01. 翡翠の女神と魔物と聖女
※ 今回、残虐なシーンがありますのでご注意ください。
※ 2026/2/23 加筆修正済み
※ ※ ※ ※
妹のカミラは幼い頃から尋常でない魔力があった。
それはダイアナをも超える魔力だ。
ダイアナとカミラは孤児院のシスターの推薦で、聖教会で魔力測定に参加した。その結果、二人には高いパワー数値が判明した。
この時、ダイアナは八歳、カミラは七歳。
こうして二人は大神殿の巫女に合格したのだ。
巫女は大神殿の聖女になる為の見習いの名称だ。
そもそもこの王国にどうして聖女が誕生したのか?
聖女とはどういう女人を指すのだろうか。
◇ ◇
まだ国すらなかった遥か遠い遠い昔──。
緑豊かな肥沃の大地に人々が平和に暮らしていた。
しかし、いきなり地底の冥界に棲む巨大魔獣が続々と侵入してきて人々の暮らしを破壊した。
人間はあっという間に魔獣たちの餌食にされた。
魔獣は人間が大好物だったのだ。
人間は巨大な魔獣から見たら、ネズミほどの小さな弱き獲物。
「グアアアアアァァァ──ッ!」
「グオオオオオオォォォ──ッ」
巨大魔獣は凄まじい雄叫びを天高く轟かせる。
爬虫類を巨体にした悍ましき姿で、鋭い牙の前足で人間を掴み、ガマ蛙のように大きな口を開け次々と人間を飲み込んでいく。
だが咀嚼はしない、ただ人間を飲み込んでいくのだ。
「「ぎゃああ、助けてくれええ!!」」
今日も人々が魔獣の餌食にされていた。
人々は魔獣の襲撃に阿鼻叫喚し、村落の家々も家畜も全て破壊されてしまう。
最後は森に逃げるしかなかった。
森林に逃げこんだ人々は、巨大魔獣の前足の鋭い爪が届かない洞窟に隠れて、かろうじて生き延びた。
「──なんでこんな目にあうんだ……」
多くの友や家族を失った悲しみの弔いの中、人々は怒りと復讐で天を仰いだ。
そして残された人々は、天上にいる土地の守護神に祈りを捧げる。
「どうか、どうか古から続く我ら土地の守り神よ!──お願いです、悪しき魔獣たちを成敗してください!このままでは貴方様が創ってくださった大地が魔獣に破壊されてしまいます」と。
人々は自分たちで作った穀物も一切食べずに、天上の神に供養し毎日、毎日ただ祈り続けた。
ある日、彼等の願いが通じたのか破壊された村の中心部に、ゴゴゴゴーッと地底から遥か大きな神殿が出現する。
「あひゃ~、なんつう大きな神殿だろう?」
人々が大神殿内に恐々と足を踏み入れると、いくつも部屋があった。
その中に村の水瓶ほどある大きな水晶が置いてある大広間。
すると七色に輝く水晶から突如として全身が翡翠輝石の女神が現れた。
「あ~ん、あたしを読んだのはオジサンたちかい?」と女神はにやりと笑った。
「「おお、翡翠の女神さまだ!」」
人々は祈りが通じたと喜んだ。
「ふむふむ、なるほどね。いいよお安い御用さ」
と彼らの惨状を理解するや否や、女神は急に瞬間移動して荒廃した街で寝ていた魔獣の前に現れた。
すると女神は呪文を唱えると黄金の縄が宙を飛んだ。そのまま寝ている巨大魔獣たちをあっという間にかき集めて黄金の縄は魔獣たちをぐるぐる巻きにした。
女神はそのまま縄に巻かれた魔獣たちを抱えて、鼻歌を歌いながら遊ぶように神殿まで運ぶと、大広間の六芒星のサークルの真ん中に置いた。
そのまま女神は呪文を唱えて空中に冥界へ続く闇の扉を開ける。
翡翠の女神がふっと息を吹きかけると、その途端に魔獣たちは扉の中へとスイスイと面白いように吸い込まれていった。
最後に女神は両手を広げて天井を指さす。
たちまち神殿内に大きな結界を張りめぐらされると、闇の扉も瞬時に消えた。
「はい、これでおしまい!」と女神はにっこりと微笑んだ。
こうして女神は魔獣たちを、彼等の棲む冥界の国へ閉じ込めて封印したのだった。
※ ※
あんなに恐ろしかった魔獣を幼女が遊ぶかのように成敗した翡翠輝石の女神。
神殿に集った人々は涙を流して歓喜する。
「翡翠の女神さまは素晴らしい、なんたる神力だ!」
「女神さま、ありがとうございます。ありがとうございます!」
人々は女神に心から畏敬の念を込めて、深々と感謝の意を現した。
「へへ、たいしたことないよ。ああ面白かった!」と翡翠の女神はケロリといった。
※ ※
その後、女神が棲む大神殿を中心に人々が集まり、集落は栄えていき、たくさんの村や町ができ人々に格差が生じていく。
時は流れ、貴族が支配する階級社会となり王国が誕生した。
国の名は翡翠の女神の敬愛する意義も込めて、ジェダイト王国とした。
ジェダイト王国は緑豊かな楽園となり、四季折々の実りある国へと繁栄していく。
だが一つ大きな問題があった──。
魔獣を封印している神殿の結界が、なぜか三月しか持たない。
四季の変わり目に結界の効力が切れると、再び闇の扉が開いてしまう。
実はこれ、わざと翡翠の女神がしていた──。
翡翠の女神は大神殿に祀られたのはいいが、何十年も平和すぎてとんと退屈らしい。
気まぐれな女神は、時々人間と遊びたくなったのだ。
女神は彼等に伝えた。
「結界が消えちゃうと、再び魔獣たちがこの地に侵入してくるから気を付けてね!」と。
「はて? 女神さま。それはどういうことでしょうか?」
最初、神官たちは翡翠の女神のいってる事がわからなかった。
「そのうちわかるよ」
そう伝えるや否や、女神はそのまま祀られている石碑の中に飛び込み、女神の石像になってしまった。
「お、おい、翡翠の女神が石像になってしまったぞ!」
「そんな⋯⋯女神さまがいなくなって結界が消えたらどうなる?──またあの魔獣たちがやってくるのか!」
「おお、わしらはどうすればいいのだ!」
直ちに神官たちは仰天するや国王にその旨を伝えた。
慌てる王や家臣たち。
だが、翡翠の女神は石碑にメッセージを刻んでいた。
それを読むと──。
『我を呼びたければ、神殿の聖処女を創れ、魔力ある者なら我が碧き力を与えたもう』と。
つまりわかりやすくいうと
『神殿に聖女を立てれば、私がその娘と仲良く遊んで結界のサポートしてあげるよ!』というメッセージだった。
こうして王宮内の人々は大神殿で魔力のある聖女を育成し始めた。
初め家臣たちは「別に聖女でなく神官でもいいだろう」と、魔力ある神官を選んで結界を張らせたが駄目だった。
神官、つまり男では翡翠の女神はうんともすんとも反応しない。
女神の望みはあくまでも女人それも乙女、つまり“処女”だった。
またいくら魔力が強い聖女でも、翡翠の女神から愛されない聖女だと“碧き力”を与えなかった。
聖女と翡翠の女神像が融合して初めて神殿内に結界が張れるのだ。
いつしか人々は女神に選ばれし者を『大聖女』と呼ぶようになった。




