夫妻はダイアナを呼び出し、彼女の気持を確認した。


 

 ダイアナは王たちの前でもきっぱりと言った。



「恐れながら私は神殿の女神に忠誠を誓った身です。婚姻などとんでもない!──何より私は平民の出自(しゅつじ)。王太子様とは身分の差がありすぎます。申し訳ありませんがお断りさせて頂きます」



──はあ?冗談じゃないわ!なぜ私がアレックス王太子と結婚しなくちゃならないの!


 とダイアナは内心、無性に腹が立った。


 

幼い頃から大変な努力をして、大聖女になったばかりのダイアナに、その地位を捨てるなどバカに等しいと思ったのだ。



「そうですわ、お姉さま。アレックス殿下は余程、頭がバカなお方なのでしょう」


 姉が王子の求婚を断ったと聞いたカミラは、嬉しそうにニタニタほくそ笑んだ。



※ ※



 だが、アレックス王太子に起死回生の味方が現れた。


 

ダイアナを推薦した元大聖女が、王太子がダイアナに求婚した噂を聞いて、アドバイスをしに来たのだ。



「ダイアナ、もしあなたが王妃になれば、今よりも、巫女や聖女の待遇もより改善してもらえますよ──それに我が国の聖教会の数はまだまだ少ない。聖教会を全土に増やせば民の信仰心がより深くなる。何より聖女が増えれば、病いやケガをしている多くの国民が助かるわ!」



「は?……シスター様。王妃というのはそんな凄い権限があるのですか?」



「そうですよ。王妃は王様に進言できる唯一の女人よ。大聖女にもできない力があります」


「………」


 ダイアナは恩師である元大聖女の意見に耳を傾ける。



「ねえダイアナ。とりあえず王太子の婚約だけでも受けてみたらどうかしら? 若いあなたには、まだピンとこないかもしれない──けれど国母の座はそれだけ重要なのです。アレックス殿下が嫌でないのなら、後から夫婦の絆は育んでいけるでしょう──あなたが王妃になれば、聖女で培った能力を民のために十二分に発揮できると思うわ」



「なるほど……大聖女が為せない政事(まつりごと)を王妃なら出来るというのも……確かに一理ありますね」


「そうですよ、決めつけないで一度考えて見てもいいのではないかしら」


「⋯⋯⋯⋯」

 

 ダイアナは『大聖女様はなかなか打算的な御方だ』と内心思ったが、それは口には出さず恩師である大聖女のアドバイスは、素直に心に入れた。


 


──まあアレックス王子は軽薄な一面はあるにせよ、別に嫌いではないわ。

 

 

 皆が騒いでるように、アイスブルー王子の容姿は麗しかったし、何よりもアレックスが「自分を一途に恋している」という気持は少しだけこそばゆい気分になる。


 

 ダイアナだって表向きは大聖女の品格の為、異性を無視しているが、未だうら若き乙女だ。あれだけアレックスに付きまとわれれば、彼の気持ちはダイアナにも、しっかりと伝わっていた。


 

 それにもう一つダイアナには、大聖女になった時にあきらめた夢があった。

 

 

 ダイアナは孤児だったので“家族の絆”にとても憧れた。




──もし自分が魔力のない平凡な娘なら、結婚して子供を産んで育ててみたい気持ちはあった。


 

 けれどそれは“儚い夢”と諦めた。



 でも……アレックス王太子と結婚すれば、その夢が叶えられるのかもしれない!



 ダイアナは元大聖女様の助言で、生まれて初めて、自分の人生の中で結婚を意識するようになった。



※ ※



 そしてダイアナは18歳を迎えた。


 彼女は長い時間をかけて考えた結果、王太子との結婚を条件付で承諾した。


 

「アレックス殿下、我儘(わがまま)かもしれませんが、私は最低でも後二年は、大聖女としての仕事をまっとうしたいのです──何故なら巫女のマリーは私よりも稀に見る魔力の持ち主です。未来の大聖女候補といってもいい、ですがマリーは聖女にすらなっていない。あの娘にはもう少し時間が必要です。──もし私を二十歳まで仕事を続けさせてくれたなら、引退して貴方様の妻になりますわ」



「ひえ~ダイアナ、本当かい! ああ俺は待つよ。たかが二年などあっという間じゃないか!」


 

 こうして条件付だったが、ダイアナとアレックス王子の婚約は成立したのであった。



 


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