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追放された大聖女。王子よ、なぜあなたはあと一年待てなかったのか! そして義妹よ、あなたは大聖女の仕事を何もわかっていない!  作者: 星野 満


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10/22

09. 刺客男との交流

※ 2025/6/3 加筆修正済み



◇ ◇ ◇ ◇


   

 ダイアナは燃えるような(みどり)色の眼で若い剣士を睨んだ。



「おやめなさい、これ以上の殺生は私が許しませんよ!」


「大聖女様……」


 

 剣士はダイアナに言われると不満げに、腰の鞘に光る剣を収めた。

 


 剣士はまじまじとダイアナを見つめた。

 

 眼の前のダイアナは両手を横に伸ばして、瀕死の男を庇うように仁王立ちしている。


  

 その時──陽光が再び森を明るく照らしだした。


 

 

 マントのフードを外したダイアナの黄金の髪が、風に波打つように揺れた。

 

 

 それはキラキラと木漏れ日に反射して絹糸のように美しかった。

 ダイアナのキリリとした翠色の瞳は、宝石のように爛々(らんらん)と輝いていた。



 剣士は思わずダイアナを見て

「綺麗だ…………」と溜息混じりに呟いた。

 

 

 ダイアナには、周囲を圧倒する荘厳な美というか、聖処女だけの内面から輝く美しさがあって、彼女を初めて視た人は殆ど目が釘付けになってしまう。

 

 

 剣士はダイアナの高貴な美しさにうっとりしたのか、顔が真っ赤だった。


 それでも剣士は我に返ると、喉元をひっくり返したような声で


「あ……あ……貴方を殺そうとした奴ら……です⋯⋯よ」とたどたどしく言った。




──は? あらら、この剣士って……


 ダイアナは先ほどの殺戮マシーン化した強面の剣士が、なぜか今は真っ赤な林檎顔をした子供みたいに見えて、そのギャップがとてもおかしかった。



「──見知らぬ御方。私を助けてくれた事には感謝します。けれども人を簡単に殺してはなりません」


 逆にダイアナは剣士に微笑みながらも、刺客への殺傷を咎めた。



「……ですが……貴方を殺そうとした……」


 剣士は同じ言葉をたどたどしく繰り返したが、ダイアナの微笑みにドキッとしてますます林檎顔になる。



 ダイアナは返答せずに瀕死の男の傍らに膝を付いて、男の服を脱がせにかかった。



「え、大聖女様、何をする……あ、なさるのですか?」


「この人を助けます!」


「ええええぇ──! こいつはさっきまで貴方を殺そうとした奴ですよ!」


「死にかかっている人を放ってはおけません。聖女として当然の義務です」


「はへぇええ……」


 

 呆れかえった剣士だったが、ダイアナの真剣な表情を見て押し黙った。



 ◇ ◇



 ダイアナはただちに瀕死の覆面男の衣服と、仮面を脱がせて回復魔法のヒールを施した。

 

 素顔を見ればとても若い男だった。


 ダイアナがヒールを施すと、剣士にざっくりと切られた背中の傷が見る見るうちに癒えていく。

 

 血だらけだった服や男の身体や顔も水魔法で血をきれいに流してふき取り、風魔法で乾かしていく。




「へえ、聖女のヒールって凄いもんだな……」


 ダイアナの手際の良さに、剣士は感心した。



 少し経つと死にかけていた男の顔色が正常になり、意識が戻った。


「大丈夫ですか?」


 ダイアナは優しく彼の頭を起こして、水筒を背嚢から取り出すと、水魔法で水を入れて男に飲ませた。



「あ、ありがとうございます。聖女様……」


「気が付いて良かった…他の人は瞬殺だったけど……あなたは致命傷ではなかったから助けられたわ」



「ああ……私はあなたを殺そうとしたのに……何て事を……すみません、すみません、あなたはまさに大聖女様だ……」


 刺客(しかく)の若者は涙を流してダイアナに心から詫びた。



「良いのです。あなたの命が助かってよかった……」

とダイアナは微笑んだ。



◇ ◇



 そしてダイアナは刺客の若者から身の上を聞いた。


 若者はヒルロット、通称ヒルと言った。


 

 神官たちの護衛騎士の一員だったが、腕が立つので強制的に神官長に今回の刺客を命じられたという。


 

 彼には断る(すべ)はなかった。

 

 護衛騎士の職を取り上げられたら、田舎にいる病気の母親に仕送りができないというのだ。



「もし、このまま王宮に帰っても大聖女殺害失敗したと報告したら、私は神官長から首を言い渡されるでしょう」

とヒルは悲しげに発した。



「そりゃ、聖女の刺客なんて引き受けるから罰が当たったんだ、命が助かっただけ()()()()()()思え!」

 

 剣士は少し離れた切り株に腰を下ろしていた。


 お腹がすいているのか、春林檎を(かじ)りながらもぐもぐと喋る。



「ちょっと、貴方は口を挟まないでちょうだい!」


ダイアナが注意すると剣士は「へいへい」と首を縦に振った。



「では、この度の私への刺客を仕向けたのは、神官長からの命令なのね」



「はい⋯⋯そうだと思います。神官長は昔から日和見主義の男で、政務代行となったアレックス王子に媚を売っておきたかったのでしょう」



「あ、黒幕は神官長だと!あの老害糞野郎、今から馬でひとっ走りしてきて、俺が首切ってこようか!」



「ちょっと、貴方は口を挟まないでって、さっき言ったばかりでしよう!」


「⋯⋯スンマセン」


 剣士はダイアナが自分に本気で怒った口調だったので、少ししんみりした顔になる。



「ねえ、ヒルと言ったわね、正直に話してくれてありがとう」


 ダイアナはヒルが正直に内情を話してくれたので、当座の生活費として金貨を数枚渡した。


「えっ、大聖女様、こんなには頂けません!」



「いいのよ、それと薬草もひと月分渡すわ。この薬草は万能薬だからお母様にも効くと思うわ。これを毎朝一回煎じて飲ませなさい──貴方もほとぼりが冷めるまで、一時お母様の所へ身を寄せてなさい」と指示した。


 そしてダイアナは自分が王宮に戻った暁には、必ずヒルを呼び戻してあげると約束をした。

 


「大聖女様、このご恩は一生忘れません! ありがとうございました、ありがとうございました!」


 

ヒルは何度も何度もお辞儀をして、そのまま森を離れていった。





 ダイアナは他の斬られて死んでいる者の傍に行き、彼等を再度、確認した。

 

 残念ながら、いくら大聖女でも死んだ人間を生き返らす事はできない。




──それにして凄いわ、どれも、一太刀で急所を斬っている。


 ダイアナは自分の後ろから距離を少し置いて、立っている若い剣士を改めて凝視した。




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