01. 翡翠の女神と魔物と聖女
※ 今回、残虐なシーンがありますのでご注意ください。
※ 2026/06/2 加筆修正済み
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妹のカミラは幼い頃から尋常でない魔力があった。
それはダイアナ以上の魔力だ。
ダイアナとカミラは孤児院のシスターの推薦で、聖教会で魔力測定に参加した。その結果、二人は高いパワー数値が判明した。
ダイアナは八歳、カミラは七歳。
こうして二人は大神殿の巫女に合格したのだ。
巫女は大神殿の聖女になる為の見習いの名称だ。
そもそもこの王国にどうして聖女が誕生したのか?
聖女とはどういう女人を指すのだろうか。
◇ ◇
まだ国すらなかった遥か遠い昔──。
緑豊かな肥沃の大地に人々が平和に暮らしていた。
しかし、いきなり地底の冥界に棲む巨大魔獣が続々と侵入してきて、人々の暮らしを破壊した。
人間はあっという間に魔獣たちの餌食にされた。
魔獣は人間が大好物だった。
人間は巨大な魔獣から見たら、ネズミほどの小さき弱い獲物だ。
「グアアアアアァァァ──ッ!」
「グオオオオオオォォォ──ッ」
巨大魔獣は 凄まじい雄叫びを天高く轟かせた。
爬虫類を巨体にした姿で、鋭い牙のある前足で人間を掴み、ガマ蛙みたいな大きな口を開けて、次々と人々を飲み込んでいく。
咀嚼はしない、ただ人間を飲み込んでいくのだ。
「「ぎゃああ、助けてくれええ!!」」
今日も人々が魔獣の餌食にされていた。
人々は魔獣の襲撃に阿鼻叫喚し、村落の家々も家畜も全て破壊されてしまう。
もう森に逃げるしかなかった。
森林に逃げこんだ人々は、巨大魔獣の前足の鋭い爪が届かない洞窟に隠れて、かろうじて生き延びた。
多くの友や家族を失った悲しみの弔いの中、人々は怒りと復讐で天を仰いだ。
そして彼等は天上にいる土地の守護神に祈りを捧げる。
「どうか、どうか古から続く我ら土地の守り神よ、お願いです。悪しき魔獣たちを成敗してください!このままでは貴方様が創ってくださった大地が魔獣に破壊されてしまいます」と。
人々は自分たちで作った穀物も一切食べずに、天上の神に供養し毎日、毎日祈り続けた。
ある日彼等の願いが通じたのか、突然──破壊された村の中心部に、ゴゴゴゴーッと地底から遥か大きな神殿が出現する。
「あひゃ~、なんつう大きな神殿だろう?」
人々が大神殿内に恐々と足を踏み入れると、いくつも部屋があった。その中に村の水瓶ほどある大きな水晶が置いてあった大広間。
七色に輝く水晶から、突如として全身が翡翠輝石の女神が現れた。
「あん、オジサンたちがあたしを呼んだのかい?」といって微笑んだ。
女神は彼らの惨状を理解するや否や、急に瞬間移動して魔獣の前に現れた。
そしてあっという間に暴れていた巨大魔獣たちを、いとも簡単に屈服させた。
女神は黄金の縄でぐるぐる巻きにした魔獣たちを鼻歌を歌いながら神殿まで運ぶと、大広間の六芒星のサークルの真ん中に置いた。
すると女神は空中に、冥界へ続く闇の扉を開けた。
翡翠の女神がふっと息を吹きかけると、その途端に魔獣たちは扉の中へと、スイスイと面白いように吸い込まれていった。
女神は最後に神殿内に大きな結界を張り、闇の扉を消した。
「はい、おしまい!」と女神は笑った。
こうして女神は魔獣たちを、彼等の棲む冥界の国へ閉じ込めて封印したのだった。
※ ※
あんなに恐ろしかった魔獣を、幼女が遊ぶように成敗した翡翠輝石の女神。
「女神さまは、なんたる強さだ!ありがとうございます。ありがとうございます!」
人々は彼女に心から畏敬の念を込めて、深々と感謝の土下座をした。
「たいしたことないよ。ああ面白かった!」と翡翠の女神はケロリといった。
その後、女神が棲む大神殿を中心に人々が集まり、村は栄え町もでき人々に格差が生まれていく。
そして貴族が支配する社会となり貴族の中の長、王が誕生して王国ができた。
国の名は翡翠の女神の敬愛する意義も込めて、ジェダイト王国とした。
ジェダイト王国は緑豊かな楽園となり、四季折々の実りある国へと何十年と繁栄していく。
だが一つ、大きな問題があった──。
魔獣を封印している神殿の結界が、なぜか最近は三月しか持たない。
四季の変わり目に結界の効力が切れると、再び闇の扉が開いてしまう。
実はこれ、わざと翡翠の女神がしたのだ。
女神は大神殿に祀られたのはいいが、平和は退屈で人間と遊びたくなったのだ。
女神は彼等に言った。
「結界が消えちゃうと、再び魔獣たちがこの地に侵入してくるから気を付けてね!」と。
そう伝えると女神はそのまま祀られている石碑の中に飛び込み、女神の石像になってしまった。
仰天する国王や臣下たち。
「おい、翡翠の女神が石像になってしまったぞ!」
「そんな⋯⋯女神さまがいなくなって結界が消えたらどうなる?またあの魔獣たちがやってくるのか!」
「おおお、わしらはどうすればいいのだ!」
慌てる王たち。
だが、翡翠の女神は石碑にメッセージを刻んでいた。
それを読むと──。
『我を呼びたければ、神殿の聖処女を創れ、魔力ある者なら我が碧い力を与えたもう』と。
つまり「神殿に聖女を立てれば、私がその娘と仲良く遊んで結界のサポートしてあげるよ!」というメッセージだった。
こうして王宮内の人々は大神殿で、魔力のある聖女を育成し始めた。
初め家臣たちは「別に聖女でなく神官でもいいだろう」と、魔力のある神官を選んで結界を張らせたが、ダメだった。
神官つまり男では翡翠の女神は、うんともすんとも反応しない。
女神の望みはあくまでも“聖処女”だった。
また翡翠の女神から愛されないと、いくら魔力が強い聖女でも“碧き力”を与えはしなかった。
聖女と翡翠の女神像が融合して、初めて神殿内に結界が張れるのだ。
いつしか人々は女神に選ばれし者を『大聖女』と呼ぶようになった。