63話 どういう意味だ
周囲は廃墟のようになっていた。
地面はめくり上がって俺を中心に大規模なクレータが出来ており、周囲の地面もヒビや瓦礫でまみれていた。
ミサイルでも直撃したのかと思うくらいの惨状を見て俺は少しだけ頬を掻く。
「ちっと、やりすぎたか?」
とはいえ、出来るのがそれぐらいだったのだから仕方ない。
……アリスの生死が少し心配だ。
言っておくが少し、というのは心配していないわけじゃない。
あんな威力の技を撃っておいて、と思うかもしれないが。
そもそも死にそうになったら審判が助けてくれるはずだ。
殺すなよと言ってたしな。
「しかし……誰も居ねえな」
ここから観客席は見えない。
だから観客のことじゃなく、アリスや審判の姿もなにもないからだ。
勝ち名乗りなり、生きていることをアピールするなり、そういう事があってもいいと思うが。
と、そこまで考えてふと気づいた。
「リズ?」
反応は、無い。
「トゥールー?」
こちらもだ。
手に持った剣と身体にまとったコートはそのままだ。
別にカルネージが解けているわけではないが。
「アイツら毎回反応ねえのな」
もはや当てにしなくなってきた俺は一つため息を吐く。
「しかし、本当に誰の姿もないが……どうりゃいいんだ俺は」
うーんと悩んでいる時、ざわりとした感覚が走る。
「魔王剣」
「待て! 魔法を撃つな!!」
現れた一人の男。
あの審判の姿でもないし、闘技場では見た顔ではない。
「ふう……寿命が縮んだぞ。ゴホン、えー私は新王杯の係員だ」
「係員? 審判じゃなくて?」
「あー審判であるハイテルテルネス殿は所要で外しているらしくてな、私が告知をすることになった」
審判が所要で外すっていいのかよそれで。
職務責任とかさぁ、ねえのかね。
「ゴホン、えー先程対戦相手全てが転移された事が確認された。よって、ミヅキユウ選手の予選勝ち抜きを伝えに来た」
咳払いと共にそんな勝利宣言をする。
……なんというか、もっと盛り上がりを期待していたんだが。
「はぁ、どうも……」
「嬉しくないのかね?」
「いやまあ、嬉しいは嬉しいですけどね」
まあ、あくまで感情の問題だ。
勝ち進めた事自体は、歓迎するべきことだし問題はなにもないな。
結果からすれば新しい力を手に入れたわけだし。
「出口はあちらだ」
そう言って指を指す。
そこは瓦礫に埋まっており、とても入り口や出口の役割を果たせそうにはまるでみえない。
「瓦礫まみれなんだが、吹きとばせと?」
「…………」
目をそらす係員。
「アンタはどうやって入ってきたんだよ」
「観客席から結界を空けてもらってな……そういえば私も帰りの事は考えていなかった」
ハハハと空笑いする。
「アンタ、まさかと思うがアリスだったりしないよな、偽係員とかさあ」
「馬鹿な! 私はれっきとした係員だし、勿論参加者でもない」
「ふうん、まあならいいんだけど」
さて、入り口を空けないと行けないが……
流石に魔王剣はやりすぎか。
「アルトリウス」
言葉と共にコートが消え、剣が元に戻る。
カルネージの難点がコレだな。威力が高すぎる所だ。
「んー……結構埋まってそうだな。仕方ねえ」
アグリシアを撃って入り口の瓦礫をどける。
と言うか消し飛ばしたようなものだが。
結果として入り口がちゃんと空いたので良しとしよう。
「……アンタもついてくるんだね」
「そうしないと出れないからな」
入り口に歩き出す俺の後を付いて来る係員。
嘘じゃないのは間違いないんだが、なんか疑心暗鬼になるんだよな。
普段からこうだったか、俺?
「っと、ようやく外に出れたな」
入り口を抜けると最初の受付をした場所へと戻ってきた。
そこには人は誰も居なかった。
「誰も居ないんだな」
「うむ、観客は大部分逃げてしまったこともあるが、観客席から下に降りると、ここは少し遠いからな」
どうやら観客席からは遠い場所らしい。
てっきりあの三人が居るかと思ったが。
「さて、私はまだ職務があるのでな、これで失礼する」
「あぁ、どうも。お疲れです」
ねぎらいの言葉を掛けるとふっと笑って手を降ってくれた。
とりあえず俺も手を振り返す。
「さて、どうするかなあ」
選択肢としてはここで待つか、観客席に向かうかだな。
とりあえず一旦三馬鹿と合流したい。
「しまったな、観客席の場所を聞いておけばよかった」
振り返ってももう姿はない。
後を追うか?
そう思った時だった。
「ユウ君、だね?」
声をかけられる。
声をかけてきたのは見たこともない男だ。
「失礼、私はハイテルテルネスだ」
帽子に手をかけながらそんな挨拶を交わしてくる。
ハイテルテルネス……どこかで聞いたような……あぁ。
「ハイテルテルネスってあの審判か。にしては顔が違う様な」
そんなに気にしてみていわけではないので正直顔はうろ覚えだが、もう少し若かったと思う。
眼の前の男性は初老、といえばいいのだろうか。
だがよく見れば、帽子は違うが確かに同じ軍服のようなものを着ている。
「いや、審判のハイテルテルネス・ゴーストウォーカーとは違う」
男はそう言って近づいてくる。
一瞬警戒をする。
危険は、なさそうだが。
……いや何で警戒をするんだ。少し、俺は人を信用しなさすぎじゃないのか。
あの係員といい、どうにもこう、感情が悪い方向に向かっている気がする。
いかんな、コレも全部アリスのせいだろう。
色々害悪戦法しやがって、後で覚えてろよ。
「私はハイテルテルネス・ルートウォーカー。巷では、悪辣一皇と呼ばれている」
悪辣一皇には聞き覚えはないが、いわゆる二つ名だろう。
以前聞いた限りでは二つ名を持っているのは強い、あるいは偉業をなしたと聞いたことがある。
つまりそれなりに偉い人なんだと言った認識しかしていない俺だったが、そう考えると何故俺に声をかけてきたのかが疑問だ。
なのでそのまま疑問をぶつけてみることにした。
「はぁ……そんな人が俺に何かようですか?」
「あぁ、いや、別に私は用事はないんだが」
ますますわからない。
用事がないなら何故俺に会いに来たのか。
そう言いながら近づいてくる男は俺の何故か横を通り過ぎる。
その瞬間に小さく、だがはっきりと聞こえた。
「───鬼と悪魔とヒトカタを誘拐した私に、君が用事があるのではないかと思ってね」
『TIPS』
もしも荷物を捨てて逃げれるならばそれがどんなに大事な物であっても捨てるべきだ。
だがその荷物が命よりも大事な物だったなら命を捨てるべきだ。
どちらも選べない者は両方共取りこぼす。
そう世界はなっている。そう、世界は悪辣に満ちている。




